【見えざるものの考察】 - 朝日山萬歳楽院法圓寺

真言宗豊山派

【見えざるものの考察】

はじめに

　令和2年の今日、まさに、新型コロナウィルスの爆発的感染の脅威に曝されているさなか、私ども
人類に一体何が問われているのだろうか？

　これまで、多様な法縁により巡り会うことができた宗教哲学の中で、いくつか気になるものがあり、
それらの見解について、探究を加えながら、今日の人類が直面している問題を見極めることができれば
と考える。

　こうした問題を考えるに、小生は、仏教系の宗教学を学ばさせていた経緯もあって、特定の宗教や信仰
のドグマ性に介入せず、気になる宗教的見解について自由に触れ、扱ってきた。

　しかし､そうはいえ、気になるものはいずれも「超越したものの世界を開示する覚者としての教示」であり、
正直、畏れ多いことではあった。到底、蒙昧なる自分の思議の及ばぬものばかりであり、門を叩けども、
開くことはおろか、おそらく、何百回と生まれ変わっても理解の及ばぬものばかりである。
　ただ、単純に、直感的に、「何かある！」という気がして、気になるものであった。
　
　気になる背景に、「何か急がないと間に合わない！」と急かされるものがあることは確かであった。

「人類の危機」という言い知れぬ恐怖のようなものがあって、これをどう見つめていくべきか。

　そうした問いが根底にある。

『求道者の全一なる帰依』に関する考察

　ここでは、シュリー・オーロビンドの『聖なる母』とりあげるが、
まず、大聖オーロビンドの教学を云々できるものを小生は持ち合わせていないことをはじめにお断りしておく。

　その上で、不遜を顧みず、ここに、大聖をとりあげるのは、不可思議なる御導きによるものと解し、また、
この『聖なる母』に触れて、やむにやまれぬ、懇願にも似た、探究の求道心に火がついたからである。

　そもそも、『求道者の全一なる帰依』は、
『梵我一如への方法論的集大成』（シュリ・オーロビンド著）から小生が抽出したものだが、
これは、或る高徳の精神科医が愛読されていた蔵書の内から数十冊頂戴したものの中に混じっていたものである。
この医学博士は大学教授を退官された後、ご夫婦で京都に移り住まわれ、学究と参禅の日々を過ごし、質素なものであった。
　実はこの教授からいただいた書籍の中に、読み古されてボロボロになりかけてる薄い新書版ほどの英語の書籍があって、
教授に確認すると、それだけは持参して京都に移るつもりのものだといって、すぐにしまわれた書籍であった。
　それほど大事にされている本は何ですか？とたずねると、「ラーマクリシュナ」のものであるとのことだった。

　それはともかくとして、
　さて、ここで述べられている『求道者の全一なる帰依』は、小生がこれまでの人生で見据えてきた
「求道と信仰の根幹」を激しく揺さぶるものがあったものである。
　
　それは、まさに、小生自身の今の無知蒙昧性を激しく打ち据えるものであり、しかも、無視することのできない、
　真摯なひびきを感じるものであった。

　よって、ここでは、オーロビンドの考察を「ブッダ親説」に絡めて、真理探究の礎とせんことを願ってのものである。
　

文献『梵我一如への方法論的集大成』シュリ・オーロビンド著。金谷熊雄訳。永田文昌堂発行1962年6月1日。

まず、『聖なる母』から、重要な示唆を挙げておく。

　下方から呼ぶ不断にしてゆるがぬ切願、上方から応えたもうこよなき恩恵
　このふたつの力が不ニ一体となつて、はじめてわれらが努めてやまないかの目標、大いなる雖事がここに成就する。

　とはいえ、こよなき恩恵は、光明と真理を縁として注がれ、虚偽と無知の諸縁から生ずるものには注がれない。
恩恵が虚偽のもとめに応じてこたえねばならぬとすれば、それは恩恵みずからの目的をすてることになろう。

　このふたつの力は、光明と真理を縁とし、ただこれを縁としてこよなき力用が天くだるのである。上方から天くだり、
下方から開くこのふしぎな力がわが身体にうつる自然を御し、その障りを払い去る。

　帰依は全一にして真摯でなければならない。ひたすら浄くこよなき力に全托することである。
われに下りくる真理をひたすら、しかもたえず望むことである。
また地上を風靡する分別心と活力とからだのはたらきと、その様相を拒けることである。

　帰依は全一でなければならないわが存在のすべてを把握するもの。
ただの知的呼応ではない、高き知性の承認だけではない、ただ内なる活力の服従、ただ内なる身体の威庄を感ずるだけではない。

　存在者のひとすみにも、いなその端くれにも、一物の保留をゆるさない。
疑惑と困惑と言いのがれのかげにかくれて、逆らうもの、拒むものをひとかけらも保留することも許さない。

　たとえ、わが存在の一部がついえ去るも、他の一分をとどめ、我情に執らわれ、我性を縁とするかぎり、
そのつど、われみずから恩恵を拒けていることになる。

　帰依と、捨身にかくれ、我意の固執を掩い、活力のおもむくところを蔽し、これを真の切願に替え、
あるいは、固執と切願を混淆しながら、その責めを聖なる母の力（シャークティ）に転嫁し、
わが心身の改変、転化を希って、聖なる恩恵をいのるも無用である。

　わが一面を真理に向け、他の一面を常に嫌うべきものの窓口に向け、恩恵の宿りたまえと願つても無駄である。

　宮居に神鎖まりたもうを願えば、まずその宮居をきよめなければならない。

　聖なる力わがうちにいりきたり、常に真理のあらわれきたるも、聖なる力に背向けて、ひとたび拒けた虚偽に、ふたたび呼びかけるごときは、
その挫折の責めみずからの詐りこころの負うべきであり、これ帰依の全一性を欠けることにあって、恩恵にあるのではない。

　真理をもとめ、真理に呼びかけながら、
依然、うちなるものが虚偽と無知と汚染をえらび、いさぎよくこれを捨て去らねば、常に身は攻撃にさらされ、恩恵はしりぞく。

　まず内なる虚偽と蒙昧を見究め、これをねばり強く捨て去らねばならない。
　このとき、はじめて聖なる力に呼びかけ、転身を希うことができる。

　真理と虚偽、光明と暗闇、掃投と我情は、神殿中に共在すると思い違ってはならない。

　転身はこれ捨身であり、捨身はこれに逆ろう一切を捨離することである。

　聖なる力は、わが願いをかなう。至高なるものの施設に心満たざるものがあっても、わが願いは、かなえられるように施設されている、
　という謬見を去れ。

　帰依し真実にして全一なれば、そのときこそ一切の願事はかなえられる。

　また聖なる力、われを帰投せしむ、というような虚偽を捨て去れ。

　至高なるものは帰投を求めたまうも、強いて帰投せしめんとはしない。

　いついかなるときも改変することのない転身成就の暁にいたるまで
思いのまま自由に、聖なるもの拒みしりぞけ、よしみずからよしとして、業果に苦しむとも。人は自業の
果てを想起できょう。帰投は、みずから帰投することであって、他からしいておしつけるものではない。

　帰依は生々発刺としたものであって、惰性的ないし自動的機械のごときものでない。

　惰性的受動性は、ともすれば真の帰依と混同されるが、これからは真なるもの、力強きものは生れでない。
　これを曖昧にし、汚染にまかすのは（身体的物理的）自然の惰性的受動性に因る。

　法悦と力を与える帰依は、
　聖なる力用の活動に、輝かしい真理の使徒に、朦昧と虚偽に挑む内なる兵士に、そして忠実な神のしもべの素純さに求められる。

　帰依の心を内持するものは、
　失望に挫けず信仰を持ち続け、試練を経て、至高の勝利と偉大なる転身に至る。

以下、龍雲の所見
　
●「切願と恩恵」ということは、この地上にはこびる苦悩と恐怖からの救済と神の無限の愛の恩恵の加護を求める祈りの本質をあらわす。
　これを仏教では加持護念、あるいは加持祈祷と表現している。
　真言密教ではこれを「為我功徳力、如来加持力、及以法界力、願成安楽刹、普供養而住」として、
　自身と如来と法界（自然界）との加持護念の調和がはかられることを祈願する。
　故に「切願と恩恵」は仏教における「誓願と慈悲」にあたるであろう。

●「全一」にして「全托」
　全一とは分断が無いこと。「二のない一」としての全なる一者。
　分断とは自他の境界を設ける自我の働き。

　あらゆるものは、普遍から局所化した一個の全として出現している。
ミクロの粒子にしろ、マクロの無限の大宇宙にしろ、
すべては「一者」としての統合性を保持しているがゆえに、現象化が起きている。

　この全一性は存在のすべてに透徹しているもの。
局所化した個々が、この全一性を見失い、自我に収縮し、固着し、執着し孤立、孤独化することを分断という。

　すべてに通徹する全一性を見失うことが分断であるならば、
　先ず、全一性を見失わせる、自己中心性のあるがままの実態を自己凝視しなければならない。

　孤立する者同士がいかに徒党を組み互いに依存しようとも、所詮、孤立・分断の種を宿しており、
　やがて、更に、深い分断を引き起こす。

　孤立をもたらし、蒙昧な、自己中心性、欺瞞性、狡猾性、怠惰、搾取、傲慢、依存による腐心、機械的に停滞しきった所業など、
数限りない自己のあるがままの姿を凝視観察すること。

　この自己凝視による観察と気づきが、我の虚妄性に終止符を打ち、隠されていた真の全一性が自ずと現れる。

　局所化されたものが全一性に気づき全一性のままに生きることをこそ「全托」であろう。

　ゆえに、「おのれを無にする」とか、「おのれを空にする」というあり方で注意が必要なことは、
「無でないおのれを無にする」というときや、「空でないおのれを空にする」というとき、意図があるならば
たとえば「ダメな者からマシな者へ至ろうとする」自我による意図が働いているようなものであるから、
これは、仮に意図してそのような境地を得たとしても、そもそもが、「無」でも、「空」でもなく、まして「全托」でもな
く、自我のはたらきによる「欺瞞」に陥っているのである。

　この世に生を得たわれわれにとって、なにより大切なことは、「局所化されたものの中に現前する全一性の覚醒」にあるであろう。

　なぜなら、そもそも、全一性に分断はなく、全一性から出現している局所性にも、そもそも分断はないものである。

　しかし、分断は無いからと言って、分断化している現実を無視できるものではない。
　何が分断を引き起こすのかを直視したうえでの気づきであり、その気づきの前に自我は自ずと消えるのである。

　局所化に求められているものがあるとすれば、分断や固着、孤立ではなく、
　全一なる大宇宙、大自然会における個々の生命の全一なる自立、独居にほかならないのであろう。

　即ち、局所が分断されるということは、全世界が分断されるといっても過言ではない。
　故に、局所化されたものの覚醒が必要なのであろう。

　局所性が全一性と全く調和し、その中で独自性を発揮していることが実は全托なのではないだろうか。

　全托は、なにも局所性を放棄することではないし、まして、局所から全一へ成り行こうする動きそのものは欺瞞に行き着く。
　局所が全一でない限り、分断された局所、即ち、自我が残るのである。
　道元禅師が「即身成仏」は「即身是仏」ではないと指摘される由縁である。

　もちろん、真言密教における即身成仏も、このような自我の作用を滅したところにある。
　更にいうならば、局所性が「遍満する光り輝くものの源泉」に触れ、「自ら光り輝くものとし全的に活動する」ことである。

　さて、ここの主題は、

　自我を如何に全一に近づけようとしても、自我を元にするかぎり、自我を離れないということである。

　自我という全一ならざる局所の分断がある限り、全一と局所は分離したままである。
　如何に巧妙に全一性を標榜しようとも、分断化した局所性に神性を見ようとも、分断である自我がある限り欺瞞に行き着く。
　
　しかし、分断のない局所。そこに透徹した全一性がある。故に、局所性の分断に気づくのは全一性であり、
分断をもたらすものへの気づきこそが全一性を証すものである。

　したがって、分断をもたらすものの気づきのないところに全一性はなく、全托もない。
　全一性と全托は局所自身の気づきに依るのである。
　局所性のないところに気づきはなく、気づきがなければ分断があり、全一性は顕れない。　　

　したがって、前述の「為我功徳力、如来加持力、及以法界力、願成安楽刹、普供養而住」の三力加持は全一性への気づき、
ひたすらなる自己凝視、内観による気づきを示すこととなる。

　ゆえに、ただ、三力偈頌を読み上げただけでは、ひたすら神や如来を念じたことにはならない。
　内観による自我の気づき即ち如実知自心がなければ、虚妄に至るしかないことは自明の理である。
　　

　口先だけの懺悔の文や悔い改めや宗教的権威による裁きは、そもそも欺瞞であることは、ここで指摘するまでもなく誰でもわ
かることである。
　そのような欺瞞性は神や仏のなし給うところには非ず。分断した局所性の自我による迷妄にすぎない。
その迷妄に気づくこと無しには、悔い改めも、献身的帰依も、全托もないことは、動かしがたい事実であるように思われる。

　　さて、この観点から、オーロビンドの示唆から、自分自身をありのままに観察すると、うなるであろうか？
　
　●虚偽と無知の諸縁に依存している。

　●地上を風靡する分別心と活力とからだのはたらきと、その様相を実体視し、囚われている。

　●疑惑と困惑と言いのがれのかげにかくれて、真理に逆らい、拒む。

　●我情に執らわれ、我性を縁とし、みずから恩恵を拒ける。

　●帰依と、捨身にかくれ、我意の固執を掩い、活力のおもむくところを蔽し、これを真の切願にすり替え、
あるいは、固執と切願を混淆し、わが心身の改変、転化を希う自己欺瞞者である。

　●常に嫌うべきものの窓口に向け、恩恵の宿りたまえと願つて聖なる力に背向けて、拒けるべき虚偽に、繰り返し呼びかけて信仰を捧げたつもりでいる。
帰依の全一性を欠く、自己欺瞞の最たるものである。

　●真理に呼びかけながら、依然うちなるものが虚偽と無知と汚染のままである。

　●聖なる力によって、わが願いは、かなえられるように施設されている、という傲慢な謬見を懐く。

　●聖なる力われを帰投せしむと、自身に蓋をし、他力全托の虚偽に陥っている。

　　●帰依にせよ、祈るにせよ、惰性的ないし自動的機械のごとき繰り返しに堕して、眠り呆けている。

※これら内なる虚偽と蒙昧を見究め、これをねばり強く捨て去るには、あるがままの自己凝視すなわち内観に依る自覚が必要である。
あるがままを観察し、凝視することで、心は清浄となり、このとき、はじめて聖なる力に呼応し、転身する。
　「如実知自心」とは、自身の蒙昧と虚偽に挑む内なる自己観察力にあるのではないだろうか。

　さて、ここで、『クリシュナムルティの瞑想録』（J．クリシュナムルティ著　大野純一訳　平川出版）から
インドにおける講話の一節を引用しておきたい。
　
　というのも、ラーマクリクリシュナやオーロビンドの深い神との合一という古来からの伝統を継承する宗教
における体験や敬虔なる帰依の本質は、同様に、今日、日本における仏教特に真言密教の源流に通ずるものであり、
われわれにとって、決して無縁な境地ではないでないこと。
　しかし、その偉大なる聖者の前に、ややもすると、偉大なるものとの同一化をはかるあまり、信仰や宗教上の錯覚を起こし、
自己欺瞞に陥るのが現実であることを忘れてはならないからだ。

　J.クリシュナムルティの指摘は、釈迦牟尼ブッダに通ずる。
　見えざる神からの視線ではなく、実にひとりひとりの人間の視点に立って、本不生の覚醒を促している。
　ブッダ親説やJ.クリシュナムルティKの指摘が、単に伝統の否定であるならば、ここで取り上げることもなかったろう。
　偉大なる聖者や教師、大師たちの教説で、何よりも問われているのは、ひとりひとりの探求の眼差しであろう。

　妄信や狂信に眠っていてはいけない。目を覚ましなさい！と。
　
「真理は決して過去にはない。過去の真理は記憶の死灰である。なぜならば、記憶は時間の中にあり、
昨日の死灰の中には何の真理もないからである。真理は現に生きたものであって、時間の領域にはない。」

　ところで主張とは明らかにそれがシャンカラであれ現代の神学者であれ、いずれ想像力に豊んだ精神の
編み出した理論に他ならない。あなたは理論を体得し、まさにしかり、と言うことはできるであろうが、
それはちょうどカトリックの世界に生まれ育ち、その制約を受けた者がキリストの幻像を見るのと同じで
ある。明らかにそのような幻像は彼自身の制約条件からくる投影に他ならず、同様に、クリシュナの伝統
の中で育った者はその文化を基盤とした経験をし、幻像を見るのである。したがって経験は何ら物事の真
実を証すものではない。自らの見た幻像をクリシュナやキリストとみなすのは、結局のところ条件づけら
れた知識を反映しているのであって、それは経験を通じて強められた空想の所産であり、神話でこそあれ
何ら真実ではなく、全く無意味なものである。
一体に人はなぜ理論を求め、なぜ信念に固執するのであろう。この果てしない信念の主張の背後には日々
の生活、悲嘆、死、あるいは砂をかむような生の無意味性に対する不安や恐怖が潜んでいるのではなかろ
うか。
あらわな現実を前にして、あなたは理論を考案する。そしてその理論は、いよいよ精妙さを増し深みを帯
びるにつれて重みを加えていき、数百、数千年にわたるプロパガンダを経るとその理論は必然的、かつは
愚かなことに〈真理〉として確立されるに至るのである。

　しかし、もしもあなたがいかなる教義も仮定しなければ、そのとき、あなたはあるがままの現実と対峙
する。
〈あるがままの現実〉とは思考であり、快楽であり、悲嘆であり、そして死の恐怖である。競争や貪欲、
野心や力への欲望、追求に満ちた日常生活の構造を理解するとき、あなたは理論や救世主、導師といった
ものの愚劣さを悟り、あなたの悲嘆や、思考が作りあげてきた全構造に豁然として終止符を打つことであ
ろう。そのような構造に貫入し、それを理解することが瞑想である。瞑想によってあなたは、この世が迷
妄ではなく、人間が他者との関係のうちに構築してきた恐ろしい現実であることに気づくであろう。あな
たの悟らなければならないことは、組織宗教や宗教団体における儀式をはじめとする諸々の付帯物を背景
にしたようなヴェーダやウパニシャッドの理論ではなく、赤裸々な現実なのである。

　人が恐怖や羨望、悲しみに突き動かされることなく、自由であるとき、そのときはじめて精神は安らか
で静謐である。そのときはじめて精神は日々の生活のうちに別々に真理を悟り、さらにはすべての知覚作
用のかなたに飛翔できる。そのとき見る者と見られるものという二元性は終焉する。
　けれども、これらすべてのかなたに、現実の混乱や闘争、虚栄や絶望と関わらない、始めも終わりもな
い流れ、精神がついにとらえられない不可測の運動がある。

「聖観世音菩薩」が、ともにある。

令和元年法圓寺勧請　令和元年歓喜寺勧請　令和元年法圓寺勧請
聖観世音菩薩　　　　　　聖観世音菩薩　　　　　隠れキリシタンマリア観音と厨子

「聖観世音菩薩」が、ともにあるから、みんな、こころを合わせて、活きたさまざななすがた
をして活動する菩薩方とともに、必ず、この未曾有の難局をのりこえられるであろう。

上記の勧請は、偶然とは思えないタイミングで同時に起こりました。
おそらく、令和の時代は信仰やイデオロギーを超えて　不生の仏心の法燈を絶やさぬよう
大慈大悲の聖観世音菩薩とともに不生の仏心であらねばならないという、如来さま方からのメッセージなのでしょう。
慄然たる想いが致しま
す。

参照
①念彼観音力　加持護念
https://drive.google.com/open?id=1pGPhVcpWN-Rf9hRRfmFxI7vZciCOXuMq

『半田山・アルナーチャラ山・萬歳楽山浄土曼荼羅戒壇』の不可思議

22

平成二十二年十二月上旬に、
「如来界からの働きかけが身に沁みて解る手はずを整えているから、ひたすら不動明慈救呪を常住念
仏するように、人々に知らしめなさい」という思いがけなさいい」という内示があり、それを裏付け
るかのように次々と、不思議なめぐり合わせが身辺に起きてきたのです。如来さまからいただいたと
思っている。

　まず、J.J.ハーッタック教授の『エノクの鍵』が手元に示された。その内容は驚愕せざるを得ない
もので、昭和51年小生のあるひとりの恩師が師の最晩年、小生に語っていた内容と酷似していたのであった。
しかし、これは秘伝で、理解しがたいものであったので、他にその内容に言及するものを全く見ていない。
　時が経つに随い、この恩師の話については、そもそも、ハーッタックの著書を見るまでは、
荒唐無稽なものだろうとさえ考えていたのであった。
　それだけに、『エノクの鍵』を見て、かつて、恩師が話していたことは真実味を帯びており、
もしかして、これは、人類にとって、切羽詰まったのっぴきならない事態が、今まさに進行しているのではないかという
緊張感が走った。そうした中で、この年の年末年始を迎え、元旦護摩に臨んでいた。

平成23年3月8日！あの「つくばい」に、再び、「氷の聖体」が出現した。平成20年2月以来のことであった。
にわかには理解し難い二つの氷のスフィンクスの身体のような「神の玉座」。
その側に「不死鳥」そのものが現れていた。この不死鳥は大天使メタトロンを示すので、尋常ならざるを得
ない事態がますます迫っていると感じていた。その矢先、であった！

平成23年3．月11日。マグニチュード9.0という巨大地震が関東・東北太平洋沖で発生、未曽有の大惨事となった。
更に、これに伴う原発の事故は最悪のメルトダウンと水素爆発を起こし、放射能汚染の重い課題を福島そのもの、
日本国土そのもの、地球上世界そのものが背負うという、大打撃を被っている。
余震が続く中、巨大地震と放射能汚染の恐怖に世界は怯えている。
　果たして救いはあるのか！

　そして、この間、小生に明らかにされた、見えざるものの示唆が頻繁に起きてきた。
それは、ゴーダマシッダールタ・シャカムニ佛、ナガールジュナ、シャーンタラクシタ、遍照金剛空海、
アルナーチャラ仙ラマナ・マハルシ、J,クリシュナムルティが指し示されるいわば「本不生の源泉」についてであった。
　曼荼羅界会と密厳淨土。ブッダやナガールジュナ、クリシュナムルティが示される阿字本不生は、
或るひとりの恩師がいのちがけで示唆してきた『人類の新復活』や、ケン・ウィルバーの『大宇宙の創発』の根底にある源泉であり、
「氷の聖体出現」によって証された証される『光り輝くもの』（遍照金剛）の始動に他ならなかった。

　平成23年7月であった。
　インドの大寺院やアシュラムの聖者たちによって、
「既にシバ神が日本の福島の萬歳楽山と法圓寺で救済に入っておられ、
　聖なる大寺院において、日本復興のための大規模なプージャとホーマ（護摩）が長期間にわたり捧げ続けられている。」
と全く存じ上げない方からの突然のメールまでもが飛び込んできた。

大光山正徳寺第4世良寛團秀代建立阿彌陀佛とご本尊との邂逅
　

　　　　
《大光山正徳寺第4世良寛團秀代建立阿彌陀佛とご本尊お体内に記された記録》

　程なくして、今度は、平成二十三年八月二十九日、突然、住職が辞任し失踪した寺から請われてそ
の寺に入寺することになった。その裏堂に、約三〇〇年ほど前の阿彌陀如来が祀られていて、なん
と！その阿彌陀如来の眼から頬に涙が流れているではないか。
　佛にワケをおたずねすると、この東日本の大震災に見まわれた人々苦しみや悲しみを深く思われて
のことであった。「幾重にも悲しみ苦しんでいるこの世やあの世の人々を救済している。どうか、
人々の目に触れやすい本堂外陣の一角に移して欲しい」と仰せになられた。
　　ところで、この阿弥陀大佛のご体内には以下のような墨書きが記されてあった。

享保六辛丑歳八月吉祥日（1721年）今から二八九年前に開眼の大佛）
　大安寺十世
　木蓮社良覚上人弟子
　大光山　正徳寺住職四世（無能上人は享保四年に遷化されているその二年後となる）
　想蓮社良環團秀代
　施主化者
　桑折町在住角田三左衛門

文政十二巳丑歳二月吉祥日（1826年）一八五年前に歓喜寺に御遷座）
　　　　　　宥政本尊持久
　湯野不動寺大阿闍梨法印宥精佛子
　　　　　歓喜寺五世法印宥政（宥政大和上は明治二年九月二十九日法圓寺にて遷化）

　誠に不可思議な佛縁。ここ三十数年来、小生にはっきり示され続けていることに『人類意識の変容
と変革』があったが、もう一つ、これまであまり触れなかった『全託なる不生心』である。全託なる
不生心とは、佛教でいう阿弥陀信仰そのものだが、昨年末に宣託が降りたあの真言の常住念仏すなわ
ちいつでもどこでも不生の佛心でいることである。
「ノウボウアルナチャラビジャランジャ」（不動明王のインド名）
「ノウマクサンマンダーバーザラダンセンダーマーカロシャーダーソワタヤウンタラターカンマン」
（お不動様のご真言、不動明王慈救呪）
　それに、このたび歓喜寺ご本尊の佛縁により、不動明王の火焔の慈悲救済の光である阿彌陀如来の
無量光の常住念仏「南無阿弥陀仏」の加持護念が加わる。
　困難な時代はまだ始まったばかり。これから、それこそプルトニウムの半減期に匹敵するほどの期
間、核戦争の脅威も含め人類はさらなる困難に直面する可能性は大。それらの計り知れない困難と危
機を乗り越え得るものは、「不生の仏心ただひとつ」であると、この阿弥陀佛は転法輪（この世に出
現、正法をお解きになり自覚をうなが）しておられる。

●朝日山法圓寺の「法」は「法眼」、「圓」は「圓明」、「寺」は「密寺」
すなわち「法眼圓明密寺」に由来しております。奇しくも、この寺の「ダンマの集い」におけるテー
マは、かの盤珪禅師の不生禅であり、法眼圓明に通ずるものであります。
朝日山の「朝日」は「大日如来」すなわち「阿字本不生密厳淨土」です。

●補陀洛山歓喜寺の「歓喜」は阿弥陀佛「歓喜光」、「寺」は「密寺」
すなわち、法眼圓明なる歓喜無量光・不生の仏心「自心即光」なるものです。
補陀洛山は「ポータラ山」すなわち「観音淨土」です

●大光山正徳寺は現在の浄土宗守一山無能寺の前身です。当時の寺伝によれば、「正徳寺は第四世に
して寺は衰微し、厳修念仏聖高徳の無能上人のご遺骨を正徳寺跡に埋葬し、守一山無能寺と改名し、
無能上人を第一世として寺院再興をはかった」とあります。が、なぜ、衰微し、不明とされている当
時の第四世住職が造立した立派な大仏、正徳寺本尊阿弥陀如来が、真言宗の歓喜寺に安置された（文
政十二年二月歓喜寺第五世宥政代）かについての詳細は不明ですが、ご本尊の体内に造立当時の年
月・住職・施主・寺院名さらには移設勧請当時の年月・住職・寺院名がそれぞれ墨書されておりまし
た。
この「大光山正徳寺本尊阿弥陀如来」は享保六年八月に「正徳寺第四世住職良環團秀」によって造立
された大光山正徳寺の本尊です。
　この事実を確認したのは現住職好久です。それまでは不明とされて、他宗の本尊として裏の位牌堂
に安置されておりました。
大震災以降ご本尊の直接のお声によって移座申し上げたところ、その事実が判明されたものです。震
災復興の慈悲救済済度ために、萬歳楽山「阿彌陀淨土」のご本尊といて、再びよみがえられたものと
して、「南無大光山正徳寺本尊阿彌陀如来」として法圓寺と歓喜寺とでもってご供養申し上げるもの
です。

　

奇しくもこの度の大震災による半田山のがけ崩れ跡は法圓寺から見ると「剣を持つ不動明王」に見
え、歓喜寺からみると「弥陀如来・観世音菩薩」がお立ちになって、まるで被災地を擁護されんとし
ておられるかのようである。

　以上の経緯からして「半田山・萬歳楽山山頂にアルナチャラ本初不生浄土曼荼羅が顕現」し、
潜象・現象のあの世この世を通して、世界にとって由々しき大問題を起こしている人類の文明を
大浄化せざるをえないプロセスが始動していること痛感している。
しかも、大浄化のプロセスは、根本的な人類の文明の有り様を問うものであり、
如来界からの慈悲救済の力を頂戴しなければ、人間の条件付けられた精神では、
この危機はとうてい乗り越えられないということであろうか。

平成二十三年三月八日の氷の聖体出現は「人類の破滅から救済すべき究極の大天使メタトロンとエノク」を顕し、
しかも「不死鳥」の如き「新復活・新生創造」シンボルである太陽系霊団の統帥大天使メタトロンの翼がはっきりと出現している。宗教や宗派を超越した現象が示されている。新復活のエネルギー不死鳥は
「本不生」を意味し、今や、私達一人一人がこの偉大な力が働いている事実を理解しなければならない時期に入った。
　『半田山・アルナーチャラ山・萬歳楽山浄土曼荼羅』の加持感応によって、必ず、復興できるもの
と信じて疑わざることを祈念し、法眼圓明密寺と歓喜光信受密寺の住職を兼ねる御佛縁を頂戴し、経
典を改訂した。
平成24年　正月元旦　記す

　あれから、令和6年の今日いたるまで、平成24年には考えも及ばなかった未曾有の困難に直面しているのである。

　　　　　　　　　　　　　　

『龍樹菩薩の中論』初考察

　１）なぜ、いま、龍樹菩薩の『中論』を考察するか。

　【それは、ひとえに、人類ひとりひとりが誰しもが考え気づかねばならない時代に直面しているからにほかならない！】

　ブッダや祖師先徳の衆生に対する教化の根本は、何といっても、「ひとりひとりの自覚」にこそあった。
　現代における仏教の重要なポイントも、ひとりひとりの自覚、
すなわち、われわれが自身が自己の欺瞞性や偽善性を理解し自覚することによって、無明から脱却し解放を得ることにあるとい
うことは、今更、申すまでもないことである。

　しかし、自分自身をふり返るにつけ、現代のさまざまな問題を見るにつけ、
現代はひとりひとりの探求心や思索（思惟）や瞑想（禅定）による「自覚のプロセス」が全くといってよいほど欠落している
と思われてならない。

かくいう小生自身がそういった大事なことができないまま今日に至っている。
それだからこそ、いかに探求し、自覚を得るかということをもっぱらのテーマとせざるを得ず、
それがまた自身のテーマとしても龍樹菩薩の『中論』を避けることができなかった。

　　２）クリシュナムルティの『星の教団解散宣言』

　そう考えるに至った直接のものは、忘れもしない、昭和46年、大正大学学部在籍のおり、「宗教教
育」の授業で配布された資料に「ジッドウ・クリシュナムルティ」のテキストがあった。この強烈き
わまりないく、美しく、目の覚めるような明晰性は何だろう・・・・。

　クリシュナムルティは一八九五年、インド・マドラス近郊のバラモン階級の家系に生まれる。
1909年より神智学協会の指導者リードビーダー等のもとで霊的修行を積み、ヨーロッパ留学後、
〈星の教団〉の指導者となった。その後真理の組織的追求に否定的となり、1929年教団を解散。以後、
人間の解放を目指し、幅広い著作・講演活動を続けている。
　著書『自我の終焉』〈篠崎書林〉、『自由への道』〈霞ケ関書房〉他多数。19860年没

　クリシュナムルティの明晰なコメンタリーは、従来の伝統的宗教が当然の如く培ってきた教理や信
条、あるいは一介のカリスマを中心として狂信的・妄信的に繰り広げられる自己欺瞞に満ちた宗教な
どを根底から覆すものであり、かなり、これまでの自身の宗教観からして、潜在的に抵抗を感じなが
らも、どこかで、（確かにそうかもしれないな）と思わせる「否定」の論考からみていくと、その当
時、自身が、きわめて深く首をつっこんで研究してきたカリスマ性の問題で、まのあたりにした「新
新宗教の発生と分裂の過程における自己欺瞞の問題」を考える上で、きわめて強烈な印象があった。

　そのときのクリシュナムルティのテキストは、『星の教団解散宣言』であったと思う。これは一九
二九年八月二日オーメン・キャンプ三千人以上の〈星の教団〉のメンバーを前にし、また、ラジオを
通してオランダ人に向けてなされた演説の内容であった。この〈星の教団〉は〈神智学協会〉のアニ
ー・ベサント夫人やW・Cリード・ビーダーによって見いだされたインド人少年クリシュナムルティが
マイトレーヤーの器として成長し、〈神智学協会〉がひたすら準備してきた「世界教師」がクリシュ
ナムルティに降臨するとの預言を受け、準備されてきた教団であった。
　〈神智学協会〉はマダム・ブラバツキーやオルコット大佐によって一八七五年にニューヨークに創
設された〈神智学協会〉で、宗教・科学および実生活の一体系をなす〈神智学〉をベースに、さまざ
まな時代、さまざまな土地での宗教の創設者や哲学の教師たちによって教えられてきた宇宙の究極的
真理の復興をめざした「宗教運動」であり、来るべき世界教師ロード・マイトレイヤー降臨に備える
ための協会として、世界中にロッジを構えていた。

　確か、「早朝、山の頂から悠然と峡谷を渡り、夕べに再び山の頂に帰り来たる
あの天かける鷲のように、人は独り、崇高な精神と何ものにも影響を受けない自
由なる精神をもち、自分自身の光であらねばならない。」
　という言葉から始まるテキストはきわめて印象的であった。しかし、クリシュナムルティに関する
書籍が一般書店に並べられるようになったのはここ数年のことである。

　ちなみに、『星の教団解散宣言』が紹介されている翻訳本に『クリシュナムルティの瞑想録』大野
純一訳・平川出版社や『クリシュナムルティの世界』大野純一訳・コスモライブラリーなどがある。
「前文略。私は言明する。真理は道なき領域であり、諸君はいかなる道、いかなる宗教、いかなる宗
派によってもそれに至ることはできないと。それが私の見解であり、私はそれを絶対的かつ無条件に
支持する。真理は無制限であり無条件のものであり、それゆえいかなる道によろうと組織化されるこ
とはできない。また、ある特定の道に洽って人々を導いたり強制したりするためのいかなる組織も作
られるべきではない。もし諸君がそのことを理解すれば、信念を組織化することがいかに不可能かが
おわかりになるであろう。信念は純粋に個人的なことがらであって、それを組織化することはできな
いし、またそうすべきではないのだ。もしそうすれば、それは死物となり、硬化して、他人に押し付
けられ
るべき信条、宗派、宗教になる。これこそは他界中のあらゆる人がしようとしていることである。真
理は狭められ、弱い人々、ごく一時的に不満をくゆらす人々のためのなぐさみものにされてしまう。
　真理を引きずり降ろすことはできない。むしろ、それに上るべく各人が努力しなければならない。
山頂を谷へ引き降ろすことはできない。もし山頂に至りたければ、峡谷を通過し、危険な断崖を恐れ
ず、急坂を登らなければならない。真理に向かって諸君が登らなければならないのであって、諸君の
方へそれを「引き下げ」たり、諸君のためにそれを組織化することはできないのである。（中略）以
上が、私の観点からの、星の教団が解散されるべき第一の理由である。これにもかかわらず、諸君は
たぶん他の教団を作り上げ、他の組織に属して真理を探し求めるであろう。私は霊的な類のいかなる
組織にも属したくない。どうかこれを理解していただきたい。（中略）再び私は言明する。いかなる
組織も人を霊性に導くことはできないと。
　もし組織がこの目的のために作られれば、それは松葉杖となり、個人を弱くし、束縛するものとな
り、彼を不具にし、あの絶対的で無条件な真理をみずから発見することに対する彼の独自性を伸ば
し、確立するのを妨げるにちがいない。これが、私がたまたま長になった星の教団を解散することを
決めたもう一つの理由である。この決心は誰に説得されたものでもない。（以下省略）」このとき彼
は三四歳である。次は彼が七四歳の時にはじめて書いた日記による。

『クリシュナムルティの日記』宮内克典訳・メルクマール
　　「（前文略）人は自分自身の光りとなるべきだ。この光りが、法である。他に法などない。他の
法と言われるものはすべて、思考によってつくられたものだ。だから分裂的で、撞着を免れない。自
己にとって光りであるとは、他人の光りがどんなに筋が通っていようが、論理的であろうが、歴史の
裏づけをもっていようが、自信に満ちていようが、けっして追従しないということだ。もしあなた
が、権威、教義、結論といったものの暗い陰の下にあれば、自分自身の光りであることはできない。
倫理性は、思考によって組み立てられるものではない。環境の圧力に押されて出てくるのでもない。
それは昨日に属さず、伝統にも属さない。倫理性は愛の産む子供であり、愛は欲望や快楽ではない。
性愛や官能の楽しみは、愛ではない。（中略）
　　自由とは、あなたが自分自身にとって光りになることだ。その時、自由は抽象ではない。思考に
よって組み立てられたものでもない。現実問題として、自由とは、依存関係や執着から、あるいは経
験を渇望することから、いっさい自由になることだ。思考の構造から自由になることは、自身にとっ
て光りとなることだ。この光りのなかで、すべての行為が起こる。そのとき矛盾撞着はない。法や光
りが行為から分離しているとき、行為する者が行為そのものから分離しているとき矛盾撞着が起こ
る。理念とか原理とかは思考の不毛な動きであり、この光りと共存することはできない。一方が他方
を否定するのだ。この光り、この法が、あなたと分離している。観察者がいるところには、この光
り、この愛は存在しない。観察する者の構造は、思考によって組み立てられたもので、けっして新し
くなく、けっして自由ではない。方法とか、体系、修練といったものなど、なにもない。見ることだ
けがあり、それが行為することだ。あなたは見なければならない。ただし他人の目を通してではな
く。この光り、この法は、あなたのものでも他人のものでもない。ただ光りがあるだけだ。これが愛
だ。」

　3）あるがままの現実（龍雲）

　おお！苦悩と混乱に満ちたこの世界にあって、気づけ、目覚めよと釈尊の御声がする　
　世の中の関係性（世間）は、時間と空間の中で成立しているかに見える。

　先ほど会った人物、あるいは電話の相手も、今ドアを開け声をかけて去った彼も、私も、みな、大
宇宙、大自然、この国土、この地域、この場という時間と空間内で成立し、相互に生かされ生きてい
ると信じて疑わない。
　春夏秋冬、四季は移り、人は道を歩み、車が走り去る。遠く、電車がカタコトと橋桁を渡り、大勢
の人を運び、過ぎ去る。見上げれば真っ青な空に雲が漂い、ときおりブーンという飛行機の音がかす
かに聞こえてくる。
　風が頬をなで、木々の葉を揺らす。
　突然、小鳥が甲高い声とともに飛び立つ。
　夕日が落ち夕焼けも薄れて、あたりに夕闇の静寂が漂いはじめる。やがて、月が煌々と輝き、闇を
照らす。満天の星が瞬く。ああ、なんという広大な宇宙であろうか。この無辺の世界の中で、何の疑
問もなく、われわれは、日々、あたふたとした毎日を送る。
　いま、私は、出かける支度をし、ドアを開け、外にでる。道を歩み、街中に出て、会う人に挨拶を
交わしながら、マーッケトに至る。そこで必要なものを購入し、店を出て、帰路に就く。
　誰しもがこうした一連の流れ、そこからそこへと時間と空間を動いていると感じて疑わない。
　ここに、自分がいて、家があり、街があり、人々とともに暮らしている。大勢であろうが、孤独で
あろうが、達者であろうが、病気であろうが、それぞれがそれぞれの空間と時間の中で暮らし、しか
も、その時間も空間もすべてのものを含み越えた無限のときの流れにあり、無限の空間の中にあると
信じて疑わない。あの胎児が母胎の中に安住して疑わないように・・・・・
　帰宅して、お茶を入れ、テレビをつける。相撲が国技館の中で、土俵の中で勝敗を競う。歓声が上
がり、拍手が起こる。誰しもが約束された時間と空間のなかで、関係性を保ちながら生きていること
を疑わない。　突然、画面に、テロップが走り、イスラム国が、日本人二人を人質に取り、二億円の
要求が突きつけられ、七十二時間以内に用意しなければ殺すと脅してくる。インターネットのニュー
スは一瞬にして世界を巡り、また、テロリストは日本や世界が動揺するのをあざ笑うかのように見て
いる。刻限が過ぎて、一人は殺害され、一人はヨルダンに収監された死刑囚のテロリストの交換のカ
ードに使われる。そして、日本人も、人質のパイロットも、死刑囚のいずれも殺害され、暴力の応酬
が激しくなっている。
　かたずをのんでテレビを見ていた彼、嗚呼、あの救急車は、危篤状態の人を運んでいるのか。なん
てひどいテロリストだと憤りを感じながら、用事があって街に出た。そこで運悪く、精神に障害ある
ものと出くわし、そこで、突然、刺され死んでしまった。

　この小さな私が知ると知らざるとに関わらず、世界はどこでも、時間と空間の流れの中で、うごめ
いている。生まれ、成長し、栄え、衰え、死にゆく。生老病死のサイクルに人々は喜び、苦しむ。喜
怒哀楽が絶えず錯綜する世界。喜怒哀楽に人種の差はないが、たがいに大なり小なり敵対してやまな
い世間がこの広い地球上で無数の人間同士の相克を繰り広げている。テレビもラジオもネット社会
も、今ここにいるもの同士も、顔を合わせればおしゃべりだ。そのおしゃべりの元は、喜怒哀楽や価
値観を伴なった記憶や経験に同化した個々人の自我である。彼らは心や思念や感覚を自己アピールの
基盤として働かせ、カラスたちのようにかまびすしい。絶え間なく続くおしゃべりは、病に伏すか、
眠りにつくか、食べることに夢中になるかでないと、静かになることなどない。たとえ、黙ってテレ
ビのおしゃべりを漫然ともなく聞いていたとしても、心の中は同じようにおしゃべりにふけっている
のだ。絶えず何かを考え何かを主張し生きている。シ～っ！静かに！しかし、一時は静かするも、す
ぐおしゃべりだ。おそらく死ぬまでおしゃべりは続くのだろう・・・。人間ばかりか、犬までが吠
え、自分の存在を誇示し、訴えてくる。　

　時間と空間の社会にあらゆる生命は同化し、そこで生命を得て、そしてやがて死んでいくことを人
生の流れとして疑わない。誰しもが、一人ひとりの人生の流れの中で喜怒哀楽の人生を過ごしている
と感じている。
　その人生の関係性の中で、ある時は口論し、根を持ちつつ自己の人生に引き籠ったり、素晴らしい
めぐり合いに狂喜したり、愛し合ったり、憎しみ合ったり、無関心であったり、心配で心配でどうし
ようもなかったり。人生の様々な重荷に押しつぶされそうだったり、思わぬ報酬を得て舞い上がった
り・・・しかし、大半の者の心の奥には、常に不安と恐怖がうごめき、自分の人生の不幸を後悔し、
絶えず、過ぎ去ってしまった心の傷をなめながら、呪いの人生、過去の呪縛から抜けきれない、過去
に止まったままの人生を過ごしているのである。
　まさしく、これが世俗のあるがままの自分であり、世間であろうか。
　このあるがままの世界は、時間と空間の中であらゆるものが実体として存在し、生滅変化している
と映り、それが現実だとして、誰も疑わない。
また、愚かなことには、個々人の葛藤にさいなまれる苦悩の現実に耐えきれず、何かに夢中にな
り、不安や恐怖をまぎらわそうと逃避する。それは、さらにひどい仮想空間の妄想の中に引き籠り、
人生のバランスを失う。鬱積がやがて恨みつらみの呪いとなり、世界を敵にまわしてテロリストのよ
うな暴力や信仰の名のもとに異端者を悪魔呼ばわりし、敵に回し、信仰と正義の名のもとの残虐な破
壊行動を際限もなく繰り返す。ああ、宗教もまた世俗に過ぎないものなのか、

　ブッダが、「これは無明であり、迷妄であり、虚妄である。その欺瞞に気付。そして目覚めよ！」
と指摘されたが、その世間の欺瞞性を見抜き、そこから脱出をはかることは至難の業なのかもしれな
い。それよりも、世界はますますバーチャルリアリテイの深みにはまりつつある。そして、この世界
を虚妄とみること自体、非現実でゆがんだ見解に過ぎないというのである。

　世界は、ここからそこへ、昨日から今日へそして明日へと向かって流れているのだと誰しもが信じ
て疑わない。そして、そこにあらゆる関係性がうちたてられている。世界は、時間と空間の範囲の中
でしか存在しえないと錯覚している。たとえ次元を超えて、あの世も、神々の世界も、仏菩薩の世界
も、更にはゼロ次元の空に至るまで、時間と空間の呪縛の範疇にあり、条件づけられた迷妄なる実体
論の「有」「無」を基盤とした実在界の虚妄なる世界に逸脱し、逃避し、自己閉鎖的に籠っている。
　

　人は、虐げられたこれまでの人生を耐え抜いて、明日を夢見て、「日はまた昇る」「今はダメだが
必ず夜明けがくる」「あきらめるな。頑張れ。最後までやり抜け」と自分に鞭打つかと思えば、もう
明日は来てほしくない、このまま静かに休ませてほしい。苦しい。苦しい。どうか終わりにさせてく
れ。死なしてくれ。楽にさせてくれと悶絶する。身心耗弱と鈍感な時は、すべてが無意味なものに見
え、怒りも喜びも何も感じない。無表情なあのマインドコントロールされたあの被洗脳者のように、
夢遊病者のごとく、他人に操られた人生を送る。
　
ああ！なんと悲しいことに、社会はすべてそのような精神構造の中で組み立てられ、約束事、契約や
規範、ルールに基づき、あるいは時間と空間のスケジュールに基づいて、互いの関係性を確保し、自
分を生かそうと躍起になっている。

　この時間と空間のタイムスケジュールが世界の実在性を捕縛する。存在の実在性を保証し、裏付け
るものとしている。
　自分が、この大宇宙、大自然、世界に確かに生かされ生きているという実在感、実体感が、自分が
生きているという実存性を裏づけている。
　その何よりの証拠は、この世界の中の自己感覚を失うならば、それこそ、生きた心地はせず、ただ
不安と恐怖の中に丸裸で放り出されるようなものだと感ずる。自分を守るすべも、自分を肯定できる
何物も得られないどん底に陥る。

　だが、以上のものは、ブッダの指摘によれば、すべて虚妄なるものに基づく自己感覚からくるにす
ぎない。虚妄なるが故、いつでも破綻する自己感覚であり、消滅するこれらに自己を同一化しようと
する執着は、すべて失われるものであるから、そこに葛藤と苦悩の現実が生ずるだけであると。

　だから、目覚めなければならない。実相は時間でも空間でもない。また、観念でも哲学でもない。
実相としての事実に目覚めよと。

　君は今の瞬間より一歩も前にも先にも身を置くことはできない。今の前は終わっており、いくら時
間を戻そうとしても、事実、0.00000000000001秒の前にすら戻れない実相をしっかり見極めねばなら
ない。過去がよみがえるのはすべて実相ではなく、脳内の記憶、心に記憶による虚像の人生であっ
て、いくらテープやビデオを巻き戻しても過去は蘇らない。いくらスーパーコンビューターにすべて
の情報を蓄積し、三次元プリンターを駆使し、細胞をコピーしクローン技術が発展しようとも、断片
でしかなく、それこそ無限の宇宙の膨大さは人類がどこまで行っても果てしない世界となって立ちは
だかるように、虚妄は時空に制限されるが故、時空を超えた世界には全く立ち入れない。それは、な
んぴとも、過去は消えており、未来はまだ現れないという厳粛なる事実を覆すことはできない、実相
の歴時性を覆せない厳粛なる事実があるからだ。

　だが、歴時性もまた我々の錯覚でしかない。いや、我々は、少なくとも実相を見ることがなければ
存在はない。不生なる実相が先験より今に経過し消える。生死が同時に起きているようなものをとら
えられものを持ち合わせない我々は、今に経過するものを記憶にとどめ、先験より次々と現れる実相
を記憶に蓄積し、並べあげ、まるで脳内に画きあげられた漫画をぱらぱらとめくるようにして、それ
を仮想現実化し、それ外界にある表象の実体として錯覚して、世界の実態として把握し、それはすべ
て生滅の新陳代謝であり、存在の断滅を回避して、常住をはかり、一者として森羅万象（多者）を統
括支配し、過去から未来に進化し続けるものだと考え、それを信じて疑わない。
それは、しかし、脳内に描かれた反応の投影でしかなく、仮想現実を実体視して、それに執着してい
るに過ぎない。いかにデジタル化してもそれは実相ではなく虚像に過ぎないのと同じである。

　過去の映像や音の再現は記録に過ぎず、実相ではない。過去が戻っているのではない。
　従って、時間がないのだから、ここからそこという空間も存在しない。試しに、今という瞬間に自
分がこことそこにいることができるかどうか試してみるとよい。ここにいる自分があそこにいること
はない。

　われわれは、常に「今　ここ」の存在なのだが、しかし、それでは、認識は成り立たない。なぜな
ら認識は感覚が今ここに向き合うが記憶に残らねば、今ここは、現れを感受した瞬間、去ってしまっ
ており、感受されたものは記憶に残る残像でしかなくなるのであるからである。

　竜樹菩薩の『中論』で釈尊にささげられた「帰敬偈」は中論の根幹をなす、ブッダの根本的視点が
説示されている。

　すなわち、「滅するのでなく、生ずるのでない。断滅でなく、常住でない。
　一たるものでなく、区別のある多でない。来るのでなく、去るのでない」
　ブッダが観ているものは、先験から今に経過し、消えてしまうという常住ではない実相であった。

　では、虚妄は根も葉もない幻影なのか。われわれが今感受している世界は根も葉もない幻影なの
か。ブッダはそうは言われず、世俗諦（世俗の実相）であり、それは脳という記録システムの中でお
こる欺瞞化が虚妄であると指摘されたと筆者は考えている。虚妄性は脳細胞の記憶あるものを現実を
投影して表象化し、それを実体視するが、それは、実体ではなく虚妄であると。

　私見的に考察すれば、現実世界の実相は絶えず新しい。なぜなら、われわれが向き合い感受するも
のは常に今ここだが、それは、感受した瞬間消失し、新たなものの感受だからだ。
　われわれがあるのは時間空間の虚妄性の中ではなく、刻刻の今にあり、生死同時である。しかし、
それを感受できることはない。感受は刻刻の今なのだとすれば、世界は刻刻の今であり、時空はな
い。感受が時空を作る。素粒子のごとき極微の宇宙であろうと、百三十五億光年先の宇宙の果てであ
ろうと、その時空を生み出すものはそれを感受認識するレベルによる仮想認識であり。虚妄、数学や
天文学・物理学が計算上仮定する数式でしか表現できない虚妄なのだ。時空はないがすべては今とし
て新たにあるとしか言いようがない。

　そこで、再び、世間とは何かを問いたい。
　この虚妄性は根も葉もない妄想を指すものではないが、世界が実体としてものが存在しているので
はなく、時間空間にとらわれているわれわれ世間から観れば常に変動してやまない、常に今なるもの
で、今感受するものは一回限りだが、感受するものは常に新たと言うことだろう。
　考えるまでもなく、変化しないものはない。瞬時に代わるものもあれば時間をかけて、ゆっくり変
化するものもある。だが、昨日のそれは終わっており、今日のそれはまったく新しい。そして明日は
まだ生まれていないのだ。
　あるがままの実相は常住でないということ。

　君も私も世界も、まったく新たな今を刻刻に生み出している本不生であるのだ。だから、本不生を
頭で知ることはできないが、今をいきる。かけがえのないまったく新しいいのちであり、それが本不
生の実相といえるのかもしれない。

　ブッダは虚無を示されたのではなく、認識の虚妄性を指摘した。その虚妄性は時間と空間を描き出
し、そこに世界の実在性を幻想化し実体と観ているが、それは虚妄を実体とみる自己欺瞞に過ぎな
い。それは執着、苦悩を生むだけだ。常に変化し新しい創造に満ちた実相に、あるがままの真実に虚
心坦懐に向き合えと指摘されたと考える。今はいつでもかけがえのない一回限りの実相を生きている
のだと・・・・

　4）ジル・ボルト・テイラーの『奇跡の脳』

　折しも、こうして『中論』の考察をしている矢先、たまたまスイッチを入れたテレビ番組（NHK総
合）で『奇跡の脳』というインデアナ衆の脳神経解剖学者ジル・ボルト・テイラーの脳卒中からの八
年間にもわたる奇跡的な回復の事実と、その得意な体験。左脳が壊れると人間はどういう状態にな
り、右脳はを通して人はどのようにして世界を感じているか、そしてそれら右脳左脳の反応がバラバ
ラであるときの混乱とこれらを統合的に包括し得たときの状態（彼女はこれをニルバーナの状態と表
現しているが）について、克明に述べている。

　直感的にこれはまさに「正思惟」と「禅那」の状態がそもそも人間自身に備わっていること示して
いる。まさに、『中論』を理解するにはこの禅那と正思惟による統合性に重要なヒントがあるのかも
しれない。これは現代においては重要なポイントになるかもしれない。

　『奇跡の脳』の「深い心のやすらぎを見つける」以降の記述は、クリシュナムルティの深い内面性
と酷似しており、クリシュナムルティが時折描写する絶対の沈黙とその無量性。自らが自身の光とな
ることと指摘する内面の状態に全く類似した体験を描写している。この偶然の出会いに、まさに、こ
れは人類にとって大きなヒントになると珍しく感動し興奮さえ覚えた。このジル・ボルト・テイラー
の『奇跡の脳』は竹内薫訳新潮社で発刊されている。このヒントを手がかりに『中論』を紐解くこと
は可能かもしれない。そのように意を強くして、この果てしない『中論』の考察に向かおうとしてい
る。
さて、すでに述べたように、現代教化上、特に留意すべ根本問題のひとつに「自己欺瞞」が挙げら
れると思う。グローバリズムの洗礼を受け、地球規模で内的にも外的にも、果てしなき欲望から繰り
広げられる欺瞞の波にさらされている現代人が直面する問題を考えるとき、現代人をして、内面的
に、この欺瞞性の問題をどう解決していくが重要な課題であると思う。
　特に、宗教や信仰、あるいはイデオロギー等の名の下に繰り広げられる欺瞞性の問題は、われわれ
にとって、きわめて厳しい課題である。欺瞞性が内在化した宗教は宗教とはいえず、狂信的搾取集団
にすぎない。こう言った狂信的な集団は、相変わらず、人々の不安と恐怖に駆られた独善的集団であ
り、闘争と破壊を際限もなく繰り返している。　たとえば、原理主義やテロリズムに見られる欺瞞性
は、たとえその教団が長い年月をかけ体系化されてきて盤石なものに見えようとも、そこに、欺瞞が
あれば、あの慈悲深さは一転して、異端に対する狂気に変心する。欺瞞性の問題を理解しない信仰者
ほどこの危険性は高い。
　しかも、欺瞞性は全く宗教や信仰に無関心な者一般者にも内在するこころの問題である。
　言うまでもなく、釈尊も龍樹菩薩も宗祖弘法大師も、人間自身の、あるいは社会全体の、あるいは
多くの宗教の根本問題として、仏教はこうした人間が繰り返す欺瞞性の問題を絶えず直視し、それか
らの解放を促してきたと思われる。

　まさに、先ず、『中論』で論ぜられる根幹にあるものはこの欺瞞性の打破に他ならないであろう。
多くの偉大な祖師先徳が思惟に思惟を重ね禅定に禅定を重ね解いてきたにもかかわらず、今日に至る
人間社会は相も変わらず欺瞞に満ちた社会を地球全体にまで及ぶほどに繰り広げている。この衆生と
いう人間性の問題はどうにもならないことなのであろうか？
　まさに、「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥ら
き」現代において問われねばならないこととは何か。
　それは、とりもなおさず、「無辺の生死をばいかんがよく断つ　ただ禅那と正思惟とのみあって
す」に尽きよう。

　これを、現代はひとりひとりの覚醒の問題として打ち出さなければならない。なぜなら、現代は個
人化の意識が急速に進み、孤立化してきているため、迷いやすく、だまされやすい時代である。自己
確立の問題は孤立ではなく、自立すなわち独りたつものである。依存は依存するものも依存されるも
のも同質の欺瞞と搾取によって互いに欺瞞を生じ独りたつものは決して他を搾取するものではなく、
他を活しむる慈悲の行為そのものであること。孤立化するのはそこに依存性の自己欺瞞があり、その
自己欺瞞に気づき目覚めたものは、不安や恐怖や憎悪の心が鎮まり、明晰にモノゴトをあるがままに
とらえることができるものであること。

　混乱に満ちた現代人に早急に目覚めさせねばならないテーマは、「彼自身が禅那と正思惟をもって
生きていくか、すなわち自己欺瞞からいかに脱出させるか」であろう。
　自身を含め現代の多くの人々は自身できちんと「考える」という力そのものが弱い。「思索」や
「思惟」など無縁な世界で生きている。自我における欲望充足を背景にした能力主義や結果主義で才
能あふれるものはいつの間にか一組織に埋没され、ついておけないものは無造作に切り捨てられ、無
能に怯えつつ徘徊するばかり。人間性をと声高に主張はすれども浮き草のようにあちらこちらに流さ
れる浮き草の如し。
　このような苦悩に満ちた世界にあって、自ら人は目覚めねばならない。今こそ、人々の心に禅那と
正思惟力を覚醒させる正念場であろう。

この不可思議な自然現象は何を物語っているのであろうか？

H29.02.25

H29.03.11

　この不可思議な自然現象は何を物語っているのであろうか？

　この冬は本堂の屋根から落ちてくる雪も多く、かなり残っていたのだが、雨水も過ぎると、
一気に溶けて、埋もれていたものが久しぶりに顔を出す。

　朝明けの読経の中にも、漸う漸うと、陽光が射し込み、凛として輝く堂内にぬくもりが漂い、
経の鐘に呼応する野鳥の声にも、待ちわびた春のきざしが漂う。

　参道の岩室大師をお参りし、（今日は何か如来さまからの思し召しがあるかもしれない）と、
あのツクバイに目を向けてみた。

　というのも、昨晩、祈りを捧げているときに、本尊を前にして、ふと、物質界と如来界という
世界は、ブッダが指摘するように虚妄なるものだとしても、こうして物質界がわが目に映るよう
に如来界を含む物質界の次元を超えた世界も映じさせる何かがあるのではないか。

　確かに、心や意識、無意識の世界、インド古来からの信仰であるアートマンやブラフマン、あ
るいは古代エジプトのアーメンやアミー。ギリシャ神話のゼウスやアポロン。プラトンのイデア
やロゴス。ペルシャのミトラ神やザラトゥストラ。あるいはユダヤやキリストなどの絶対神や三
位一体の神、大天使から精霊など洋の東西を問わず広がる信仰は、いかにそれが広大無辺で深遠な
哲学や信仰であろうと、人類が描いた虚妄にすぎないというならば、

　あるいは、人類のこれまでの営みそのものが虚妄だということならば、はたまた、人間を含む
大自然界、太陽系や銀河系、さらには大宇宙のみならずミクロ宇宙からマクロ宇宙に至るまでの有
り様は虚妄に過ぎないというならば、

　そもそもそういった世界に生きている我々とは一体何であるのか。

こうして、夕べに、祈りを捧げる自分も、ブッダの指摘から大いに逸脱した自己欺瞞そのものだ
ということは否定しがたいが、
　しかし、如来性や仏心という虚妄ではない慈愛の根源に対し、
虚妄にすぎない我々が一体どのように自覚できるというのであろうか、などと素朴な疑問が湧いていた。

　さらに、この日、本堂の本尊の前で自問していたのは、最近、物理学や天文学などで話題になって
いる「物質とダークマターとダークエネルギー」に関することであった。

　我々が所属する大宇宙は、加速膨張しており、それが時間の方向、すなわち、先
験よりいまに経過し消失する歴時性を決めているのではないかということが、最新
の理論物理学上の見解の一つにあった。
　門外漢なので、正確には述べられないが、その理論によると、この宇宙で（ビッ
クバン以降138億年を経てなお加速膨張している宇宙内）で、「物質」はわずか5％
だけで、残りの25％はダークマター、70％はダークエネルギーでみなぎっていなけ
れば、物質の局所的宇宙は顕現し、存在することはなかった。そのダークマターと
ダークエネルギーは見ることができない未だ正体不明のものであるが、それがなけ
れば銀河は現れない。というのも、銀河の構造を計算すると、普通の「物質」だけ
では足りないことがわかって、見えている物質の重力だけでは星は散らばってしま
い、銀河を形作ることができないということが明らかとなったというのである。
　大宇宙の物質化で考えられるのが、光を通さず反射もしない何か暗いもの、ダー
クマターの存在が考えられるとして、観測を続ける内に、ダークマターは密集する
と近くの光を曲げる重力的な力を持っていることがわかってきた。そうした何らか
の力を及ぼすダークマターについてわかっていることは、検出できないので、粒子
の雲ではない。ガンマ線を出さないので反物質(アンチマター)ではない。周囲に影
響を及ぼしたくさんあるものの、ブラックホールほどではないので、ブラックホー
ルではない。最近は、ダークマターは光を受けない未知の粒子なのかもしれないと
もいわれはじめた。
　小生は大宇宙の顕在化はこのダークマーターの重力を伴う局所化の壮大なプログ
ラムのようなものが背後にあって、いわゆる、ミクロ宇宙の素粒子、電子、原子、
分子などからマクロ宇宙の星雲、銀河、惑星、身近には太陽系の地球などに繰り広
げられる壮大な天地創造の進化の営みが起こったと考えたいのだが、この壮大なプ
ログラムというと、いわゆる、天地創造神やイデア、ロゴス、叡智、神、ブラフマ
ン、アートマン、アーカシックレコードなど、いわゆる、遍在から局所へ、局所か
ら遍在へカルマ輪廻を想定するの古代宗教を連想し、それがもし本当なら、小生
は、ブッダは虚妄を以て一体なにを指摘されておられるのかという自問のジレンマ
に陥らざるを得ず悩んでいた。
　さらに、ダークエネルギーについては、ダークマター以上に不明なものではある
が、極めて興味深いものである。
　1929年に天文学者のエドウィン・ハッブルが銀河から届く光の波長を調べ、赤い
方に偏る現象を発見。この赤方偏移は遠い銀河ほど大きく、近いほど小さくなるの
で、ハッブルは「宇宙が膨張していることが原因」と結論づけ、空間が広がること
で光の波長が伸び色が変わったと考えた。
　近年、飛躍的に発達しつつある天体観測により、なんと、大宇宙はビッグバン以
降、決して膨れ続ける風船のような閉じられた宇宙ではない。そういう宇宙は膨張
するがやがてスピードはゆるくなり、やがて止まる。そこから縮小し始めビッグク
ランチに至ると考えられていたが、観測が発達するに連れして、その見解は全くひ
っくり返り、縮むどころか、宇宙はますます加速膨張しており、閉じられた宇宙で
はないことが明らかになった。この、重力に反して、加速度的に膨張させているダ
ーク（見えない）エネルギーが、どんどん流れ込んで新しい宇宙空間を新生し続け
ているというのである。
　このダークエネルギーには全物質よりも大きな、アインシュタインのいう「重力
に反する力」よりも大きな力があり、生まれ続ける粒子で大宇宙空間は満ちている
が、それは現れてすぐに消えるものだという。そしてこのダークエネルギーが大宇
宙の加速膨張の方向と時間の歴時性を方向づけているの先験的エネルギーではない
かというダ理論は、小生には、いわゆる、時間の歴時性（過去・現在・未来の時間
ではなく、先験性が今に経過し消失しながら新たなるものが創造し続けるというブ
ッダの親説を思わざるをえない。
　現代の大宇宙に関する物理学や天文学を研究する科学者たちは、こうしたダーク
エネルギーにより、大半の宇宙にはダークマターや物質の顕現できる余地は少な
く、我々が観測している宇宙のようなものは重力と反重力の微妙なバランスの状態
が出現してはじめて起こるという全宇宙にとっては極めてまれな現象、すなわち天
地創造の営みであり、今ここで、人間として、壮大な宇宙を解明しながら目撃でき
ることは、稀有のこととして喜びを感じているという。
物理学者は風船やシャボン玉などを例に説明しているが、大宇宙が加速膨張して
いてもその中にある星雲や惑星や物質なども比例的に膨張するのではないという点
は、猛スピードで走る電車の車内と同じことなのだろう。地球や惑星の自転公転の
巨大なスピードもその体内にあっては一緒に動いてる限り、その中での動きに限ら
れている。このように、加速膨張していることを体感することはその外との関係を
みない限りわからない。
　これが、宇宙内の進化の基盤なのかも知れない。しかも、こうした重力と反重力
の微妙なバランスのとれた宇宙はきわめてまれであり、ほとんどは、現出しない宇
宙なのだそうだ。
　さて、このような最近の物理学や天文学の理論に興味が湧くのも、いわゆるブッ
ダの親説とこうした大宇宙の現象の解明がどこまで共通した展開になるかが知りた
いということなのだ。　もちろん「科学と宗教」などという概論ではなく、ブッダ
も宇宙物理学も人類の真理探究の一環としてみるのだから、いささか、専門分野的
にはカテゴリーエラーと批判されるところだが、しかし、小生のなかにカテゴリー
ごとに整理して論ずる知識がないので、それを期待することもできない。
　これは、真理といわれる「不記」のものを扱うには、あまりにも、小生の人生経
験はあまりにも貧弱すぎ、何一つ、無・空・不記なるものを把握できたという感覚
すら皆無であるので、それらを云々するには他者の言動によらざるを得ない。
　それは、そうとして、ブッダはなにを示されたのか。少なくとも大宇宙の進化の
プロセスをブッダはどうごらんになられるのか？　もっと素直にいうならば、Ｊ・
クリシュナムルティ革命的視点。あるいは、ブッダや龍樹の革命的真理では、万物
の脳や記憶や思念や意識、心などは、虚妄にすぎないとするなら、なぜ、宇宙に空
間や時間の関係性が繰り広げられているのか？　たとえば、薪を集め、風呂に水を
くんで、火をともし、風呂を沸かし、入浴するという現実に行われていることが虚
妄、すなわち架空のことだとでもいうのであろうかということになれば、そもそ
も、生存そのものを架空とするようなもとなる。ダークエネルギーからダークマタ
ーを経て、物質化するプロセスもまた虚妄であるなら、こうして思考している自分
もまた虚妄にすぎない。それとも、あれこれ考えていることをこそ虚妄というので
あろうか。
　正徳寺の阿弥陀大仏の前で、そのような思案に暮れていた。
　願わくば本尊よ、われに、その本不生の真実義を指し示したまえと祈らざるを得
なかった。
　なんと、それは、二月二五日と三月十一日に、例のつくばいのなかの氷によって
しめされたのである。
　示されたのはすべて三角錐の四面体である。

　自然に生じた今回のものは、明らかにピラミッドの三角錐の四面体の形をしてい
る。
　しかし、あのJ.J.H博士の『エノクの鍵』の挿し絵に頻繁にでている神聖幾何学
の「マカバ」そのものを現していることに驚きを禁じ得ない。
　ただ、J.J.H の著書『エノクの鍵』のなかで説明されるマカバの章には、小生の
恩師T.Sが昭和51年4月に、たまたまそばにいた小生に語り聞かせた、彼の言う「太
陽系霊団における9人評議会でのでのやりとり」の内用と全く同様の内容が含まれて
いた。（日本とアメリカという離れたところで、しかもその現象が起きた時期は2～
3年の違いで、ほぼ同時期のことだった）
　この、二人の話や著書に巡り合っていなかったならば、今回の氷の造形の現象も
単に「氷の三角錐」が現れたくらいで終わっていたかも知れない。
　いみじくも、弘法大師空海祖師が「森羅万象すべてが如来の説法」と諭されたて
いた。
　さて、この氷の神聖幾何学の造形が指し示すものは何か。小生のあくまで推測に
すぎないし、全く見当ハズレのことかもしれないので、ご覧くだされておられる諸
氏には、誠に申し訳ないが、くれぐれも真に受けず、ひとりの愚者が描いた駄作を
眺めるぐらいにして、それが現実化したなら、それこそ、如来に問うていただきた
い。その上で、小生として、いくつか考えられるものを挙げると、
　①　ダークエネルギーからダークマターそして物資化のプロセスに、それこそ、
マカバが作動しているということ。（これは、如来に尋ねたあと、即、現象として
示されたことによる）

　②　J.J.H 博士の示す「マカバが顕れるとき、人類は次元移動せざるを得ない大
転換期に入っていること。（ダークマターと物質界における１次元から９次元進化
論的天地創造の営みと捉えた場合）

　③　恩師T.S やJ.J.H 博士語る、人類の核戦争勃発の危機を回避すべく、戦争が
起こる前に、大地震など地球の意識的自然災害などによって人類の不調和な意識を
浄化するプロセスにマカバが始動し始めたというものである。
　いま、まさにいま、世界はあらゆるところで、自我に同一化し、欺瞞に満ちた宗
教やイデオロギーが蔓延している。
　エノクの鍵にあるように、世界中で不穏な動きが広がり、核戦争が一触即発であ
る危機にひんしているのが現実化している。これを何とか阻止しようと、より普遍
的な意識が動き出しているのかもしれない。如来から見れば、この世界の危機は、
この地球上に住む生命体にとっては、かなり過酷な状況に追い込まれることにな
り、魂の救済システムを作動せざるをえない状況にあるために「マカバ」の力が出
現しているということなのだろうか。
　確かに、核による破壊にせよ、自然災害にせよ、犠牲者はおびただしいどころ
か、全滅を免れ得ない大惨事となることは必定であろう。
　そのときマカバが個々の生命の大移動をひき起こし、次元移動を図るというよう
な、とてつもないことが起こるのかも知れない。

　④　そこで重大なことは、大宇宙の進化がマカバという多次元調整装置？により
ダークマターと物資制御するなかで、ダークエネルギーは歴時的刻々の今に経過し
つつ、ダークマターと物質界を顕現し消失させながら、刻々に全く新しい創造の営
みとしてエネルギー変換がマカバを通じてなされており、その、エネルギーの顕現
は、宇宙の進化とともに歴時的に常に「いま・ここ」に顯れていることを示すもの
であるのかも知れない。
　天地一切が局所かにおける時間と空間における進化にあろうと、遍在性において
つねにいまここ。如来も素粒子も常にいまここに顕現し消失する常に新たな歴時的
現象であるということを示しているなら、その意義は計り知れない。

この氷の神聖幾何学三角四面体から読み解けるものは、まだ思索中です。
少し見えてきていますので、以下参考までに図を示しておきます。

　神聖幾何学マカバを示すかと思われる氷の三角四面体出現の自然現象を素直に受け止めざるを得ない。

　だが、それは、如来に投げかけた小生のあまりにも素朴かつ愚かな質問に、自然現象を通して、その応えが直接示
されるとしか言いようのないタイミングで起きた。小生の愚かな問いかけにも関わらず、この氷による聖体出現は、これ
で五度目である。
　いずれも、如来から指し示すかのような不思議なものだが、こと、あの世のことに関しては、問いかけると翌日起こる
という、誠に不思議な応答関係にあり、問いかけた本人自身が、最も驚いている。
　しかも、今回は、三角四面体の氷の形相であったので、小生にとって、この啓示は、尋常ならざるものを感じ、いささ
か、困惑せざるを得ない、
　というのも、ブッダ親説の「空」や「阿字本不生」の根幹を示す龍樹菩薩『般若論』やクリシュナムルティの欺瞞からの
解放などをとおして、いわゆる神秘宗教などが陥る問題の本質について、少しづつ腑に落ちつつあって、ようやく、
人間の欺瞞の構造である虚妄の法が理解できるように思ってきた矢先のことであったので、この不可思議自然現象
については、なおさらのこと、驚かざるをえない。
　しかし、ブッダ親説や龍樹菩薩やクリシュナムルティ。ラマナ・マハルシやラーマクリシュナ。ケン・ウィルバーやハー
タックなどと、愚鈍な小生が、したり顔をして論じてはいるものの、全て、虚妄なる思いの範囲でしかない。自然現象も
不可思議としてみるのも虚妄の思いなのであろう。
　小生の手に負えるものではないだけに、何事も、与えていただいたものとして、できるだけ愚見を挟まず、傾聴・凝
視しするしか術はない。
　そうした愚鈍な小生に頓着せず、与えられてくる事実に、ただ、向き合うしかないが、そこから、小生にも、何やら、
見えてくるものがあるのではないかと、日々、祈りのときをおくらざるをえない。
　
　そこで、この氷の不可思議な現象について、ふと心に顕れる思いについて記しておきたい。これらは刻々に更新さ
れる思いなのではあるが、何かの参考になりはしないかと思って記しておきたい。

　①平成29年2月25日と平成29年3月11日。
　二度にわたり示されたこの不可思議な三角四面体と大天使の翼のような模様は、天上界や如来界がマカバの力に
よって核戦争を抑止すべく必至であることを示す警告であるか。このことは、裏返せば、今、人類は一部の国々やイ
デオロギーや民族意識や宗教信仰や経済摩擦などの紛争分により、まさかそのようなことはないだろうと思っている
核戦争が勃発し、歯止めが効かなくなる事態に陥るかもしれないのではないか。一触即発の危機状況にあり、その
惨事が偶発することのないよう、人類は、本気で叡智と愛と慈悲を総動員し、如来や大天使の波動であるマカバとと
もにを大惨事による破局を回避しなければならないということか。この世の責任は、人類自らにあるがが故に、いか
に、如来のマカバが働いても、誤った人類のエゴが、地球環境の破滅をもたらしてきたことは、過去に何度か経験し
てきており、損痕跡が残っているという。今回も、また、そのようなことになってしまわないよう、警告である天変地異が
作動しているのではなか。
　弱小なる小生は、マカバを通じて、全ての有情（万生万物）に対し、次の祈りが成就されるよう、祈りに徹するしかな
い。
　すなわち、あの「不生の仏心行」の祈りの文の一節に次のごとくとなえることを加えている。
　「・・・・六大法身全ての【われ】をして、法眼圓明なる【慈悲と愛と叡智】の大いなる【マカバの光明】に満たし、【不生
の仏心】たらしめたまえ・・・・・」と。

②【マカバ】2つの三角四面体の回転から読み取れること。　

【マカバは両部不二として作動する】
【マカバが「阿字本不生の先験より今に経過し消失し続ける」実相のなかで、ビッグバン以降、大宇宙のダークエネ
ルギーからダークマターそして物質を新生創造し続け、森羅万象を導き、時間・空間・次元における現象（虚妄性）を
ミクロ宇宙からマクロ宇宙全てにおいて、入れ子状に作動し、時間・空間・次元の変換を自在にし、超越して、一者の
統括性を作動させる】

　●遍在性と局所性
　●梵我
　●斥力と重力
　●天地
　●陰陽
　●金剛界と胎蔵
　●男性性と女性性
　●愛染明王・金台両部理趣経
　●オンマカラギャバゾロシュニシャバザラサトバジャクウンバンコク

　●マカバが働いていなければ大宇宙も我々も一切が現象化しなかった。
　●マカバは慈悲と愛と叡智の三位一体の光
　●マカバは如来の三密とわれわれの三業の加持感応道交を具体化する原理でもある。
　●神聖幾何学体の三角四面体は光をあらわし、光の三原色から七色の光・無数の色光に偏光するが、一切のもの
と現象が光を帯びて統合されているものであり、それは宇宙の本質と現象である体・相・用のマカバ働きをしめす。
　●マカバは一者であり遍在であるものを示す。
　●マカバについてはプラトンにおいても「万物を構成する元素として、地・水・火・空気の四大元素を考え、正六面
体（地）、正二十面体（水）、正四面体（火）、正八面体（空気）」を当てている。これは仏教の五輪卒塔婆における地
（□・正六面体）・水（○・正二十面体）・火（△正四面体）・風（月）・空（寶珠）にも通じるものであり、三角は火輪すな
わち光であり、金胎両部不二は２つのマカバが不二であることにも通じているかもしれない。ここに記したことはあくま
で私見に過ぎないが・・・
　以上のことの詳細はおいおいその時が与えられれば記していきたい。

　

さらに解き示された大慈大悲の深秘

　一、総本山長谷寺と法圓寺と萬歳楽山の不可思議なつながり

総本山長谷寺御本尊　雨寶童子　　　　　難陀竜王　

　平成二十一年四月末、総本山長谷寺で牡丹期の法話をするため、一週間ほど滞在させていただきまし
た。その間ほとんど雨降りでしたが、深山幽谷、それがまた格別で、長谷のご本尊の御許で心静かな日々
を過ごさせていただきました。その日も、全山雨に濡れ、訪れる人々もまばらで、身の丈二十メートルも
ある長谷の観音様の足下で、雨音を聞きながらゆっくりしておりますと、ご本尊の脇侍仏にふと目が止ま
りました。それは『雨寶童子』といわれる美しい御伸像でした。そういえば、これまで、長谷寺にお邪魔
したときは、いつも、あわただしくて、どこに何があるなどとは考えも及びませんでしたが、いまこうし
て、雨の降りしきる中、しげしげとそのお顔を拝見しておりまして、（・・・ん？！どこかでお目にかか
っているなあ・・・）と思ったのです。（どこでだったかなあ）とつくづく雨寶童子を眺めていて、はた
と思いあたりました。（そう！十五年前、萬歳楽山でカモシカに遭遇したとき、鹿のそばに佇んでおられ
た天女のような神、あれはきっと弁財天女に違いないと思ってきたのですが、この雨寶童子のご尊容とま
るでそっくりなのです。いや、これはそっくりというより、まるで雨寶童子そのものだったとしか言いよ
うのないものでした。うかつなことに、これまで全く気づきませんでした。髪を結っているお姿も、麗し
いお顔立ちも、透き通るような柔らかなお召し物も、何から何まで間違いないのです。すべて、ここにお
わします雨寶童子のお姿そのものをあの萬歳楽山で見ていたのです。
　雨寶童子は『天照皇大神』として長谷寺では古代から大切にご供養しております。しかも、先日ご紹介
申し上げましたように、萬歳楽山は地震よけの鹿島神宮が運んだ『要石』の場であり、萬歳楽山は『天照
皇大神』の「玉座」であるのす。総本山長谷寺のご本尊はそれと相応するのです。ということは、あのと
き萬歳楽山で小職は「天照皇大神の化身」にお会いしたということになります。幻想と思われるかもしれ
ませんが、、不思議といえば不思議な巡り合わせです。
（では、もう一方の脇侍仏はなんであろう？）という思いがしまして、長谷の観音様のもう一方の脇侍に
目をやりますと・・・（おおっ！なんと、まさに、あのとき出会いました竜王そのものです！）長谷観音
の脇侍である竜王は『難陀竜王』といわれ、春日大明神の化身であり、八大竜王の一人です。長谷寺で
は、毎日必ずます、天照皇大神と春日大明神の御名をおとなえし供養致します。奈良の春日社には鹿がた
くさんおるのもむべなるかなです。ところで、小職が龍や竜王にお会いしたのは、十五年ほど前に萬歳楽
山に初めて登るときでした。早朝、本堂で修法をしておりますと、いきなり戸をがたぴしさせながら本堂
内に入り、内陣の護摩壇と私の周りをぐるっと取り巻いた龍がおりましたが、実は、あれは萬歳楽山の竜
王が小職を調べるために遣わした龍でした。その後、萬歳楽山に入山する毎に、入山する一行を検閲、厳
しく浄霊される竜王に何度か遭遇しておりました。山に入ってわかったことですが、八大龍王が萬歳楽山
を擁護していたのです。以前はうっかり入山するとその厳しい浄化プロセスのため、いのちに関わる方も
多かったのです。

　最近は、萬歳楽山は開かれつつありまして、特に、萬歳楽山山頂で真言宗の根本経典『般若理趣経』を
供養させていただくようになりましてから、「人類の意識の変革」を起こすべく開かれた山となりました
ので、どなたでも入山でき、山の守護の加持力にあやかれるようになりましたが、それは、萬歳楽山の深
秘が次第に明らかになりつつあることでも伺えます。まさか、この長谷の竜王が難陀竜王とは、なんとも
不思議な一致でありましょう。前にもご案内申し上げましが、平成二十一年には毎月第二土曜日とお彼岸
のお中日に萬歳楽山に登嶺し、理趣経を供養させていただきました。そしてどんな激しい雨の日でも、不
思議なことに、登山中、あるいは、理趣経を供養するとき、一行は全く雨に濡れずに済んだのです。何度
行ってもそうでしたので不思議でした。周辺はは激しく雨が降りしきっているのに、天に傘でもさしたか
のように濡れなかったのです。八大竜王の御業でした。しかし、実は、十一月の今年最後の登嶺までは、
このような現象が、この竜王の御業だとは思っていなかったのです。ところが、この日は前日から雨、そ
してこの日に限って、いつもとは違い登山中もシートを張ってお経を供養するときも、私ばかりがずぶぬ
れになるのです。
（どうしてか）といぶかしく思っておりますと、出て参りました！出て参りました！かの竜王が申される
には「雨に濡れないよう計らうことは、天にそれだけ借りを作ることであり、その分、どこかで必ずその
借りを返さねばならない。いままで濡れなかった分おまえは今日ここで締めくくりに濡れているのだよ」
と申されたのです。それで、なるほど、まさに八大竜王の御業であるなと合点がいったのです。

二、長谷寺縁起にまつわる国宝銅板『法華説相図』に描かれているものとは？

国宝『銅板法華説相図

平成二十年二月に突然湧出した「氷の秘仏」　　　　

氷の聖蹟として、インドのアルナチャラ山や三身仏や観世音菩薩、さらには萬歳楽山や龍が湧出

　ついこの間のことです。平成二十一年十二月このあわただしい時期に、豊山派の全国の布教師の研修会
が護国寺の宗務所で開催されました。当初、多忙で欠席通知を出しおりました。ところが、どういう訳
か、全異なった理由で（龍樹菩薩の研究上、どうしても必要な書籍を手に入れることができず）やむを得
ず、宗派の図書資料室に赴いかねばならなくなりまして、急遽、出かけたのです。このときちょうどこの
研修会の日で、せっかく上京しましたから、参加させていただきました。
　その内容は「総本山長谷寺の縁起について」各界の著名な学者によるパネルデスカッションでした。こ
こで、また、不思議なことに、驚くべきことに気づいたのです。
　長谷寺縁起にまつわる国宝『銅板法華説相図』は白鳳時代のもので、「法華経」の「見宝塔品」の一場
面を表したレリ－フです。これは釈迦如来が霊鷲山で『法華経』について語られたところ、地中から宝塔
が現れ、なかから「善い哉、善い哉」と釈尊の話を讃える多宝如来の声が聞こえ、宝塔が開き、多宝如来
が自分の座を半分譲って、釈尊の語ること聞いたという場面です。この銅板は聖武天皇の寿福を祈り、豊
山（初瀬）に納め、これが本長谷寺のはじまりとされております。

　驚くべきことは、この地中から湧出した宝塔を描く長谷寺の『法華説相図』をよく見てみると、それ
は、法圓寺の境内のつくばいに平成二十年二月に突然湧出した「氷の秘仏」と良く相応していることで
す。もちろん、『法華説相図』は地湧出仏の経典をもとに人為的に表現された銅板です。法圓寺に顕れた
『秘仏』は人為的ではなく、自然界の神秘ですから、法圓寺のものは、『法華経』に説かれた地湧仏が実
際に起こりうることを証明するものです。
　長谷寺の国宝『銅板法華説相図』は物語を描いたものですが、法圓寺のものは現実に仏が湧き出したも
のです。片方は国宝として今日まで残っておりますが、片方は氷であったためその日のうちに溶けて跡形
もなく消えてしまいました。また顕れるかどうかは誰にもわかりません。
　それは、ともかく、研究者の学説のうちに、この、「法華説相図の見宝塔は弥勒仏下生の三身仏を示す
ものである」というのです。これは、小職が氷の秘仏の内容を紐解いてきたことと良く相応します。法圓
寺は総本山長谷寺の末寺でありますが、そのような政治的、人為的配慮とはまた異なったところで相応し
ていることには驚きでした。

三、アルナチャラ山・不動明王の宝盤山・萬歳楽山・天照皇大神の玉座要石・長谷寺銅板法華説相図の地
湧仏・長谷寺の十一面観音菩薩のお立ちになる大盤石岩、これらはまさに地中深くから湧き出る『金剛宝
坐・大盤石岩』すなわち『地球』そのもののを意味し、そこに衆生救済のため仏・菩薩・明王・善神など
不生不動の如来が末法の世に湧出されたのだろうか。

　法圓寺に出現したあの不可思議な氷の神秘現象はいったい何を意味しているのか。そのヒントは、これ
もまた不可思議な如来の導きによって、少しずつ明らかにされているような気が致します。
　なぜ、変哲もない小さなつくばいの中で、氷の聖蹟として、インドのアルナチャラ山や三身仏や観世音
菩薩、さらには萬歳楽山や龍が湧出したのか。
　それは現代が地球上大きな危機的状況に瀕しているからかもしれないのです。環境破壊や汚染により地
球温暖化が今後どのようなことを招くか認識されつつありながら、相変わらず利害が絡む中でなんの進展
もなく時間は刻々と過ぎていきます。エゴのうごめく人類が滅びかねない天変地異。このまま進めば起こ
りかねないのかもしれません。このようなときにこそ如来は大きな意識の変革を促すべく出現されるもの
なのでしょう。
　では、なぜ、その奇瑞の一端が法圓寺に起きるのかです。それは近くに大きなエネルギーの変容を促す
霊山「萬歳楽山」があり、そして、法圓寺創建以来のテーマ「法限圓明なる不生の仏心」の菩提道場であ
るからなのでしょう。しかも、総本山長谷寺の『豊山』のご法縁
　「弥勒下生のときわれも来たりて、弥勒仏と共に衆生を救済する」と遺言された弘法大師のお像が法圓
寺に集中して集まるのも、その一端を証すものかもしれません。弘法大師は釈尊の「阿字本不生」観を他
のどの仏教よりも正確に捉え、人々に「不生の仏心ただ一つで如来として、いまここに生きよ」と説き示
されておられるのかもしれませんね。
　
　長くなりました。最後までお読みくださりありがとうございます。本年、平成二十二年度もこの如来の
大きなお導きのもと「不生の仏心ただ一つ」で法圓寺の活動を勧めて参りたく思います。みなさまのお力
添えを賜りますようお願い申し上げます。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　合掌　　　　　
　　　　　　　　　　　　　

←法圓寺の弘法大師　　　　

　　　　　　　
　　萬歳楽山頂の弘法大師　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　萬歳楽山　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

ブッダと空海とJ,クリシュナムルテイは何を指し示していたのか

昨日の影を引きずることなく、あるがままの実相を見ることこそが「今」なのである。「今」は昨
日の沈黙である。J.クリシュナムルティ

【ブッダ】

●『評説　インド仏教哲学史』（山口瑞鳳著　岩波書店）の中から

第一部　序論
　第１章　仏陀親説の哲学
　　二「仏陀親説の三つの時間」　　　　

　　1　「真如」と「虚妄の法」と「名色」

　仏陀の哲学で最も理解しにくい点は、われわれが外界として知覚に捉えているものを決して常識ど
おりそのまま外界に存在するものと認めないで、知覚はされるが、それは存在する実体が変化してい
る様子ではないとしていることである。
後代の仏典の例えば『八千頌般若経』では「知覚の原因」としての様態を「真如」と呼んでいる。
　仏陀は『スッタニパータ』八〇五番で出家を求める基本的な理由として。

　　　人々はわがものと執着したもので悲しむ。（自分の）持っているものは実に常住でないからで
ある。これは必ず失われる性質のものである、と判ったあとは在家にとどまっていてはならない。
(Sn。805。p.158)

と説いている。

ここで「わがものと執行する」のはもちろん誤った判断である。普通自分の知覚が経験する表象を
外界の姿と思い、複数の表象を区別できないままにそれらを「静止像」として意識し、そこから抽象
した形態観念を記憶してその後に経験される「静止像」をそれに照合する。このようにして、例えば
目の前のそれを、「わがもの」と認識し、外に在る実体とみなしているのである。しかし、この判断
は知覚が意識した「静止像」を、記憶している「静止像」由来の形態観念に照合して外界にある「わ
がもの」と思っているだけであり、実際は想起された形態観念どおりの実体が外に在るのではない。
　ここではこの観念の成立事情もそれが由来する「静止像」や「表象」の「縁起生」も未だ説明され
ていないが、目の前に知覚されている「静止像」を、想起された観念どおり「わがもの」と認識する
のではなく、その知覚原因として外界に〈経過〉する実態を「常住でなく、必ず失われる性質のもの
である」と判ったら出家するのがよいという勧めである。
　この教えは、通常知覚された後「有為」〔実体〕と認識されている物や人間の「評価どおりの」在
り方を真実と認めて説かれているのでなく、知覚され認識されているものの外界にある「原因」とし
ての様態、つまり、実相を指摘して述べられたものと理解されねばならない。

　その指摘では、「わがもの」として執着の対象となっている事物は、「実相」では「実に常住でな
く」、「失われる性質のものである｣とされる。「常住でない」とは「静止して存在するのではな
い」、「〈今〉変動しつつある」という意味である。さらに「失われる性質のもの」とは、「停滞な
く、経過して（〈今〉のその変動が）消失する」、つまり、「過去になる」という意味である。後で
述べられるように、同じ在り方が知覚されることはないから、これは太初以来一回だけ経過して消失
するというのである。まさに知覚の原因とされているものの本質を明言した言葉と言える。

　このような外界の実相にもかかわらず、知覚されているものが「わがもの」として、記憶されてい
る形態どおり外界に実在していると認識されているのである。この誤解が崩れ、実相が認識されると
き、人は悲しまねばならない。その道理を知ってそれが確信できるようになるため出家しなさいとい
うのである。

　一言でいえば、われわれの知覚の原因になっている外界は、経過して《消失しつつある〈今〉の
〈変動〉である》から実は常に「捕捉される静止的事物」がない。これは〈空〉の指す概念内容を説
いているのに他ならない。仏陀は世界が〈空〉であることを心から認識するために出家するがよいと
勧めていたのである。このことは、後段で引用される『スッタニパータ』の一一一九番で確言されて
いる。

　知覚の原因になっている外界というのは、現に感受され、経験されている表象の在り方とはもちろ
ん異なっている。外界には、感受している生体としての自分も含まれているが、その時間的環境の中
では、何ものがどのような様態をして経通しているか把握しようがない。ただ知覚経験されている在
り方から推測されるしかない。
仏陀によって、外界の時間の経過がどのように認識されているかは『マッジマ・二カーヤ』に次のよ
うに説明されている。

　　　過去なるものは捨て去られたものであり、未来は到達していないものである。現行する在り方
を時々刻々観察するものは、そのことを紛れもなく動かしようもないものとして熟知して心を完成せ
んことを。(Majjhima‐Nikaya。131。p.187）

とある。ここでわれわれの前を時々刻々経過する「現行する在り方」は、後述の『スッタニパータ』
七五七番で説明されたような知覚に経験される表象であり、「偽りの顕れ」になり、「虚妄の法」と
呼ばれる。外界にはその知覚原因として〈今〉「〈変動〉する」〈無常〉が（停滞なく経過して）消
失するが、そのような外界の事情を現在の観察から推測し、熟知して心を完成するようになれかしと
の教えである。

　その観察すべき「現行する在り方」について、『サンユッタ・ニカーヤ』第一集、第四篇の第三章
に、悪魔がバラモンに扮して仏弟子を誘惑したおり、それを退けた様子を仏陀に報告した話の中に見
えている。仏弟子は、外界の〈今〉を賢者は次のように知るべきであると教えられていたのである。
　　　　、

　　　この法（先験的時間の様態）は現に（知覚原因が）見られることに関わるのであり、（表象が
知覚された時の「現在」のような持続的）時間ではないものであり、（無常な変動よ）来たれ、（知
覚よ、それを）見よと〔命ずる〕ものであり、（それをその場から）導き去るものであることを賢者
はそれぞれ知るべきである。（SN。I‐IV‐3‐1。pp. 117‐８『悪魔との対話』四四－四五頁）

　「この法（の様態）は」、先験的知覚原因が「〈今〉目の前に見られることに関わる｣のであり、
過去に事象が知覚された「ある時のような（持続のある）時間」ではなく、〈今〉見られるべき〈変
動〉を、［来たれ］と呼び出し、知覚するものに、〈今〉それを「見よ」と命ずるのに関わるもので
あり、それを（時間が経過するため）、「消え去るべく導くものである」と説明される。このように
先験的時間が、現行の経験から具体的に表現されている。知覚の原因が見られようもないまま、
〈今〉無常に〈変動〉して、経過するため、消え去ることを如実に知悉せよと仏陀に説かれたことが
伝えられているのである。
　われわれの周辺を観察すると、われわれが知覚する、しないに関わりなく、知覚の原因は外界に
〈変動〉していることが知られる。春が来れば花が咲き、散る。秋には紅葉する。われわれが鑑賞し
ようが、気もつかないで過ごそうが、それらと関わりなく、把握されていない知覚原因の〈変動〉
が、時の経過により消失して止まない。そこには、知覚する生体も知覚原因として時々刻々外界に
〈変動〉し続けて、時節が来れば老化して尽きる。このような外界の時間は、後段でも見られるよう
に、西欧でも、如何なる停滞もなく、過去と未来の境の〈今〉として未来に経過していると理解され
ていた。
　外界の〈変動〉として停滞なく経過する〈今〉の時間を、仮に静止している形で観念的に想定する
なら『零時』の停滞と言い換えられるであろう。このような『零時』の停滞の間には、空間が光以上
の速さで拡大するものであってもその始点からＩナノミリも拡大すること自体が許されない。つま
り、何処にも同時に二点のありうる空間が成立しないのである。
　今日われわれの常識の根拠とされている自然科学では、静止空間が外界に成立すると仮定して、そ
の内に見られる単位時間毎の空間的変動の結果を計量している。しかし、〈今〉外界に経過する時間
に『零時』の停滞しかないならば、そのような〈時間〉を分量で表現しようとしても、〈時間〉の蓄
積が成立しない。したがって、量のある時間は示せない。
それでは困るので自然科学では『無限小時』を設けて『零時』の代わりにして、その蓄積を可能にし
ている。このようにして、『時間』を計量し、それによってこの間に成立する空間的変化を単位時間
毎に算出できるようにした。この『無限小時』の持続の間に『無限小』の空間的位相差が成立しうる
ので蓄積空間の計量も出来るようになっている。
　時間と空間がこのようにして計量されていると思われるが、ただ現実には、未来に経過しない時間
がありえないから、『無限小時』であれ、停滞のある時間はありえない。それゆえ哲学では『無限小
時』は成立しない。『無限小時』が成立しないとき、『無限小の空間』も成立しないから、『無限小
の空間』で構成されるしかない計量可能な空間もありえなくなる。
　今、哲学的に実相を言うときは、このような虚構の常識的時間・空間から成る外界は否定される。
世間で空間的存在とされているものも、経過して［失われる性質の］「常住でない」〈変動〉に由来
しているが、実に《知覚の中》で、停滞する「現在」という虚構の時間毎に成立する知覚表象の
「幻」の上に成立しているのである。知覚はその「幻」を捉え、それを「外界」の実体と誤認してい
るのである。
　右の視点に立てば、自然科学はそれをコピーしていると言えよう。仏陀の哲学では、計量される時
間も空間も現実として認められてはいないのである。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・・
　仏陀による出家の勧めでは、人間に所有されていると思われている外界の「もの」についてその執
着を戒める理由が言われたのであるが、この「もの」は「者」ばかりでなく、「物」にも適用され
る。したがって、仏陀の後継者たちによる後代の部派の学者間に有力になった考え方に、人間の在り
方は無常で実体ではないが、万物を構成している物質は常住だという「人無我、法有」説が仏陀によ
って主張されたかのように言われたが、その事実は全くない。このことを充分認識して先に進まねば
ならない。
　法有説のように、現象を実体的に理解できるとするのは、自然科学を始めとする常識的な考え方で
あるが、今し方見たように、外界の時間が観念的表現で言えば「零時の停滞」しかない形で未来へ
〈経過〉し（新しい〈変動〉に相続され）て止まない場合、当然そこに空間が成立せず、そこにしか
位置を占められない静止的な存在もありえなくなる。したがって、自然科学も知覚原因になる外界を
研究対象とすることは出来ない。この不便を克服するために、知覚されている世界を〈無限小時〉と
「無限小空間」で構成される「外界」としてそれに置き換え、綿密に吟味するしかないのである。
　他方、仏教の哲学では、われわれは「零時の停滞」しかない外界の知覚原因に向き合っていながら
現に空間的「表象」を知覚内に経験しているという。この知覚構造は自然科学と類似の虚構の上に成
立していると推測される。その事実については、もちろんこの後に詳細な解説を試みるが、当面の説
明の都合から、ここで大まかな事情をあらかじめ簡単に説明しておかねばならない。

　外界には停滞のない〈今〉の〈変動〉が〈経過〉し、新しい〈変動〉に相続されている。われわれ
の知覚機能はそれに向き合って同じような条件の中で未来に経過している。ただ、生体には不思議な
知覚能力が与えられている。それによって、外界に〈経過〉する僅かな時間的推移に向き合って、そ
の間の〈相続〉を継続的に知覚が「感受」すると、それを『瞬間的軌跡』の形に変換できる。そのよ
うな感受内容に依存して知覚内に空間的表象が纏め上げられる。自然科学が『無限小時』の停滞を設
けて空間を成立させたのは、この点を模倣していると言えよう。自然科学では『無限小時』毎に空間
を成立させているように、生体は、あえて言えば「現在」という『瞬間』毎に『虚構の軌跡』を「感
受」して表象を知覚しているのである。
　仏教では造物主から与えられたとは言わないが、その不思議な能力によって得た表象によって自分
を含む外界が如実に知覚されているかのように意識される。しかし、科学に『無限小時』が仮説され
たのと同様に、『瞬間』毎に知覚される表象は生理的な虚構としてのみ成立している。それ故、後段
に見られるようにそのような表象を仏陀は「欺き」の「虚妄の法」と呼んだ。

　自然科学が「外界」としている対象も、知覚内容が正確に捕捉計量された形に相応すると言えるか
もしれない。
　誤って実体的な外界を意識するに到るこのような知覚構造は、仏説では正しくない「行sankhara」
として排除されるが、この件については、次に見られるように分析する仏陀の思想がある。
　『サンユッタ・ニカーヤ』にそれを言う言葉がある。これは器物を破壊して仏陀を脅かそうとする
悪魔に遭ったとき、彼の誤りを諭して説かれたものとされている。筆者の訳文は次のとおりである。

　　　かの（外界の）有為〔＝実体〕なるものは（外界から知覚に）感受されたものが表象化され、
そして〔外界として記憶されている〕「色（観念的な実体的形態）」と（同じと）して認識されるの
であるが、私自身は（そのように誤って実体視されている）それ（＝有為）ではないし、私には（実
体視されているような）それ（＝有為）（の所有）はない、とこのよう（な心境）になる時、人は
（誰でも）執着を離れる。（SN。I‐IV‐2‐6。p.112.『悪魔との対話』三三頁参照）

　世間では、本能または先天的な意識が判断するとおり、自分たちに感受されて知覚されている表象
が外界の実体的な姿だと信じられて、「有為」とされている。しかし、仏陀の言葉では、われわれの
五官の知覚が外界に接触すると、先ず「〔瞬間的に〕感受されたものが成立し、それが「表象化され
る」。
　次いで、先天的習慣によってその表象が知覚に捕捉された外界とみなされ、すでに記憶されている
「没時間的な形態観念」と同定され、外界にある実体と「認識される」。そのように認識された外界
の実体が「有為」であると説明される。
　この説明の後で、仏陀は、私自身はそのように実体視されている「それ」、つまり「有為」ではな
いし、私には「それ」のような「有為」なる実体の所有がないが、このような心境になれたときに人
は誰でも外界の実体に対する執着を離れることができる、と教えている。否定されたこの誤った認識
の成立過程が漢訳語で「行」と翻訳されるものになるが、その本能的「行」の克服こそが仏教の実践
的眼目である。これこそ仏教の基本的な考え方の主張であり、外在する実体否定の宣言でもある。
　「知覚原因」の〈経過〉に向き合った知覚の不思議な能力により瞬間毎に「感受」されたものから
「表象」が構成される。瞬間毎の「表象」が区別されないで「静止像」として意識されると、これが
知覚経験される外界の姿、つまり、「世俗」とみなされる。これで終わらず、「世俗」利用の便宜の
ため、それらの経験が観念的実体として抽象され、没時的形態の「色」として記憶される。以後経験
される表象がその「色」に照合、同定されるため、外在する全てが実体の「有為」と広く認識されて
しまう。これが後代では「邪世俗」と呼ばれるものに入る。この経緯を経て人の執着するものが生ず
る。
　後段で仏陀成道後の宣言を見るが、そこには「すべての実在を見る心の働き（「行」）を止めた」
立場に立つことが求められている。この「実在を見る心のS4(saikhira/sax!lskira)｣とは、右に見ら
れたような、外界の「感受」から知覚された「表象」を「色」の観念と同定して、「有為」の捕捉と
誤って認識することである。そのような「心の働き」を止めよと言われているのである。
　仏陀の説明では、部派仏教の理解とは異なり、明らかに、能動表現の「行」とその結果の受動表現
の「有為」が区別されている。
　人間の日常の妄執のうち最大のものは、個人的存在の中核と思われる「我」であり、その実在が
「アートマン」と呼ばれ、世間一般にそれを信ずる妄執かおる。『サンュッタ・ニカーヤ』第三集で
は、

　　　比丘よ、一体どうして、何にとらわれ、何に執着して次のような見解をおこすのか。「それは
アートマン（我）である。それは世界である。そのような我は死後にもあるであろう。常住、永遠、
恒久であって、なくならない在り方のものである」と。（SN。111‐XXII‐3。chap.v。151（3）。p.
182）

　このように仏陀は弟子たちをたしなめた。『サンュッタ・ニカーヤ』第一集、第六篇「梵天に関す
る集成」、第一章、第四節（p.142）、バカ梵天にも梵天の偏見として似た一節が冒頭に見えている
（『悪魔との対話』九三頁）。
　先ず、人間にあるとされる不滅の「霊魂」、つまり「アートマン」「我」が、「何かにとらわ
れ」、「何かに執着して」誤って主張されていると指摘し、そのように思ってはならないと明確に否
定した。これも仏教の基本的な主張になる。
　とらわれている「何か」とは、信じられている「色」とその「名」であり、執着する「何か」とは
その「名色」との同定によって認識される実体の「有為」である。
　この場合「アートマン」、「我」と呼ばれているのは生体としての纏まりである心身を指している
わけではない。この心身の方は外界一般の在り方の一つであって、「所有されるもの」になる。その
原因になっている様態は「常住ではなく、失われる性質のもの」であり、知覚されない。もちろん、
表現されているような不変のものとは異なる。
　指摘されている「我」は外界一般の在り方の一つにならない。五官のいずれかに直接知覚されて表
象になるものではない。実に生体としての纏まりを主宰していると「信じられ」ている『願わしい』
観念的存在であるが、誰にもその存在が確認されたことのないものである。つまり、対応する知覚表
象がなく、形態のない名のみの「指される色の成立しない」「名色」に終始している。従って、仏陀
は「何にとらわれ」、「何に執着して」それを主張するのかと問いかけたのである。

　この「我」のようなものは、客観的に、静止して存在するものの特徴である「相」を持つことが出
来ない。何も手がかりがないのにもかかわらず永遠に失われない本質の「アートマン（我）という実
体であると誤って信じられている。

　この後の仏陀の教えで説明されているように、これはまさに好・悪の感情とともに記憶されている
が、経験される「表象」に由来しない「指される色の成立しない」虚偽の「名色」である。それに
「とらわれ」、知覚されたもの、例えば神像までをそれに同定して外在する実体と患って「執着し
て」いるのだとされている。

　なぜ外界を誤って実体視するようなことが起こるのかという具体的な仔細が『スッタニパータ』の
七五六番で次のように説明されている。
　
　　神々を信ずる世の人は、名色に執着して「非我」なるもののうちに「我」を見る。〔そして、〕
これこそ真実であると思う。（Sn.756.p.147）

　この言葉は「我」を真実と思う迷妄を解説したものであって、この「我」はいわゆる「アートマ
ン」である。これは
仏陀の哲学の基本に触れる最も大切な表明であり、二つの重要な表現が用いられている。一つは「非
我なるもの(anatta/anatman）」に用いられている否定辞「非（a/an）」であり、他は「名色（nama-
rupa）」という語である。
　誤りが生ずる原因として言及されているのは後者であり、この「名色」は、すでに「色」の形で言
及されたのを見てきたが、先ずそれから説明しなければならない。この「名色」が否定されるべき最
重要な在り方になり、その思想的な基盤が仏陀の哲学の中核になる。
　「名色」の「色」とは、表象が「静止像」としてのみ人に意識されると、それが捕捉された外界の
存在と理解され、知覚主体の意識により何らかの評価を受け、それから抽象され没時間的な形態的観
念が記憶されるのである。その後
では外界とみなされる同様の新しい表象経験がそれに照合されると、同定され、実体として認識され
る。

「名」とはその観念を指す名称である。すでに仏説で見られたように「感受」を介して知覚される表
象を無意識に「色」と同定・認識することで人は外界を実体視するのである。

　この「名色」は後の時代に言われる『名色』とはまったく違うものを指す。この言葉は仏陀が口に
したもので、当然仏陀と同時代のウパニシャッド哲学で用いられた理念に対応し、外界を名状する言
語表現の構成内容となっている
ものを指す。
　「名色」について『スッタニパータ』八六四番から八七四番に先ず「色」を取りあげた説明が見ら
れる。
　そこには、世間の人の意識には外界として把握されたものについて欲望に基づいて「愛し、好む」
もの、「好まない」ものの区別が生じ、その何らかの特徴が記憶される。後に外界にその同じ何らか
が知覚されると相応する没時的形態観念が想起され、それによってその何らかが外在すると認識され
る。そのとき「好ましい存在」なら、それを誰でも保有しようとするようになり、逆の場合は望まな
いようになるという。この基本的な理解が次のように説かれている。

　　　世間では何かを好ましい・好ましくないと言い、それに依存して欲望を起こす。（それらを）
色（観念的実体）として（記憶し、それに同定される外物の）有・無を見ながら世間の人は〔所有・
忌避の意向〕判断を起こす。(Sn。867。p169・『スッタニパータ』八六七番）

　知覚される表象について、世間では記憶されている相応する観念的特徴に同定しながら好・悪を意
識し、そのような特徴を以て外界に存在する実体を認識してそれの所有・忌避の意向を起こすという
説明になっている。

　ただ、直接知覚されているものだけについてこのように「有・無」の主体が言われているのではな
い。この点は先にも見た「アートマン」のように、「名のみの名色」とされるものもあり、それらに
ついても「名色」により「有・無」が言われる。

【事物の】好ましい・好ましくない（という判断）は（感官と知覚原因の）接触〔から生ずる表象相
応の「色」〕に由来している。接触がなければ実に〔静止像が〕その「色」との同定によって評価さ
れず、（外界に対する好悪の）区別は生じない。それ〔外物〕の有・無も〔成立〕意義が同じであ
る。それもこれ（感官と知覚原因の接触で生ずる表
象の「色」）に由来していると汝に告げよう。(Sn。870。pp.169‐170.『スッタニパータ』八七〇
番）

　これは欲望のもとになる「好・悪」の感情の由来が尋ねられた時の答えである。もしも知覚原因に
接することもなく終わっていて、表象から抽象され、記憶されたものについて「好ましい」とも「好
ましくない」とも思わない人は、「色」として毛嫌いされる「もの」の思いもなく、好ましい「も
の」の記憶もないため、「表象」を知覚しても、存在
する「もの」に厭な思いも好ましい思いも生じないから、外界に執着される実体の「有」が認識され
ないことになる。
　もちろん「ない」といって残念がるような、その否定も意識されない。

　『スッタニパータ』八七一番と八七二番では、「名色」に関する実践上の意識の持ち方が問われ、
「色」の名称の「名」も含めてその対応が説かれている。後者では次のように言われる。
　
　　名と色とに依存して（好悪の意識される）感官〔と知覚原因〕の接触が起こる。所有欲は（名色
と同定され、好ましい「もの」と認識される存在に対する）欲求に由来している。（その）欲求がな
いとき「わがもの（にしたい）」という我執はない。想起される色がなくなれば、感官（と知覚原
因）の接触が（所有欲、我執にいたるものとして）
ない。［Sn。872。p］70）

　この文に特別の説明は不用であろう。全ては「色」によって評価される特徴を持つものが意識さ
れ、執着の対象になると言うのである。
　これらの記憶された没時間的形態観念とその名は、事物の「相」とそれらを指す名称として理解さ
れるものにもなり、「相」を持つものが外界に存在するとみなされる。「静止像」として意識される
知覚表象は、様々の「名色」に同定されながら、外界に存在する『実体』の捕捉と確認されるのであ
る。

　「名色」の観念には、一過性の表象経験のように成立した日時の限定があるわけではない。つま
り、「名色」が成立するのは常に「没詩的恒久」である。このようにして「名色」は「有・無」のあ
る外界の実体も代弁するものになる。
　この「名色」成立の特色は天与のものではなく、仏陀が説明しているように人間が生活の便宜に即
して広義の「好・悪」感情を弁別するために作り上げた記憶である。ただ、そのことが意識されてい
ないだけである。

　次は「非」の意義について『スッタニパータ』七六五番に戻って説明しよう。

　【空海】

　この語の正しい理解のために、わが国の空海が〈阿字本不生〉義としてこの「非(a/an)」について
仏教の基本的な哲学を脱いていたことを紹介しなければならない。

その「吽字義」に次のように明言されている。

　　　もし非空、非有、非常、非断、非一、非異等と執するは、阿字の中の非の義の中に摂す。もし
不生、不滅、不増、不滅等の八不等と執するは、また阿字の中の不の義の中に摂す。またもし無色、
無形、無匠、無説等と執するは、また阿字の中の無の義の中に摂す。また未だ真実の義に会わず。な
らびにこれ遮情の辺なり。

　この文中に用例として示されたのは、知覚表象に由来する観念的実体の「名色」が言語表現中で否
定されるとき、異同、変化、有・無の三種になるとされ、この常識的否認の義が「遮情の辺」に堕ち
ていて〈阿〉字の否定する「真実の義」ではないとされているのである。

　では、「真実の義」はどのようであるかと言うと。

　　　また境界の風に遭うて縁に随って起滅すといえども、しかも心性は常に生滅なし。この心の本
不生を覚んぬれば、すなわちこれ漸く阿字門に入るなり。（『秘密曼荼羅十住心論』巻第七、四八一
頁）

　とある。この文は多様に理解されているかもしれないが、それらに縛られないで言うならば、

　知覚されているのは「縁起生」している表象の顕現・消失（起・滅）であるが、それら「虚妄の
法」は「静止像」として意識されるため、捕捉されている外界の姿（世俗）と誤って理解されてい
る。人はその外界知覚に相違する表象の推移が意識されるとき、「名色」によって外界を実体的に区
別して「言語表現」どおり理解しているため、外界に実体が「生・滅」していると思うのであるが、
そのようではなく、「虚妄の法」の表象に顕現・消失が繰り返されているのである。もちろん、「心
性に生・滅する実体は本初からありえない」と覚るべきであると、

このように言うものと理解しうる。

　「阿字（a）の否定についてこの主張を理解しておいて『スッタニパータ』に戻ると、

「神々とともなる世人」とあるのは、神々を信じている通常の世間の人々である。人々は生活上の習
性から日常の言葉を介して記憶している没時間的な名称や形態の観念、つまり「名色」に囚われてい
る。そのため、それらの観念どおりに評価される実体として
「神」を指す『我』が外界にあると信じ込んで執着している。例えば神像なども知覚されてはいる
か、そこに『我』が潜むわけではありえない。にもかかわらず、そのような『我』の存在も誤って認
め、それが永遠の実体であり、疑いない真実であると確信しているという説明である。

　言語表現に埋没している世間は、「排中律」に支配される論理の中で生活している。

　そこで「非我」とされる場合は、通常実体としての「自分（我）」を「Ａ」として、それを否定し
た場合に指される実体としての「非Ａ」相当の「他のもの」全てを指して言うことになる。もし「非
我」がそのような「遮情の辺」に堕ちた意味で用いられている
のであれば、「我」を「Ａ」なる「自分」とするとき、「非我」は「非Ａ」なる「他のもの」全てに
なり、それらが「我」である「Ａ」なる「自分」であるという主張になってしまう。これでは推も耳
をかしてくれない。

　つまり、ここで言われる〈非我〉は世俗の論理に従う「非我」ではない。
　このことを正確に了解するためには、後で見られるように、仏陀が自らの哲学の理解に求めている
「論理的解釈の範疇にない」見方が必要になる。そのことを十分意識しておかなければならない。

　この視点から言うと、論理の「排中律」に即して「正・否」の補完関係にある実体的な在り方のす
べてを含めてこの「〈非我〉なるもの」の〈非〉は否定しているのである。これは「阿字」の「真実
の義」に即しており、後で見られる「非相」の「非」にも相当する。このように解釈するとき、初め
て『すべての実在を見る心の働きを止め』た理解になる。

　問題の表現では、一般的な表象経験を指して「非我なるもの」と匠い、そこに『我』という実体が
見られるわけはないと言っている。したがって、この「非我なるもの」とは、上述の補完関係にある
『我』と『非我』の二つを共に否定した超論理的様態を言っていることが確かになる。

　問題になるこの「非」の説明は後代では『八千頌般若経』第一章や『中論』第二七－五噂の「観涅
槃品」に見えているが、上述の空海の「阿字本不生」義にも明確に説明されている。
　世問では、そこに「好ましい」もの（神）としての『我』が存在するとされるが、実際はありえな
い実体の『我』が空しく求められていると言うのである。
　この変わらぬ実体の「名色」を全てに空しく求めて誤った知覚経験に埋没する一般的事情そのもの
が次の七五七番で検討・説明される。

　　　彼らかある何か（Ａ1）として思っているそれ（Ａ1’）と、（次に、同じ）ある何か（Ａ２）
として思っているそれ（Ａ2’）は、実に同じではない。それ（Ａ2’）は（次の）それ（Ａ3’）に
とっては〈消失するから〉実に虚妄である。過ぎ去るものは実に虚妄な様態をしている。（Sn.757.
p.147）

一般に知覚される表象は、知覚能力の限界では瞬間毎の区別が意識されない。そのこともあって、
前後の瞬間に続いて知覚される表象が区別されず「名色」に囚われて同じだと思われ、静止したもの
と意識されている。そのため、意識された「静止像」が外界を捕捉したものと思われ、想起される
「名色」どおりの変わらぬ実体の「相」と思われ、外界そのものが実体視される。

　ただ、現実には何時の場合でも、どの表象も別個の瞬間に知覚され、それらは前後が同じではな
い。一瞬一瞬別々のものが顕現して知覚直後に消え去る仮象であり、顕れは「非相」にはありえない
から「偽り（の顕れ）」であって、真実が「偽わられている」のであり、もちろん実体の「相」の捕
捉ではない。表象は実に「虚妄の法（偽りの在り方）としか言えないという説明になっている。

　　　　　　２　先験的知覚原因と「縁起生」
　誤って実体視されている事物がどのようにして眼前に現れているのかと問われている場面が『サン
ユッタ・ニカーヤ』の二節に伝えられている。

　セーラーという尼憎がこの問題に答えるため仏陀の教えを伝えた頌詞を唱える。すでに知られてい
るが、この頌詞の後牛部分は僅かに形を変えて後代ナーガールジュナ、つまり、龍樹の『般若論』の
冒頭に実体生起の否定を言う頌として見えている。

　　「この個体は何によって作られたか。個体を作るものが何処にあるか。そして個体は何処から生
じ、個体は何処で滅するか」と。
　　　（中略）

　　「この個体は自体から作られない。この個体は他から作られない。（知覚が）原因に向き合って
機能を進行させたのち〔知覚に個体像が〕生じ、原因が滅びたならば、滅びる。……」。（SN。I‐･
V‐9。p.134.『悪魔との対話』七九－ハ〇頁）

　質問とそれに対する答えの初めの部分は、外界に顕現しているものを実体と見た立場で述べられて
いる。

　外界の静止的存在、つまり、実体とされているものが何処の何から作り上げられ、何処から生じ、
何処で滅するのかという本源的質問が出される。
　言われているものが外界の実体『Ａ』としてあるとして、それを『自体』とすれば、その『Ａ』以
外の全てである『非Ａ』が『他』になる。そして、実体の存在と論理を信ずる人々にとっては、この
「自・他」二つで言及される以外のものが排中律によってこの世にはないとされている。
　このような規定の中で、『自』は、この世にある『自』からも『非Ａ』からも生じないと言われ
る。
　もし、『自』から『自』が生ずるとしても、まだ成立していない『自』からは生じようがない。残
された『他』から『自』が生じようとしても『自』が成立していないため、『他』が規定されないの
で、やはり、生じようがない。その代わりに実体『自』が忽然と虚無から「常住」のものとして「生
じ」うるならばよいが、それもありえないのである。

　これは「自」で代表される実体が何からも生じないという答えであり、一切の実体の「生ずる」こ
とがありえないという主張になる。

　言い換えれば、「生ずる」主体になる実体が存在しないから、「生ずる」ことが成り立だないので
「生じない」のである。
　となれば、「滅する」主体もないので「滅する」ことが成り立たず、「滅しない」のである。

　即ち、実体の「本初不生」の原理が述べられ、実体の「生・滅」がありえないと宣言されているこ
とになる。

　では、世間で言われるものの「生・滅」とは何を指すのかということになり、続けて先験的「知覚
原因」に由来する「縁起生」が述べられているのである。

　俗に知覚表象はわれわれに捕捉されている外界の状態だと思われているが、それは、後で見られる
ように、先験的な「知覚原因」に向き合った「知覚」の働きの中で虚構の瞬間（「現在」）毎に
「幻」として経験される「表象」が先天的に誤解されているのである。

　引用された頌の最後には、知覚されている外界を表象の顕現とする立場からの説明が加えられる。

　表象は、知覚機能が「原因に向き合って進行したのち知覚に纏まって生じる」。「原
囚がなくなれば消える」と言われる。ここに言われる原因はもちろん『自』や『他』のような顕れを
持ち、個体と誤認されているものではありえない。そのようなものは全て前半の頌で変化の原因にな
れないと否定されているからである。

　このようであると、問題の原因は未だ顕れを持たないものにならざるをえない。つまり、知覚され
る表象の原因は未だ知覚されていない先験的なものだとされているのである。
　この表現は、表象の由来する原因が、表象の顕現する時間、いわば知覚を成立させている時間とは
異なった次元に位置し、表象の顕現する時より前に置かれるという重大な宣言と解明になっている。

　これが仏教の重要な哲学的概念「先験的」時間と「経験的」時間の関係になる。

　知覚の原因になるが、知覚とは無関係な外界は、仏説どおり、「常住ではなく（変動し）」
「（〈経過〉して）失われる性質のものである」。

　言い換えれば、
　あらゆる「常住ではない」〈変動〉が、時の〈経過〉とともに、〈今〉「失われ」続けるのであ
る。そのような〈今〉は過ぎ去った過去と未だ未ぬ未来の境として〈経過〉するので、静止している
ことはない。

　注意しなければならないのは、〈今〉という時間が〈経過〉して、消失する〈変動〉自体と区別出
来るようなものではないということである。
　また、〈変動〉というのは、言語表現の中でのみ通用するような静止的な在るものが無くなり、無
いものが在るようになることを指していう「変化」とは全く異なり、「変わり、動く」状態を指す
「無常」の同義異字であるから、その区別も深く意識しておかねばならない。

　本題に戻るが、知覚主体である自らも、他から見れば纏まった形で知覚されるが、外界の知覚原因
の一部になる生体である。したがって、他と全く同様に外界に〈今〉〈変動〉して〈経過〉し続けて
いる。同時に、自らは別の知覚原因に向き合って知覚生理の中で機能を進行させながら、表象の発生
を待つという経験を持つ。

　この具体的事情がより明確に示されている仏陀の発言がある。
　
　特に、そこに説かれる「縁起生」が、他ならぬ仏陀の成道直後の宣言とされる最も人事な言明中に
確認される。訳文は次のようになる。

　　　私が到達したこの法は深遠であり、見がたく、難解であり、寂静で、優れており、論理的思考
の範囲にあるのではない、微妙で、賢者にのみ知られる。しかし、この世の人々は（実体への）執着
を楽しみ、執着を好み、執着を喜ぶ。だが、執着を楽しみ、執着を好み、執着を喜ぶものに、「（知
覚が）これに向き合って進行する状態」であるこのことが「縁起生（「知覚原因」に向き合って進行
した後、知覚に纏まり発生すること〔表象をもつこと〕）」であるというこの道理は見がたい。ま
た、すべての実在を見る心の働きを鎮め、すべての依着を捨て、愛着をなくし、貪欲を離れ、尽滅す
るというこのことが涅槃であるというこの道理もまた見がたい。（SN。I‐VI‐1‐1。p. 136｡『悪魔
との対話』八三－八四頁）

ここに述べられている「縁起生」についての理解が、「（実在による）論理的思考の範囲にあるので
はない」から、その点を認識して「すべての実在を見る心の働きを止めた」ところから涅槃にいたる
のであると釘が訓されている。この訓戒を常に強く意識して仏陀の
哲学が吟味されねばならない。
　・・・・
　仏陀は、先天的な誤った「行」の働きを克服するため「すべての実在を見る心の働きを止めた」立
場を確立せよと求めている。

　初めに『サンユッタ・ニカーヤ』からの引用（SN。I‐IV‐2‐6。p.112）で見られたとおり、人は
知覚に持続的に「感受」されたものから表象を纏め、それを外界の捕捉と見て、没時的形態観念の
「色」と同定し、実体である「有為」と認識するが、その「行」を仏陀は否認していた。このことが
忘れられてはならないのである。

　「知覚原因」と「縁起生」する「知覚の結果」は例えば、次の例で理解されないであろうか。

　夜空に見られる流れ星を想像すると判りやすい。そこには青白い光条しか見られない。その上端か
ら末端までの全てに位置したと患われる星の類がどの時間にも知覚されることがない。この知覚原因
はどの時点でも「零の停滞」を続けているから原子構造も含めて静止体として成立しているものはな
い。・これが「知覚原因」の先験的事情である。

　この「知覚原因」に「向きあって進行する状態」を待った知覚機能は「経過する知覚原因」の相続
を『瞬間的に持続する（空間的）内容（軌跡）』の形に変換して「感受」すると、その「感受」から
「青白い光条」の表象が知覚に一瞬間顕現する。
「青白い光条」は知覚を欺隔した「虚妄の法」であり、外界に存在する相応事象はない。これが先験
的原因と経験的結果の関係になる。しかし、人間は《夜空に流星が見られた）と言う。

　このように、われわれの外にあるとされ、知覚の原因となるものは常住なものでなく、〈今〉〈変
動〉しながら〈経過〉して消失する。生体によってこれらが知覚される。われわれは、この一回かぎ
りの外界の様態から第一の『先験的時間』の経過を推測するのである。
　知覚機能は、「知覚原因の〈経過〉に向きあって、僅かな相続を一瞬の持続状態で捉え、そこで
「感受された」『持続する内容』から「纏まって発生する」「縁起生」の表象を経験する。その間の
知覚原因は〈経過〉して消失するため、知覚された表象もすぐ消失し、知覚は引き続き新たに「縁起
生」する表象を待つ。この瞬間毎の顕現と消失の繰り返
しで綴られる「連鎖」が、第二の『経験を成立させる時間』になる。これが「現在」と呼ばれる知覚
内に限られた時間である。

　自然科学が虚構の『無限小時』毎に成立する空間を計量しているように、生体は知覚機能のうちに
形成した「現在」という虚構の『瞬間』毎に「感受する」『持続する内容』から「虚妄の法」である
表象を知覚してその連鎖から「推移」を意識する。この「推移」が外界の歴史と理解されるのであ
る。

　人間は記憶されている「名色」に照合して外界を実体と認識する。「名色」から「言語表現」一般
を形成し、知覚される外界の「推移」を写すため、「生・滅」を併せた「変化」を意味する「動詞」
を設けた。しかし、「変化」は表象の上にも観念的実体の間にもありえない。しかし、誤って認識さ
れた外界の実体も同様に「変化」すると理解され
るようになった。この点は後段で再説されるが、この根本にあるのが仏教で最も厳しく排斥される実
体思想の「名色」的観念論である。第三の『没時間的恒久の時間』がこのような考え方を支えるもの
になっている。
．．．．．

【クリシュナムルティ】

『クリシュナムルティの瞑想録』J.クリシュナムルティ著　大野純一訳　平川出版社から

●　J.クリシュナムルティ　

「自由（すなわち社会道徳とその諸々の価値を全的に否定すること)こそは瞑想のはじめのものであ
る。それは多数が参集して祈りをあげるといった公の事柄ではなく、ただひとり常に社会的行動様式
の枠を超越して立っていることである。」

「あらわな現実の姿だけが唯一の事実なのであって、それが今の実体である。ところが思考はそれに
直面できないので、今についてのイメージを作りあげるのである。そのようなイメージとありのまま
の実相との間の懸隔こそは、思考が生み出した不幸に他ならない。」

「昨日の影を引きずることなくあるがままの実相を見ることこそが今なのであり、今は昨日の沈黙で
ある。」

　○瞑想について

　瞑想によって、何か日常的な思考や感情を超えたもの、すなわち、神秘的なビジョンや歓喜を得よ
うと追求したり、宇宙大に拡大された意識を経験しようとすることは,、その得ようとする自体、自
らの制約性の影をおとしていることに気づかないならば、それは、未熟で卑小な精神の働きであり、
瞑想という名のさまざまな幻想を生み出すことにすぎない。
　そのような自らの精神の卑小性に気づかないものは、瞑想という精神が描き出したものをいかに非
精神のものの如く権威化し、それに至る儀礼や瞑想法などを伝統化して、弟子を生み、それをマスタ
ーした導師たちを生み出すが、いずれも卑小な精神が織りなす幻想のなかでの隷従であり、自らの卑
称性を少しも脱皮していないのである。
ゆえに、このようなものは瞑想とはいえず、幻想でしかない。

　探し求めて得ようとする者は、求めているものを見いだすかも知れないが、その見いだしたものを
よくよくみてみると、不安や恐怖に根ざした卑小なる精神すなわち自分自身であり、その枠内での慰
めや幻想でしかない。探し求めて得ようとする背景にある自己の問題を理解しないものは、いかに安
楽で甘美で、壮大な殿堂を見いだそうと、自己の幻想、すなわち自己欺瞞の中にある。この意味で、
いかなる信念もドグマも瞑想ではない。瞑想を妨げるものはこうした自己の幻想、信念、ドグマであ
り、それによって絶対安心の境地に至ろうとする自己の欲求そのものにある。
こうした卑小なる自己の精神にきづき、それから自由であるとき、はじめて瞑想にあう。
ゆえに、自由―すなわち社会道徳とその諸々の価値に依存する自己を全的に否定すること―こうした
世間的な規範に条件づけられる背景にある自己の問題から自由であること・・・こそは瞑想のはじめ
のものといえる。

ただ独り常に社会的行動様式の枠を超越して立つこと。
真理は思考が作り出したものや、思考がこねあげてかってに真理とよんでいるものの中にはない。

○時間について
まず、自分で本当に発見するためには、あらゆる権威を放擲する必要がある。
無数の昨日のほかに、はたして時間はあるのだろうか。
時間とは、昨日、今日、明日という連続したもののことか。
昨日がなければ時間はあるだろうか。
幾千の昨日に連続性を与えているものは何であろうか。

○時間の鎖
現任が結果を生み、その結果が次に原因となるように、この両者には区別がなく、一つの運動であ
り、この運動のことを時間という。
われわれは、心も目も、この運動すなわち時間の目で全てをとらえ、過去の目で現在を解釈し、この
ことが明日を考えるもととなっている。
これが時間という鎖である。

○まさに、時間の連鎖に縛られたものが時間とは何かを問うのだが、そこに、からくりがある。
その問いこそが思考であり、思考はまさに昨日というものから発生しており、思考そのものが昨日、
今日、明日という時間を生み出すもとになっている。
今日というとらえ方すら、背後に、昨日というとらえ方があってのものである。その自覚もなしに
「あるのはただ今だけである」といったとしても、それは時間の枠内にあるにすぎない。
時間の枠内にある思考が、時間について問うことは、思考が思考で応えようととすることであるにす
ぎない。
昨日や明日といった枠にはまらないもの、「昨日も明日もないいま、時間はなく、ただ、あるのは現
在のみか」という問いは、思考が自らの目で時間の構造と性質を見極めて（すなわち、時間の枠内に
あるものは時間の枠を超えられないということを理解して）初めて可能となる問いである。

○そこで問う。
はたして明日は本当にあるのだろうか。（もちろん物理的時間はある）
われわれの内部に、はたして快と苦痛の明日、何かを実現するための明日があるのだろうか。
それとも、あるのはただ昨日と無関係な、今だけではないだろうか。

○思考が止まるときにはじめて、時間は停止し、そうした停止の瞬間に、「今」が現れる。これは観
念上のことでなく、現実のことである。
その現実の今は、思考すなわち時間の枠内にある今ではなく、思考のメカニズムが終止符を打ったと
きはじめて現れる「今」である。
昨日、今日、過去という観念に囚われないという、自由（思考からの開放、すなわち思考そのものが
止まることによる自由）においてのみ「今」現れる。

○「今における行為とはどのようなものを言うのか」
行為という場合、われわれが認識しているのは、時間と記憶に基づいた行為、昨日と現在との間にあ
る行為である。そして、この時間の間（ま）に、あらゆる混乱と葛藤が生じている。
このような時間の間隙がない行為とはどのようなものであるのか。昨日という終わったものにから派
生する思考が止まる。すなわち思考である精神が沈黙しているとき、時間という幻想は消える。そこ
にあるのは今という事実だけである。その事実の黙視が混乱と葛藤のない行為を生み出す。
昨日の影を引きずることなく、あるがままの実相を見ることこそが「今」なのである。「今」は昨日
の沈黙である。

ブッダとウパニシャッド信奉者との対話

　ブッダの説法を聞いていたヴェーダーンタ（ウパニシャッド信奉者）の信徒が言った。　

「私はあなたのお話を聞いてきたが、その中身は、現在に生かされているとはいうものの、や
はり、古来の伝統を引く純然たるヴェーダーンタにほかならない。」

　ブッダは「ヴェーダーンタとは何か。」と尋ねられた。

　ヴェーダーンタの信徒は次のように答えた。

「われわれの自明なる真理では、唯一の実在はこの世界およびその迷妄を創り出したブラフマ
ンであり、あらゆる人間の中に存在するアートマンは、ブラフマンと同根である。人間はちょ
うど夢から覚めるように、この日常的な多元の意識と顕現の世界から覚醒しなければならな
い。ちょうど、この夢を見ている者が、自らの夢全体を創り出しているように、個々人の意識
が顕現された世界と他者の全体を創り出している。
　あなた自身は何らこうしたことを言わないが、インドに生まれ育った以上、あなたの言って
おられることの内容は確かにそうしたインドの風土と信仰を基盤としている。あなたは、どん
なに革新的な悟りを開いたにしても、この古来の伝統の一部にすぎない。インドがあなたを生
み出したのであって、好むと好まざるとにかかわらず、あなたはインドの産物であり、インド
的な精神の待ち主なのです。あなたが話されるときの物腰、彫像のような静謐、そして容姿そ
のものが、まぎれもなくこの伝統を継承していることを示している。あなたの教えは明らか
に、われわれの先師が太古の昔から教え継いできたものに他ならない。」
　
　ブッダが話された。

「〈話し手》である私が、この国の伝統の中で育ち、この国の文化の制約を受けたインド人か
どうか、あるいは《彼》がインド古来の教えの集合体かどうかといった問題を、まず片づけて
しまいたい。

　まず、《彼》は出家しているが故に、インド人ではない。つまりこの国に生まれはしたが、
この国にもクシャトリヤやバラモンなどの階級にも属していない出家なのである。
　〈彼》はあなたが先ほど付与させた伝統そのものを否定する。自らの教えが古来の教えを継
承したものであることを全く否定する。

《彼》はインドあるいはヴェーダなど聖典に依らない者である。これらの伝統的で果てしない
教えや理論や規範は、数千年のうちに受容されて、世のいわゆる伝統、真理、啓示となった主
義主張や宗教をかざして、人間たちが何をしてきたか、この世で何が起こりつつあるか、を
刻々に目にしている者にとっては、そういった聖典は欺瞞でしかなく、無用である。

　人を制約し、条件づける言葉や、表象の受容を全的に否定する者にとって、真理は間接的な
受け売りできるようなものではない。《彼》はそもそものはじめから、どのようなものであ
れ、およそ権威を容認すること自体、真理の否定にほかならないと話している。

　人はあらゆる文化、伝統、社会道徳の外側に出なければならないと出家を勧める。

　あなたがそう聞いておられたら、《彼》がインド人であるとか、古来の伝統を現在の言葉で
語り継いでいるなどとは言わなかったはずだ。《彼》は全的に過去ならびに過去の教師、評釈
者たちや諸々の理論や公式を否定するものである。

　よいかね。

　真理は決して過去にはない。過去の真理は記憶の死灰である。なぜならば、記憶は時間の中
にあり、昨日の死灰の中には何の真理もないからである。
　真理は現に生きたものであって、時間の領域にはない。

　さて、以上恣意的な問題を片づけたので、あなたが自明なものとしているブラフマンという
中心問題に移ろう。

　ところで主張とは明らかにそれがどんな偉大な師のものであれ、誰の者であれ、どれも巧み
な精神の編み出した理論にほかならない。
　あなたは理論を体得し、まさにしかり、と言うことはできるであろうが、それはちょうど、
バラモンの家に生まれ育ち、その制約を受けた者がバラモンの幻像を見るのと同じである。明
らかにそのような幻像は彼自身の制約条件からくる投影にほかならず、同様に、クリシュナの
伝統の中で育った者はその文化を基盤とした経験をし、幻像を見るのである。

　したがって経験は何ら物事の真実を証すものではない。自らの見た幻像をクリシュナやブラ
フマンとみなすのは、結局のところ条件づけられた知識を反映しているのであって、それは経
験を通じて強められた空想の所産であり、神話でこそあれ何ら真実ではなく、まったく無意味
なものである。

　いったいに人はなぜ理論を求め、なぜ信念に固執するのであろう。このはてしない信念の主
張の背後には日々の生活、悲嘆、死、あるいは砂をかむような生の無意味性に対する不安や恐
怖が潜んでいるのではなかろうか。
　あらわな現実を前にして、あなたは救いの教理論を編み出す。そして、その教理論は、思考
と思い込みにより検証を重ね、いよいよ精妙さを増し、深みを帯び、重みを加えていく。数
百、数千年にわたる布教と伝統を経たものであるからと、その教理論は必然的、かつは愚かな
ことにも、絶対的な〈真理〉として確立されるに至る。

　しかし、よくよく観察してみたまえ。
　もしも、あなたがいかなる教義も理論も仮定していなかったなら、そのとき、あなたは、直
接自分の目で、あるがままの現実と対峙せざるを得なくなる。

　その《あるがままの現実》とは、まさしく、世界で起きている、思考であり、快楽であり、
悲嘆であり、そして死の恐怖である。競争や食欲、野心や力への欲望、追求に満ちた日常生活
の構造を理解するとき、あなたは理論や救世主、導師といったもののうわべだけを理解するこ
のの、無力さと、無意味さと、それに固執する愚劣さに気づき、はっと、悟り、あなたの悲嘆
や、思考が作りあげてきた全構造に豁然として、終止符を打つであろう。
　そのような構造に貫入し、それを理解することが、まさしく瞑想の本質である。
　瞑想によってあなたは、この世がベーダンタのいう迷妄ではなく、人間が他者との関係のう
ちに構築してきた恐ろしい現実であること自体に気づくであろう。

　あなたが、先ず何よりも直視し、悟らなければならないことは、教団などにおける教理論や
儀式をはじめとする諸々の禮拝物を背景にするヴェーダーンタの教えではなくでは、赤裸々な
現実社会なのである。

　人が恐怖や羨望、悲しみに突き動かされることなく、観自在であるとき、そのとき、はじめ
て、精神は安らかで静謐である。
　そのとき、はじめて、精神は日々の生活のうちに刻々に真理を悟り、さらにはすべての知覚
作用のかなたに飛翔できる。
　そのとき、はじめて、見る者と見られるものという二元性は終焉する。

　そして、これらすべてのかなたに、現実の混乱や闘争、虚栄や絶望と関わらない、始めも終
わりもない流れ、精神がついにとらえられない不可測の運動がある。

　あなたの精神、あなたの心が苦痛や不安、あるいは闘争性でいっぱいになっているかぎり、
真理を宿す余地はない。
　あなた自身が、こうしたことすべてを悟り、慈愛と呼ばれる悦ばしき光明にであったとき、
今、対話してきたことの真実がおわかりになる。」

　ブッダは、精神の蒙昧性に終止符を打てるのは、あなた自身の観自在力（あるがままに何の
条件付けもなく自在に観察できる自身の力）にほかならないことを示された。

●ブッダ親説

　仏陀の哲学で最も理解しにくい点は、われわれが外界として知覚に捉えているものを決して常識ど
おりそのまま外界に存在するものと認めないで、知覚はされるが、それは存在する実体が変化してい
る様子ではないとしていることである。

後代の仏典の例えば『八千頌般若経』では「知覚の原因」としての様態を「真如」と呼んでいる。

　仏陀は『スッタニパータ』八〇五番で出家を求める基本的な理由として。

　　　人々はわがものと執着したもので悲しむ。（自分の）持っているものは実
に常住でないからである。これは必ず失われる性質のものである、と判ったあと
は在家にとどまっていてはならない。

と説かれている。

ここで「わがものと執着する」のはもちろん誤った判断である。普通、自分の知覚が経験する表象
を外界の姿と思い、複数の表象を区別できないままにそれらを「静止像」として意識し、そこから抽
象した形態観念を記憶してその後に経験される「静止像」をそれに照合する。このようにして、例え
ば目の前のそれを、「わがもの」と認識し、外に在る実体とみなしているのである。しかし、この判
断は知覚が意識した「静止像」を、記憶している「静止像」由来の形態観念に照合して外界にある
「わがもの」と思っているだけであり、実際は想起された形態観念どおりの実体が外に在るのではな
い。
　ここではこの観念の成立事情もそれが由来する「静止像」や「表象」の「縁起生」も未だ説明され
ていないが、目の前に知覚されている「静止像」を、想起された観念どおり「わがもの」と認識する
のではなく、その知覚原因として外界に〈経過〉する実態を「常住でなく、必ず失われる性質のもの
である」と判ったら出家するのがよいという勧めである。

　この教えは、通常知覚された後「有為」〔実体〕と認識されている物や人間の「評価どおりの」在
り方を真実と認めて説かれているのでなく、知覚され認識されているものの外界にある「原因」とし
ての様態、つまり、実相を指摘して述べられたものと理解されねばならない。

　その指摘では、「わがもの」として執着の対象となっている事物は、「実相」では「実に常住でな
く」、「失われる性質のものである｣とされる。

「常住でない」とは「静止して存在するのではない」、「〈今〉変動しつつある」という意味であ
る。
　さらに「失われる性質のもの」とは、「停滞なく、経過して（〈今〉のその変動が）消失する」、
つまり、「過去になる」という意味である。つまり、同じ在り方が知覚されることはないから、これ
は太初以来一回だけ経過して消失するというのである。まさに知覚の原因とされているものの本質を
明言された。

　このような外界の実相にもかかわらず、知覚されているものが「わがもの」として、記憶されてい
る形態どおり外界に実在していると認識されているのである。
　この誤解が崩れ、実相が認識されるとき、人は悲しまねばならない。その道理を知ってそれが確信
できるようになるため出家しなさいというのである。

　一言でいえば、われわれの知覚の原因になっている外界は、経過して《消失しつつある〈今〉の
〈変動〉である》から実は常に「捕捉される静止的事物」がない。これは〈空〉の指す概念内容を説
いているのに他ならない。仏陀は世界が〈空〉であることを心から認識するために出家するがよいと
勧めていたのである。

　このことは、『スッタニパータ』の一一一九番で確言されている。

　知覚の原因になっている外界というのは、現に感受され、経験されている表象の在り方とはもちろ
ん異なっている。
　外界には、感受している生体としての自分も含まれているが、その時間的環境の中では、何ものが
どのような様態をして経通しているか把握しようがない。ただ知覚経験されている在り方から推測さ
れるしかない。

　仏陀によって、外界の時間の経過がどのように認識されているかは『マッジマ・二カーヤ』に次の
ように説明されている。

　　　過去なるものは捨て去られたものであり、未来は到達していないものであ
る。現行する在り方を時々刻々観察するものは、そのことを紛れもなく動かしよ
うもないものとして熟知して心を完成せんことを。

とある。

　ここでわれわれの前を時々刻々経過する「現行する在り方」は、
『スッタニパータ』七五七番で説明される、知覚に経験される表象であり、「偽りの顕れ」になり、
「虚妄の法」と呼ばれる。
　外界にはその知覚原因として〈今〉「〈変動〉する」〈無常〉が（停滞なく経過して）消失する
が、そのような外界の事情を現在の観察から推測し、熟知して心を完成するようになれよかし、との
教えである。

　その観察すべき「現行する在り方」について、『サンユッタ・ニカーヤ』第一集、第四篇の第三章
に、悪魔がバラモンに扮して仏弟子を誘惑したおり、それを退けた様子を仏陀に報告した話の中に見
えている。仏弟子は、外界の〈今〉を賢者は次のように知るべきであると教えられていたのである。

　　　この法（先験的時間の様態）は現に（知覚原因が）見られることに関わる
のであり、（表象が知覚された時の「現在」のような持続的）時間ではないもの
であり、（無常な変動よ）来たれ、（知覚よ、それを）見よと〔命ずる〕もので
あり、（それをその場から）導き去るものであることを賢者はそれぞれ知るべき
である。

『悪魔との対話』四四－四五頁

　「この法（の様態）は」、先験的知覚原因が「〈今〉目の前に見られることに関わる｣のであり、
過去に事象が知覚された「ある時のような（持続のある）時間」ではなく、〈今〉見られるべき〈変
動〉を、［来たれ］と呼び出し、知覚するものに、〈今〉それを「見よ」と命ずるのに関わるもので
あり、それを（時間が経過するため）、「消え去るべく導くものである」と説明される。
　このように先験的時間が、現行の経験から具体的に表現されている。知覚の原因が見られようもな
いまま、〈今〉無常に〈変動〉して、経過するため、消え去ることを如実に知悉せよと仏陀によって
説かれたことが伝えられているのである。
　
　われわれの周辺を観察すると、われわれが知覚する、しないに関わりなく、知覚の原因は外界に
〈変動〉していることが知られる。春が来れば花が咲き、散る。秋には紅葉する。われわれが鑑賞し
ようが、気もつかないで過ごそうが、それらと関わりなく、把握されていない知覚原因の〈変動〉
が、時の経過により消失して止まない。そこには、知覚する生体も知覚原因として時々刻々外界に
〈変動〉し続けて、時節が来れば老化して尽きる。このような外界の時間は、後段でも見られるよう
に、西欧でも、如何なる停滞もなく、過去と未来の境の〈今〉として未来に経過していると理解され
ていた。
　外界の〈変動〉として停滞なく経過する〈今〉の時間を、仮に静止している形で観念的に想定する
なら『零時』の停滞と言い換えられるであろう。このような『零時』の停滞の間には、空間が光以上
の速さで拡大するものであってもその始点から1ナノミリも拡大すること自体が許されない。つま
り、何処にも同時に二点のありうる空間が成立しないのである。

　今、哲学的に実相を言うときは、このような虚構の常識的時間・空間から成る外界は否定される。
世間で空間的存在とされているものも、経過して［失われる性質の］「常住でない」〈変動〉に由来
しているが、実に《知覚の中》で、停滞する「現在」という虚構の時間毎に成立する知覚表象の
「幻」の上に成立しているのである。知覚はその「幻」を捉え、それを「外界」の実体と誤認してい
るのである。
　
　仏陀の哲学では、計量される時間も空間も現実として認められてはいないのである。　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　

　仏陀による出家の勧めでは、人間に所有されていると思われている外界の「もの」についてその執
着を戒める理由が言われたのであるが、この「もの」は「者」ばかりでなく、「物」にも適用され
る。したがって、仏陀の後継者たちによる後代の部派の学者間に有力になった考え方に、人間の在り
方は無常で実体ではないが、万物を構成している物質は常住だという「人無我、法有」説が仏陀によ
って主張されたかのように言われたが、その事実は全くない。このことを充分認識して先に進まねば
ならない。

　外界には停滞のない〈今〉の〈変動〉が〈経過〉し、新しい〈変動〉に相続されている。われわれ
の知覚機能はそれに向き合って同じような条件の中で未来に経過している。ただ、生体には不思議な
知覚能力が与えられている。それによって、外界に〈経過〉する僅かな時間的推移に向き合って、そ
の間の〈相続〉を継続的に知覚が「感受」すると、それを『瞬間的軌跡』の形に変換できる。そのよ
うな感受内容に依存して知覚内に空間的表象が纏め上げられる。自然科学が『無限小時』の停滞を設
けて空間を成立させたのは、この点を模倣していると言えよう。自然科学では『無限小時』毎に空間
を成立させているように、生体は、あえて言えば「現在」という『瞬間』毎に『虚構の軌跡』を「感
受」して表象を知覚しているのである。

　仏教では造物主から与えられたとは言わないが、その不思議な能力によって得た表象によって自分
を含む外界が如実に知覚されているかのように意識される。しかし、科学に『無限小時』が仮説され
たのと同様に、『瞬間』毎に知覚される表象は生理的な虚構としてのみ成立している。それ故、後段
に見られるようにそのような表象を仏陀は「欺き」の「虚妄の法」と呼んだ。
　自然科学が「外界」としている対象も、知覚内容が正確に捕捉計量された形に相応すると言えるか
もしれない。
　誤って実体的な外界を意識するに到るこのような知覚構造は、仏説では正しくない「行sankhara」
として排除されるが、この件については、次に見られるように分析する仏陀の思想がある。

　『サンユッタ・ニカーヤ』にそれを言う言葉がある。これは器物を破壊して仏陀を脅かそうとする
悪魔に遭ったとき、彼の誤りを諭して説かれたものとされている。

　　　かの（外界の）有為〔＝実体〕なるものは（外界から知覚に）感受された
ものが表象化され、そして〔外界として記憶されている〕「色（観念的な実体的
形態）」と（同じと）して認識されるのであるが、私自身は（そのように誤って
実体視されている）それ（＝有為）ではないし、私には（実体視されているよう
な）それ（＝有為）（の所有）はない、とこのよう（な心境）になる時、人は
（誰でも）執着を離れる。

『悪魔との対話』三三頁

　世間では、本能または先天的な意識が判断するとおり、自分たちに感受されて知覚されている表象
が外界の実体的な姿だと信じられて、「有為」とされている。しかし、仏陀の言葉では、われわれの
五官の知覚が外界に接触すると、先ず「〔瞬間的に〕感受されたものが成立し、それが「表象化され
る」。
次いで、先天的習慣によってその表象が知覚に捕捉された外界とみなされ、すでに記憶されている
「没時間的な形態観念」と同定され、外界にある実体と「認識される」。そのように認識された外界
の実体が「有為」であると説明される。
　この説明の後で、仏陀は、私自身はそのように実体視されている「それ」、つまり「有為」ではな
いし、私には「それ」のような「有為」なる実体の所有がないが、このような心境になれたときに人
は誰でも外界の実体に対する執着を離れることができる、と教えている。

　否定されたこの誤った認識の成立過程が漢訳語で「行」と翻訳されるものになるが、その本能的
「行」の克服こそが仏教の実践的眼目である。これこそ仏教の基本的な考え方の主張であり、外在す
る実体否定の宣言でもある。

　「知覚原因」の〈経過〉に向き合った知覚の不思議な能力により瞬間毎に「感受」されたものから
「表象」が構成される。瞬間毎の「表象」が区別されないで「静止像」として意識されると、これが
知覚経験される外界の姿、つまり、「世俗」とみなされる。これで終わらず、「世俗」利用の便宜の
ため、それらの経験が観念的実体として抽象され、没時的形態の「色」として記憶される。以後経験
される表象がその「色」に照合、同定されるため、外在する全てが実体の「有為」と広く認識されて
しまう。これが後代では「邪世俗」と呼ばれるものに入る。この経緯を経て人の執着するものが生ず
る。

　後段で仏陀成道後の宣言を見るが、そこには「すべての実在を見る心の働き（「行」）を止めた」
立場に立つことが求められている。
　この「実在を見る心の働き｣とは、右に見られたような、外界の「感受」から知覚された「表象」
を「色」の観念と同定して、「有為」の捕捉と誤って認識することである。そのような「心の働き」
を止めよと言われているのである。

　仏陀の説明では、部派仏教の理解とは異なり、明らかに、能動表現の「行」とその結果の受動表現
の「有為」が区別されている。

　人間の日常の妄執のうち最大のものは、個人的存在の中核と思われる「我」であり、その実在が
「アートマン」と呼ばれ、世間一般にそれを信ずる妄執がある。

　『サンュッタ・ニカーヤ』第三集では、
　
　　比丘よ、一体どうして、何にとらわれ、何に執着して次のような見解をおこ
すのか。
　
　「それはアートマン（我）である。それは世界である。そのような我は死後に
もあるであろう。常住、永遠、恒久であって、なくならない在り方のものであ
る」と。

このように仏陀は弟子たちをたしなめた。

『サンュッタ・ニカーヤ』第一集、第六篇「梵天に関する集成」、第一章、
第四節（p.142）、バカ梵天にも梵天の偏見として似た一節が冒頭に見えている（『悪魔との対話』
九三頁）。

　先ず、人間にあるとされる不滅の「霊魂」、つまり「アートマン」「我」が、「何かにとらわ
れ」、「何かに執着して」誤って主張されていると指摘し、そのように思ってはならないと明確に否
定した。これも仏教の基本的な主張になる。

　とらわれている「何か」とは、信じられている「色」とその「名」であり、執着する「何か」とは
その「名色」との同定によって認識される実体の「有為」である。

　この場合「アートマン」、「我」と呼ばれているのは生体としての纏まりである心身を指している
わけではない。この心身の方は外界一般の在り方の一つであって、「所有されるもの」になる。その
原因になっている様態は「常住ではなく、失われる性質のもの」であり、知覚されない。もちろん、
表現されているような不変のものとは異なる。

　指摘されている「我」は外界一般の在り方の一つにならない。五官のいずれかに直接知覚されて表
象になるものではない。実に生体としての纏まりを主宰していると「信じられ」ている『願わしい』
観念的存在であるが、誰にもその存在が確認されたことのないものである。

　つまり、対応する知覚表象がなく、形態のない名のみの「指される色の成立しない」「名色」に終
始している。従って、仏陀は「何にとらわれ」、「何に執着して」それを主張するのかと問いかけた
のである。

　この「我」のようなものは、客観的に、静止して存在するものの特徴である「相」を持つことが出
来ない。何も手がかりがないのにもかかわらず永遠に失われない本質の「アートマン（我）という実
体であると誤って信じられている。

　この後の仏陀の教えで説明されているように、これはまさに好・悪の感情とともに記憶されている
が、経験される「表象」に由来しない「指される色の成立しない」虚偽の「名色」である。それに
「とらわれ」、知覚されたもの、例えば神像までをそれに同定して外在する実体と患って「執着し
て」いるのだとされている。

　なぜ外界を誤って実体視するようなことが起こるのかという具体的な仔細が『スッタニパータ』の
七五六番で次のように説明されている。

　　　神々を信ずる世の人は、名色に執着して「非我」なるもののうちに「我」
を見る。〔そして、〕これこそ真実であると思う。

　この言葉は「我」を真実と思う迷妄を解説したものであって、この「我」はいわゆる「アートマ
ン」である。

これは仏陀の哲学の基本に触れる最も大切な表明であり、二つの重要な表現が用いられている。一つ
は「非我なるもの(anatta/anatman）」に用いられている否定辞「非（a/an）」であり、他は「名色
（nama-rupa）」という語である。

　誤りが生ずる原因として言及されているのは後者であり、この「名色」は、すでに「色」の形で言
及されたのを見てきたが、先ずそれから説明しなければならない。この「名色」が否定されるべき最
重要な在り方になり、その思想的な基盤が仏陀の哲学の中核になる。

　「名色」の「色」とは、表象が「静止像」としてのみ人に意識されると、それが捕捉された外界の
存在と理解され、
知覚主体の意識により何らかの評価を受け、それから抽象され没時間的な形態的観念が記憶されるの
である。その後では外界とみなされる同様の新しい表象経験がそれに照合されると、同定され、実体
として認識される。「名」とはその観念を指す名称である。すでに仏説で見られたように「感受」を
介して知覚される表象を無意識に「色」と同定・認識することで人は外界を実体視するのである。
　
この言葉は仏陀が口にしたもので、当然仏陀と同時代のウパニシャッド哲学で用いられた理念に対応
し、外界を名状する言語表現の構成内容となっているものを指す。

ブッダと日本物理と新宇宙論について

　はじめに

本尊の御前で読経を捧げていると、自分がお経を唱えているという感覚は消えて、あたりの小鳥た
ちの声や、微風に揺らぐ木々の葉や旗の音とともに、御本尊のほうからお経が聞こえてくるように感
じ、そうか、お経はブッダのひびきなのだから、自分が唱えているのではなく、御本尊からのブッダ
のひびきを、我が身と口と心とのすべてでもって感受しなさいということかも知れないと、しみじみ
思うことがある。
　極微少にして、出来の悪い不完全な自分なれども、一心にブッダの経文を唱えてひびきかせている
うちに、いつしか、御本尊に、本堂内にと共鳴し、本堂内の諸尊に共鳴し、その共鳴は、倍々に響き
わたり、本堂の外へとひろがり、境内伽藍へ広がり、村々や街に広がり、田畑や森林、山々を越えて
広がり、海を越え、地球を越え、太陽系を超え、銀河星雲を超え、いくつもの泡のように見える大宇
宙をも超え、どこまでも広がるブッダのひびきのように思える。その、無限の宇宙を包み込むブッダ
のひびきが、この極微少なる自分に還ってきて、やがて、我が心身を支えるより微細なる世界へと果
てもなく広がり、これらすべてはブッダのひびきのままであるのだなあと思い、ああ、これを、廻向
というのだなあと、この歳になってようやく実感しながら、やがて、経文の読誦を終えて、いつもの
自分に戻った。
　
　念珠を取り手二手相去ること三寸ばかり。心の　前に當てて、観念せよ。
　無量壽佛相好圓満して壇中に在すと。
　想へ。本尊の心月輪の上に、秘密真言あり。
　我が　心月輪の上にもまた秘密真言あり。
　本尊念誦したもふ時は、本尊の御口より出でて　我が頂より入りて、我が心月輪
の上に列なれり　と。
　我れ念誦する時は、我が口より出でて、
　本尊の御足の下より入て、本尊の心月輪の上に　列なれり。
　是の如く相續して絶えず、一一の字より、大光　明を放つと。

　すべては、ブッダの待機説法を聞かせて頂いているのかも知れない

　ところで、これまで、無力ながらも探求してきたの中で、以下のような山口瑞鳳博士の仏教に対
する評説、ことに『ブッダ親説』に触れて以来、これまで宗教や仏教や密教、霊性学（スピリチュア
リズム）などを通して見てきた景色が一変してしまった。

　しかし、この『ブッダ親説』が、深く、心を揺さぶるところがあったとすれば、小職が少なからず
とも、J、クリシュナムルティに親しんでいなければ、おそらく、全く、知らないか、たとえ知りえ
たとしても、難解で小職の力量を遙かに越えたものであったかも知れない。
　同門のサンスクリット仏教研究者たちから、山口教授の小論文を閲覧させて頂く機会を得なかった
なら、無知極まりない小生には、無縁のモノであったろう。
　忘れもしない、東京で更生保護関連の『薬物乱用防止推進指導員』の研修会があった日の早朝、時
間が早すぎたので、溜池参道の喫茶店で、コピーしてカバンにしまっていた山口博士の論文に目を通
した瞬間の、あの衝撃的な感動は、今でも、忘れえない。知らず知らず、涙があふれ出し、茫然自
失、おかげで研修会ギリギリの参加であった。
　虚妄があばかれ、明晰性ばかりが残る極めて心地よくすがすがしい気分であった。
　
　とはいえ、これは一筋縄ではいかなかった。あれから十数年は有に過ぎた。
　今でも、この『ブッダ親説』小生にとって、あらゆる探求の際の、串となっている。
　
　ただ、この仏教哲学は自身の要に据え置くことは可能でも、それだけでは片付けられない様々な難
問があった。
　
　あの小生の近辺に現出する『氷の聖像』をはじめ、いわゆる見えざる世界からの創発的自然現象、
これらをどう受け止め、理解したらよいのか？
　見えざる世界という名の虚妄性に陥ることなく、まさに、本初不生に迫るためには、
　
【世間で空間的存在とされているものも、経過して「失われる性質の」「常住でない」<変動>に由来しているが、実に知覚
の中で、停滞する「現在」という虚構の時間毎に成立する知覚表象の「幻」の上に成立しているのである。知覚はその「幻」を
捉え、それを「外界」の実体と誤認しているのである。
仏陀の哲学では、計量される時間も空間も現実として認められてはいない。】　
　
　という『ブッダ親説』の前には、すべて虚妄であり戯論となり、何も歯が立たない。
　
　しかし、本初不生の先験性、今という現象性、過去の消失性。確かに、これは、未来から、今に向
かい、消失せる過去という、不可逆性であり、現象は一回限りの虚妄だとするならば、外界に進行す
る大宇宙・自然界・生命の絶えざる運行を掌るものが、本不生だとすれば、その本不生とは一体何
だ！という疑問が残る。
　
　実は、その、小生の身辺に生起する現象を含め、雑多な疑問に光を投げかけてくれるヒントが、量
子論を含めた最近の新宇宙論に見いだせるかも知れないと考える。科学は門外漢だが、今、実に面白
い。
　以下、緒に就いたばかりだが、いくつか、興味深い例を挙げておこう。

一、山口瑞鳳

　　資料文献：『評説インド仏教哲学史』　岩波書店

　仏陀の哲学で最も理解しにくい点は、「われわれが外界として知覚に捉えているものを決して常識どお
りそのまま外界に存在するものと認めないで、知覚はされるが、それは存在する実体が変化している様子
ではない」としていることである。
後代の仏典の例えば『八千咒般若経』では「知覚の原因」としての様態を「真如」と呼んでいる。

　仏陀は『スッタニパー夕』八〇五番で出家を求める基本的な理由として、「人々はわがものと執着した
もので悲しむ。(自分の)持っているものは実に常住でないからである。これは必ず失われる性質のもので
ある、と判ったあとは在家にとどまっていてはならない。」と説いている。

　ここで「わがものと執着する」のはもちろん誤った判断である。普通、自分の知覚が経験する表象を外
界の姿と思い、複数の表象を区別できないままにそれらを「静止像」として意識し、そこから抽象した形
態観念を記憶してその後に経験される「静止像」をそれに照合する。このようにして、例えば目の前のそ
れを、「わがもの」と認識し、外に在る実体とみなしているのである。
　しかし、この判断は知覚が意識した「静止像」を、記憶している「静止像」由来の形態観念に照合して
外界にある「わがもの」と思っているだけであり、実際は想起された形態観念どおりの実体が外に在るの
ではない。

　ここではこの観念の成立事情もそれが由来する「静止像」や「表象」の「縁起生」も未だ説明されてい
ないが、目の前に知覚されている「静止像」を、想起された観念どおり「わがもの」と認識するのではな
く、その知覚原因として外界に〈経過>する実態を「常住でなく、必ず失われる性質のものである」と判
ったら出家するのがよいという勧めである。

　この教えは、通常知覚された後「有為」〔実体〕と認識されている物や人間の「評価どおりの」在り方
を真実と認めて説かれているのでなく、知覚され認識されているものの外界にある「原因」としての様
態、つまり、実相を指摘して述べられたものと理解されねばならない。

　その指摘では、「わがもの」として執着の対象となっている事物は、「実相」では「実に常住でな
く」、「失われる性質のものである」とされる。

　「常住でない」とは「静止して存在するのではない」、「<今>変動しつつある」という意味である。
　さらに「失われる性質のもの」とは、「停滞なく、経過して(<今>のその変動が)消失する」、つまり、
「過去になる」という意味である。

　後で述べられるように、同じ在り方が知覚されることはないから、これは太初以来一回だけ経過して消
失するというのである。まさに知覚の原因とされているものの本質を明言した言葉と言える。

　このような外界の実相にもかかわらず、知覚されているものが「わがもの」として、記憶されている形
態どおり外界に実在していると認識されているのである。この誤解が崩れ、実相が認識されるとき、人は
悲しまねばならない。
　その道理を知つてそれが確信できるようになるため出家しなさいというのである。

　一言でいえば、われわれの知覚の原因になっている外界は、経過して消失しつつある＜今＞の＜変動＞
であるから実は常に「捕捉される静止的事物」がない。これは＜空>の指す概念内容を説いているのに他
ならない。仏陀は世界が＜空>であることを心から認識するために出家するがよいと勧めていたのであ
る。このことは、後段で引用される『スッタニパータ』の一一一九番で確言されている。

　知覚の原因になっている外界というのは、現に感受され、経験されている表象の在り方とはもちろん異
なっている。
　外界には、感受している生体としての自分も含まれているが、その時間的環境の中では、何ものがどの
ような様態をして経過しているか把握しようがない。ただ知覚経験されている在り方から推測されるしか
ない。

　仏陀によって、外界の時間の経過がどのように認識されているかは『マツジマ・ニカーヤ』に次のよう
に説明されている。

　「過去なるものは捨て去られたものであり、未来は到達していないものである。現行する在り方を時々
刻々観察するものは、そのことを紛れもなく動かしようもないものとして熟知して心を完成せんこと
を。」(Majhima,Nikaya al3 1-P.l8 7)
とある。

　ここでわれわれの前を時々刻々経過する「現行する在り方」は、後述の『スツタニパー夕』七五七番で
説明されたような知覚に経験される表象であり、「偽りの顕れ」になり、「虚妄の法」と呼ばれる。
　外界にはその知覚原因として＜今＞「<変動>する」<無常>が(停滞なく経過して)消失するが、そのよう
な外界の事情を現在の観察から推測し、熟知して心を完成するようになれかしとの教えである。

　その観察すべき「現行する在り方」について、『サンユツタ・ニカーヤ』第一集、第四篇の第三章に、
悪魔がバラモンに扮して仏弟子を誘惑したおり、それを退けた様子を仏陀に報告した話の中に見えてい
る。仏弟子は、外界のく今>を賢者は次のように知るべきであると教えられていたのである。

　「この法(先験的時間の様態)は現に(知覚原因が)見られることに関わるのであり、(表象が知覚された時の
「現在」のような持続的)時間ではないものであり、(無常な変動よ)来たれ、(知覚よ、それを)見よと〔命ず
る〕ものであり、(それをその場から)導き去るものであることを賢者はそれぞれ知るべきである。(SN-
IiIv,3-一pp.ll 7,18『悪魔との対話』四四一四五頁)

「この法 (の様態)は」、先験的知覚原因が「<今>目の前に見られることに関わる」の
であり、過去に事象が知覚された「ある時のような(持続のある)時間」ではなく、<今>見られるべきく変
動>を、「来たれ」と呼び出し、知覚するものに、<今>それを「見よ」と命ずるのに関わるものであり、
それを(時間が経過するため)、「消え去るべく導くものである」と説明される。このように先験的時間
が、現行の経験から具体的に表現されている。知覚の原因が見られようもないまま、<今>無常にく変動>
して、経過するため、消え去ることを如実に知悉せよと仏陀に説かれたことが伝えられているのである。

　われわれの周辺を観察すると、われわれが知覚する、しないに関わりなく、知覚の原因は外界にく変動
>していることが知られる。春が来れば花が咲き、散る。秋には紅葉する。われわれが鑑賞しようが、気
もつかないで過ごそうが、それらと関わりなく、把握されていない知覚原因のく変動>が、時の経過によ
り消失して止まない。そこには、知覚する生体も知覚原因として時々刻々外界にく変動>し続けて、時節
が来れば老化して尽きる。このような外界の時間は、後段でも見られるように、西欧でも、如何なる停滞
もなく、過去と未来の境の＜今＞として未来に経過していると理解されていた。

　外界のく変動>として停滞なく経過する<今>の時間を、仮に静止している形で観念的に想定するなら
『零時』の停滞と言い換えられるであろう。このような『零時』の停滞の間には、空間が光以上の速さで
拡大するものであってもその始点から一ナノミリも拡大すること自体が許されない。つまり、何処にも同
時に二点のありうる空間が成立しない
のである。

　今日われわれの常識の根拠とされている自然科学では、静止空間が外界に成立すると仮定して、その内
に見られる単位時間毎の空間的変動の結果を計量している。しかし、<今>外界に経過する時間に『零時』
の停滞しかないならば、そのような＜時間＞を分量で表現しようとしても、<時間>の蓄積が成立しない。
したがって、量のある時間は示せない。
　それでは困るので自然科学では『無限小時』を設けて『零時』の代わりにして、その蓄積を可能にして
いる。このようにして、『時間』を計量し、それによってこの間に成立する空間的変化を単位時間毎に算
出できるようにした。
　この『無限小時』の持続の間に『無限小』の空間的位相差が成立しうるので蓄積空間の計量も出来るよ
うになっている。
　時間と空間がこのようにして計量されていると思われるが、ただ現実には、未来に経過しない時間があ
りえないから、『無限小時』であれ、停滞のある時聞はありえない。それゆえ哲学では『無限小時』は成
立しない。『無限小時』が成立しないとき、『無限小の空間』も成立しないから、『無限小の空間』で構
成されるしかない計量可能な空間もありえなくなる。

　今、哲学的に実相を言うときは、このような虚構の常識的時間・空間から成る外界は否定される。
　世間で空間的存在とされているものも、経過して「失われる性質の」「常住でない」<変動>に由来して
いるが、実に知覚の中で、停滞する「現在」という虚構の時間毎に成立する知覚表象の「幻」の上に成
立しているのである。知覚はその「幻」を捉え、それを「外界」の実体と誤認しているのである。
仏陀の哲学では、計量される時間も空間も現実として認められてはいないのである。

　上の視点に立てば、自然科学はそれをコピーしていると言えよう。
　仏陀による出家の勧めでは、人間に所有されていると思われている外界の「もの」についてその執着を
戒める理由が言われたのであるが、この「もの」は「者」ばかりでなく、「物」にも適用される。したが
って、仏陀の後継者たちによる後代の部派の学者間に有力になった考え方に、人間の在り方は無常で実体
ではないが、万物を構成している物質は常住だという「人無我、法有」説が仏陀によって主張されたかの
ように言われたが、その事実は全くない。このことを充分認識して先に進まねばならない。
　
　法有説のように、現象を実体的に理解できるとするのは、自然科学を始めとする常識的な考え方である
が、今し方見たように、外界の時間が観念的表現で言えば「零時の停滞」しかない形で未来へ<経過>し
(新しいく変動>に相続され)て止まない場合、当然そこに空間が成立せず、そこにしか位置を占められない
静止的な存在もありえなくなる。

　したがって、自然科学も知覚原因になる外界を研究対象とすることは出来ない。この不便を克服するた
めに、知覚されている世界を<無限小時>と「無限小空間」で構成される「外界」としてそれに置き換え、
綿密に吟味するしかないのである。,
　他方、仏教の哲学では、われわれは「零時の停滞」しかない外界の知覚原因に向き合っていながら現に
空間的「表象」を知覚内に経験しているという。この知覚構造は自然科学と類似の虚構の上に成立してい
ると推測される。その事実については、もちろんこの後に詳細な解説を試みるが、当面の説明の都合か
ら、ここで大まかな事情をあらかじめ簡単に説明しておかねばならない。
　外界には停滞のない＜今＞の＜変動＞が＜経過＞し、新しい＜変動＞に相続されている。われわれの知
覚機能はそれに向き合って同じような条件の中で未来に経過している。　ただ、生体には不思議な知覚能
力が与えられている。それによって、外界に＜経過＞する僅かな時間的推移に向き合って、その間の＜相
続＞を継続的に知覚が「感受」すると、それを『瞬間的軌跡』の形に変換できる。そのような感受内容に
依存して知覚内に空間的表象が纏め上げられる。自然科学が『無限小時』の停滞を設けて空間を成立させ
たのは、この点を模倣していると言えよう。自然科学では『無限小時』毎に空間を成立させているよう
に、生体は、あえて言えば「現在」という『瞬間』毎に『虚構の軌跡』を「感受」して表象を知覚してい
るのである。

　仏教では造物主から与えられたとは言わないが、その不思議な能力によって得た表象によって自分を含
む外界が如実に知覚されているかのように意識される。しかし、科学に『無限小時』が仮説されたのと同
様に、『瞬間』毎に知覚される表象は生理的な虚構としてのみ成立している。それ故、後段に見られるよ
うにそのような表象を仏陀は「欺き」の「虚妄の法」と呼んだ。

　以上のようなブッダ親説の評説に遭遇し、ブッダの説く「虚妄の法」や「空」や「先験なる本不
生」は、いわゆる、あらゆる宗教的あるいは心の欺瞞性を打ち破るものであった。
　が、ここでは、科学や宗教における人間の虚妄性についてはよく理解できるのであるが、しかし、
では、先験より今に経過し現象している外界とは何だ！ということには一切触れられていない。
　先験・今・消失の実相を感受し記憶し止め概念化し、外界に先験より刻々に今に経過し消失してい
る感受したものを重ね合わせ、投影し、あたかも外界に実体があるかのように錯誤をしている。
　人間の感受の錯誤性については、確かにそうであろう。では、そもそも、人間の感受のもととなる
外界は何だというのだ！という疑問が残る。
　外界を実体視することの虚妄性はわかる！無常という実相もわかる。外界を実体視して、その視点
にたった相依性や縁起性による空の論理の矛盾もわかる。
　だが、そもそも、自分を含め、しかも、自分によらず展開している外界とは何なのだ！
　少なくとも人間に限らず帝釈天の網の目のようにリンクしながらマクロにおいてもミクロにおいて
も創造の営み、生命の進化？が展開している宇宙や自然や生命の存在とはいったい何なのだ！という
疑問は残る。

　そのようないささか小生の手には負えそうもない疑問の中、ひょんなことから、楢崎皐月とナシー
ムハラメインの下記の異端の天才物理学者の見解に遭遇した。この疑問に光明を投げかけてくれてい
るような気がしてならない。

二、山田廣成（立命館大学理工学部光工学科）

参考文献　
『対話原理小論』「感性にもとづく量子力学の解釈と新しい自然観」から

対話原理１４条

１) 世界は個体と付随する場により形成されている。

　□固体ではなく、個体である。粒子の概念を一般化したものである。個として識別されるまとまった固有の形態を有する全て
の存在である。・・・電子、陽子、中性子・・原子・・分子・・高分子・・蛋白質・・・微粒子・・・細胞・・機関・・胞子、種子、
動物、植物、人間・・・地球、太陽、太陽系・・・宇宙・・・。

２) 個体は必ず複数で種及び階層として存在し、単独では存在しえないし、存在が規定されない。

　□宇宙に電子が１個だけ存在する状態は規定されない。孤独な電子の波動関数は宇宙に無限に広がっているわけであ
り、無限であるが故にその存在確率はゼロである。同様にして、人間が宇宙に未来永劫に一人だけで存在する場合もその存
在を規定するものはない。即ち個体は、各階層で種として必ず複数で存在することが存在の実体である。また、複数であるが
故に階層を構成する。

３) 個体には階層性があり、故に場にも階層性がある。
　□個体の階層性は古くから知られているし、なかば常識である。
　□なぜ階層性が発生したかは、興味ある研究課題である。それは、大いに量子の存在と密接に関わっていると考えられる。
量子がとびとびのエネルギーを持ち、また、とびとびの質量を持つが故に階層が発生し、階層間もまた離散的である。
　□場は、物理学でいう４つの力に付随する場だけではなく、人間という個体間の相互作用に介在する場を含めて、場の概
念を一般化する。例えば、結果としてエネルギーの授受はなくとも情報の授受が発生し個体に内部変化が生ずるときそこには
場が発生すると規定する。交換力には場の発生があると考える。人間関係あるいは社会には交換関係にもとづく固有の場が
発生している。場にも階層性があるという主張が以下の論理の展開の一つの基調をなす。

４) 同一階層内の同種個体は共通である固有の場を形成する。

　□場だけが独立に存在するという立場はとらない。従って電子が認識する場と人間が認識する場には違いがある。しかし、階
層が近いほど場の構造も類似している。
　□時間は場に付属する概念であり、故に、階層により異なる。即ち時間は階層性を持つ。

５) 同種ではあっても完全に同一の個体は存在しない。即ち個体は個性を持つ。
　□ここでは個性の概念を一般化している。
　□電子といえども個性をもつ。電子が個性をもたない理由は証明されていない。電子といえども汲み尽くされない。しかし、
不確定生原理の故にそれは見えない。全ての個体は、少なくとも異なる時空（位相空間）に存在し、異なる運動量と異なる
エネルギーを持つ。人間は、人間という種として同定されるとともに、互いの違いを認識している。人間の違いは、内部構造の
複雑性にもとずくのみならず、人間個体としての位相空間の違いに基づいている。また人間の複雑性は、多数の電子の個性
を反映しているが故である。
　□厳密にはフェルミオンは個性をもつが、ボソンは個性を持たない。このことはフェルミ統計とボーズ統計の違いに示されてい
る。ボーズ粒子は、同じ状態を複数の個体が共有できる。光子は次に述べる対話の媒体としてある。

６) 個体は「意志」を有する。故に「意志」にも階層性がある。

　□ここでは意志の概念を一般化している。一般化された意志を「意志」とする。
　□選択された個性の発現を「意志」と呼ぶ。選択は、基本的には確率現象であると考える。選択する「意志」が存在するの
か、確率的な選択が発生したことを「意志」と呼ぶのかについては、現時点では言及しない。しかし、高等生物の有する意志
と、ミクロの世界の確率現象の間にはきわめて強い相関が有ることを指摘する。「意志」の実体が確率現象であり、確率現象
のことを「意志」と呼ぶといっても良い。人間の意志決定は、場が当方的であり、何らの外場、あるいはポテンシャルもない状
態、あるいは、興味を引きつける中心のない状態では、全く当方的かつ確率的に行われる。電子がとる選択も同様な確率現
象である。
　□「意志」と意識は異なることに注意。意識は、意志決定するために参照する記憶装置を中心とした概念である。
　□「意志」は高等生物だけの属性ではない。高等生物は一見複雑なプロセスを経て意識を参照して意志決定するが、他
者が観測できるのは、意志決定された行為であり、決定にもとづく行為自体は単純なものである。
　□植物の「意志」は、枝を出す場所を自分で決め、発芽の時期を自分で決めることである。全く同じ形状の木は存在しな
い。これは発現された個性であり、これをここでは「意志」と呼ぶ。
　□「意志」が目的を有するか否かは、今日、サイエンスとして語ることができないが、筆者が考える個体の目的の一つは個体
を維持することと、種を維持することである。個体はより近い種を維持しようと努める。なぜなら、いかなる個体も単独では存在し
得ないからである。発展し淘汰することは自明な目的とは言えない。

７) 個体同士は場を介して「対話」を行う。故に「対話」にも階層性がある。

　□ここでは、対話の概念を一般化している。対話は高等生物だけが行うものではなく、あらゆる個体が、他者を認識するため
の手段である。
　□対話は、物理学では相互作用という名で呼ばれる。工学では通信という名で呼ばれる。集団的な対話はコミュニケーシ
ョンと呼ばれる。全ての階層に共通した抽象概念をここでは対話と呼ぶ。
　□対話の本質は、同一の個体（同一状態の個体）が存在しないことに基づいている。個体同士が完全に同一で有れば、
対話を必要としない。個体の存在は常に対話により規定される。
　□対話は階層が隔たるほど困難になる。
　□観測という行為は、異なる階層間の対話である。異なる階層間の対話の結果は、よりプリミティブな階層の対話を支配も
しくは破壊する。
　□個体の存在は対話により規定される。対話に基づき自己の位相空間を決定する。これが存在の意味であり、種の意味
である。

８) 干渉現象は、対話の結果発生する。

　□干渉性は、同種個体間でのみ発生する。異種個体間では発生しない。人間同士にも発生する。異種粒子がまとまり
原子のような一つの階層を構成するときには発生する。
　□粒子の波動性は、干渉現象の現れである。波動性故に干渉が現れるのではなく、干渉現象の表記法が波動である。

９) 対話の手段には少なくとも光子が含まれる。

　□光子はあらゆる階層ののあらゆる個体が共有できるためである。
　□光子以外にも対話手段はあるはずである。対話の手段が光だけの場合、電子の奇妙な振る舞いを説明するのに、対話
が光速以上で行われることを仮定しなければならないことがある。但し、時間の概念に階層性があるとするとさらに深い考察が
必要である。
　□個体間には暗黙の了解があるかもしれない。生命の場合にはDNAが介在する暗黙の了解がある。ならば電子にも有るか
も知れない。電子は、宇宙の始まりにおいて発生したときの共通の記憶を所有しているかも知れない。
　□対話は、光子の授受により発生し、エネルギーの授受を行うとは限らない。電子が定常状態に於いても光子を授受する
描像は量子力学における第二量子化の概念である。

１０) 不確定性は、対話の不確実性であり、個体に個性または「意志」があることに基づく。

　□不確定性原理は、あらゆる階層において対話の帰結である。対話により個体が「意志」の変更を行うことを含む。
　□不確定生原理は、対話の不確定性と階層の違いによる不確実性の双方を含む。
　□観測問題は後者の問題である。観測は、階層間の対話であり、対話の結果、階層間には支配関係が発生する。

１１) 対話により導かれる帰結は個体の個性を色濃く反映するが、平均的な振る舞いはいわゆる物理法則に従う。
　□平均的振る舞いからのずれを不確定性と呼び、統計法則が支配する。
　□一個の電子がどの道を通るかは、不確定性原理により予測することができない。それは対話が個体の「意志」の変更を促
すからである。しかし、複数の電子が平均してどの道を通るかを予測することはできる。
　□一個の人間がどの道を通るかを予測することはできないが、集団もしくは平均の行動を予測することはできる。人間の次の
瞬間の行動を予測することはできないが、平均してどこへ進もうとしているかを予測することはできる。

１２) 量子力学は対話に関する一般法則であり、全ての個体間の対話を記述しうる。
　□波動関数が対話の本質を表す。存在確率を導くための複素共役部は他者からのメッセージである。
　波動関数は、一回の対話から成り立つとは限らない。無限回の対話の帰結であることも数回の対話の帰結であることもあ
る。対話の結果の平衡状態が波動関数として示される。従って波動関数は同種個体の作る場の構造を示す。
　□ヒルベルト空間は、場の構造を記述する。即ち、対話の構造と対話により生ずる可能な全ての道筋（状態ベクトル）を記
述したものであるが、実際には各個体が「意志」に従い、どれかの道筋を選択する。
　□ヒルベルト空間の数学形式は、階層によらず一般的であるが、使われるパラメターは階層に固有である。
　□量子力学が確率的であり統計性をもつことと、社会現象が統計性を持つことは偶然ではなく、共に対話原理により導き
出されるものである。場の構造が階層にかかわらず類似していることを意味している。数学的には同じフォーマリズムを使用する
ことを正当化する。
　□第２量子化の意味は、９）で述べたとおりである。

１３) 共鳴現象は、対話の結果発生する「意志」の統一である。従って、あらゆる階層に共通する現象である。
　□集団運動に共鳴現象が発生すると、状態ベクトル（波束）が収縮して一つの状態になり、個性が消失する。即ちコヒー
レントな状態である。
　□人間社会の共鳴現象と、電子の共鳴現象は、対話原理では同質のものである。
　□最も単純な共鳴現象は、電子の集団が同一方向に進む電流である。川の流れ、超電導、超流動、電磁波、自動車
の流れ、etc.
　□光子集団の共鳴状態が電磁波であるが、波動性は、光子のつくる場の構造であり、光子の属性ではない。
　□古典力学は、共鳴状態の力学であり、集団の状態ベクトルが一つに収縮した状態である。このような状態は観測により
変更されない。惑星の運動は、構成個体の全てが協調している運動である。

１４) 対話の結果、万物が流転する。
　□万物が流転することの意味がここに於いて明らかになる。流転する先は、ニュートン力学的には決まっていない。宇宙の全
ての個体が対話を繰り返した結果として流転先が決まることは確かである。
　□宇宙をこの原理で述べる個体の一つと考えるならば、宇宙の「意志」は、宇宙を構成する全ての個体の「意志」である。
人間もそこには含まれる。人間の意志も宇宙の流転先の決定に関与している。人間の「意志」が宇宙を支配することも有れ
ば、人間の「意志」は滅びることもある。宇宙の「意志」は、一神論によりあらかじめ決められたものではなく、全ての構成個体の
総意として決まるものであるというきわめて当たり前な結論である。しかし人間はそのことに責任を有することも結論される。
　□対話原理は、こうして日常の人間の感性と矛盾することなく、かつミクロの世界の常識と合致している。

　観測という問題をまず人間社会に適用してみるのが、筆者の提唱する指導原理である。人間社会における観測問題は、
高度な言語をもつ文明人が、孤島の山奥の未開部落に紛れ込んだ状況に似ている。この文明人は、同胞に未開部落のこ
とを知らせるために未開人との対話を試みる。もちろん言語は通じない。文明人にできることは、未開人の間に入り、未開人と
行動を共にし、未開人の行動を子細に観察してその意味を推測することである。これは、対話の一形態である。対話は、言
語を使うとは限らない。文明人と未開人の対話は実に不完全であるが、同じ人間という種に属するから対話は可能である。文
明人は、次第に未開人の言語を習得するが、行動と言語の対比は実に不確実である。そして、この文明人が同胞に未開
人の発見を知らせるときにもう一度情報伝達の不完全性がつきまとう。文明人が同胞との連絡に出かけた間に、未開人はど
こかえ移動してもうそこにはいないかもしれない。同胞は、一人が見ただけのことをなかなか信用しない。何人かを送り込み再確
認してはじめて共通の認識となる。観測問題につきまとうのは本質的にこのような不確実性である。
　シュレディンガーの猫に現れる放射性同位元素の崩壊は、核子間の対話の結果として起こる。対話の結果、原子核はあ
る状態に遷移し、核子を放出する。核子を放出する確率は、準位の幅に逆比例するが、準位の幅は即ち核子の占める位相
空間の幅である。これは、対話原理に翻訳するならば、核子の「個性」の幅である。また、原子核がいつ崩壊するかは、核子の
「意志」によるものであり、人間の意志で容易に変更できる事柄ではない。結局、観測するまで我々は核子の状態を知ること
はできない。ここには確率という概念は有っても波束の収縮という概念は不要である。
　しかしもうしばらく観測問題を考察してみると、まず検証しなければならないのは、我々の実験は高い精度を持っているが、全く
不完全なことである。実験技術上も対話の本質上も、核子の運動量あるいはエネルギーの観測には必ず不確定性にまつわ
る曖昧さを残している。
　検出器の中での核子の振る舞いを我々は決して観察できない。検出器の中で、飛来した核子が最終的にどうなったかを
我々は知ることができない。増幅器により核子のエネルギーが電子の集団運動に転換されるときにも不確定性が伴う。我々
が観測したとするエネルギーはもはや核子のエネルギーそのものではない。我々の観測量は、もともと核子が持っていたエネル
ギーとは独立の物理量として記録される。観測量はマクロな客観量であり、核子が持っていた物理量に限りなく近いものであ
るが、決して同一量とは言えない。検出器のなかで核子の運動エネルギーが電子の集団運動に転換されるが、集団運動
は、たくさんの個体が同じ情報を共有している状態であるから、これをさらに外部から観測することによっては容易には影響され
ない量である。（増幅装置を置かなくても人間が直接光子一個を観察できるではないかという人がいるかも知れない。ところが、
この場合の「目」は増幅器以外の何者でもなく、電子の集団が視神経を伝搬している）一個の電子が核子の情報を受け継ぐ
場合は、量子力学的関係、即ち対話の関係が電子と核子との間に成立するため新たな不確定性をまぬかれないし、また情
報を受け継いだ電子を我々はとらえることができない。ところが、複数の電子集団に受け継がれた情報は、きわめて確かである。
従って、観測以後の情報は確定し、不確定性は消滅する。集団が持つ情報を、だれしも容易には変更できない。とりわけコ
ヒーレントな状態は、関与する全ての個体が同じ情報を共有している。即ちこれが、波束が収縮した状態である。さらにこれが
マクロな世界の確定性の意味である。複数の個体が同じ情報を共有した状態が古典力学の世界である。
　もしコペンハーゲン流の波束の収縮という言葉を使用したいならば、原子核のエネルギーが検出器内の電子の集団運動
に転換されたときに起こったということであろう。しかし、既におわかりのように、実は、核子のその後を我々は決して知らないので、
コペンハーゲン学派のいう一次結合状態は未だに、また未来永劫に収縮しないのである。一方、話を遡り、対話原理に従う
ならば、核子が放出された段階で、核子の「意志」によって、これを自然の摂理と呼ぶが、既に波束は収縮しているのである
が、我々がそれを知らないだけであると言っても差し支えない。
　観測により波束が収縮するという考えはお粗末である。そもそも観測は人間の行う行為であるから、波束の収縮は人間の脳
の中で起きたと結論したフォン・ノイマンを責めることはできない。そもそもこのステートメントがお粗末だからである。それではシュレ
ーディンガーの猫はどうしたらよいであろうか？波束が収縮しないために未来永劫に生状態と死状態をさまよっているかと言え
ば、実は波束の収縮とは無関係に、いうなれば無実の罪で死刑が確定し、法務大臣の死刑執行を待つ身なのである。法務
大臣の死刑執行を聞かされない一般市民は、蓋を開いて初めて認識するわけである。一般市民も猫も波束の収束にはいっ
さい関与していない。
　さて、ここには情報の不連続性があり不確定性がある。対話に階層性があり、異なる階層間の対話が間接的であることが示
されている。しかし、我々は、異なる階層で起きた対話の帰結を観測を通じて、しかも繰り返し行うことにより、限りなく正確に予
測することができる。繰り返し観測することにより精度が上がることは、実験物理学の基礎である。それは、全ての自然現象が
統計的であるという量子力学の本質に根ざしている。対話原理でいうならば、繰り返し観測することは、電子の個性を捨象す
ることである。人間は、人間の意志とは無関係に存在する世界を対話により間接的に認識することができる。フォン・ノイマンさ
んが混乱したようには人間の意識の中で波束が収縮したことも今後することもない。但し、対話原理の持つ意味は、１４条に
示したように、宇宙の「意志」の決定に、人間も電子も関与しているという意味に於いて、人間の意志が宇宙の「意志」にかか
わっている。人間の観測行為は、電子の意志を曲げて電子を混乱に陥れている。これは、おおげさすぎるとしても、人間は宇宙
の一部であるとともに、宇宙の「意志」の一部を形成し、しかもその「意志」を人為的に改造し、あるいは破壊することができる。
宇宙の「意志」は、宇宙を構成する全ての個体の意志の総体であるから、人間が宇宙を支配することもあるし、滅びることもあ
るといえる。宇宙の「意志」には、全ての個体の意志が関与しているというのが対話原理の重要な帰結である。

４．対話原理の適用２：波動性と粒子性の統合
　　ミクロな個体の波動性と粒子性の統一は、「マクロ」と「ミクロ」の間に横たわる最も大きなギャップである。しかし、対話原
理によれば、波動性は個体の属性ではない。個体が持つのは干渉性である。それは、対話の結果発生する干渉性である。
個体は絶え間ない対話のためにその状態は不確定であり、波動的である。波動性は、場の属性である。個体に付随する場の
属性であり、既に定義したように対話の属性である。
さて、２つのスリットにより電子が作る干渉模様は、電子とスリットの対話の結果発生したものである。スリットは多数の電子によ
り構成されている。これは、電子間の対話の問題である。電子は、対話の結果あらかじめスリットの存在を知っていたと言って良
い。スリットが１つであるか２つであるかをあらかじめ知っていたわけである。これは波動関数の非局所性である。あらかじめという意
味は、対話の場が、既にスリットにより変更を受けていたという意味である。その場に従って電子が進行し干渉パターンをつく
る。対話が高速以上で行われたと仮定する必要は必ずしもないし、電子があうんのこきゅうをもっているとすることもない。見方に
よっては遠隔作用論的な場が存在していたといって良い。こうしてスリットが１つであるときと、２つであるときでは、あらかじめ場が
異なり異なる干渉模様をつくる。
電子が２カ所以上の場所に同時に実在するという解釈はとらなくても良い。我々は、電子がどちらのスリットを通ったかということ
をあくまで知らないだけである。電子の道筋は、電子がそれぞれの「意志」に従って決めた事柄であり、その結果は確率的であ
る。電子は、場の波動関数が示すスクリーン上の特定の場所へ確率的に到達する。知るという操作は、あくまで人間が行う
観測であり、前節で示したとおり、観測はプリミティブな対象系を破壊する。従って、電子が片方のスリットを通ったことを観測
し、確認すれば、系が破壊され、２つのスリットによる干渉効果は直ちに消滅する。いとも当然な帰結である。電子が片方のス
リットを通ったことを確認する方法として、第３の電子または光子あるいは原子を用いると、事情は多少異なる。系は完全には
破壊されない。しかし、問題は、１つの電子と２つのスリットと言う系ではなく、１つの電子と、１つのスリットと、観測のための電
子または光子という系で考えなくてはならない。即ち第３の個体との対話が発生するわけである。問題を解くには、第３の個体
を含めた波動方程式を解かなくてはならない。
　興味深いのは、電子はどの時点でスリットの存在を認識したかということである。電子がフィラメントを離れる瞬間であろうか？
あるいは、スリットの直前であろうか？これは実験的な検証が可能な問題である。電子がフィラメントを離れ、スリットに到達する
前に片方のスリットを閉じたらどうなるであろうか？実験はフェムト秒レーザーで光電子を発生させ、スクリーンを目指して加速
し、常時開いているスリットの片方をタイミングを見計らって閉じることで実施できる。
　対話原理では以下のことが推測できる。ある電子は、対話の結果２つのスリットが開いていると思いこんで第１のスリットに向
かって走ってきたら、急に第１のスリットが閉じたわけである。この電子はスリットを通り抜けることができない。しかし、第２のスリット
に向かっていた電子はどうであろうか？第１のスリットが閉まったことを知らないままに第２のスリットを通過するとしたら、この電子は
干渉模様をつくるに違いない。しかし、閉まったことを通過する前に知れば、干渉模様は消える。答えは、いつスリットが閉じたか
により干渉模様が現れたり消えたりすると思われる。これが対話原理の予言である。もしこれが正しければ、電子の対話に必要
な時間を導き出すことができるであろう。

５．E.P.Rパラドックス

　読者は、この問題に対する答えをもう予測することができると思う。電子があくまで粒子であると思っていたアインシュタインの
批判は的を得ていた。ボアーはこれに答えることができなかった。もともと話は簡単である。スピンが上向きと下向きの光子が対で
発生するのは、原子内の電子及び原子核の対話により起きたことがらである。観測の方法には関わらず、光子が原子を離れ
た後で急に偏向子の向きを変えたとしても、観測された光子が下向きならば、相棒の光子は必ず上向きである。光子間のあう
んの呼吸を仮定する必要もない。ただ単に、自然界が人間の意志や観測には無関係に存在しているという事を仮定すれば
導き出せる。この問題は、量子力学に深入りしていない学生ほど正しい答えを出すことができる。私たちはだいぶボアーの亡霊
に惑わされたようである。かといってアインシュタインも正しい答えを出すことができなかったのは残念である。

６．対話原理の適用３：ブラウン運動
　ブラウン運動に関して、シュレーディンガーが、「自然法則の可逆性について」というタイトルで論文を書いたということを最近
知った。ブラウン運動の理論を時間反転も同時に扱えるようにすると量子力学と同じ形式になるというものである。これは、シュ
レーディンガーがミクロの法則とマクロの法則に強い相関があることにいち早く気づいていたことを示すものである。ブラウン運動
の実数の方程式を時間反転すると虚数のシュレーディンガー方程式が自然に出てくると長沢正雄氏[2]が主張している。そ
して、このことから、波動関数の複素共役部分は未来からきた情報であるという解釈が生まれた。ここで、未来からというステート
メントは、あまりに刺激的であるから、このことをあまり神秘的に考えてはいけないと長沢正雄は注意している。神のみぞ知る未来
からのメッセージを聞くことはあまりに神秘的である。
まず、ブラウン運動の方程式であるが、この方程式から複素数解は発生せず、振動解も出てこない。なのにシュレーディンガ
ー方程式とブラウン運動の方程式が等価であるという考えは、長沢正雄が言うようには直ちには理解できない。しかし、これを
対話原理で理解するならば、違和感は発生しない。なぜなら、対話がいつでも振動的に起こるとする必要はないからである。
対象に依っては、対話は一方的に起こることもある。ブラウン運動では、対話は、水と花粉という異なる階層間の対話である。
第１０条で述べたように、異なる階層間の対話は、よりプリミティブな階層の対話を支配し、破壊するから、対話が一方的に
行われることは至極当然であり、振動するような互いにやりとりをする対話とはならない。
　一方、マクロな世界の対話でも、同じ階層間の対話を扱うならば、対話は繰り返し行われるから、振動解となり、シュレーデ
ィンガー方程式で扱うことができる。このことを証明したのが、同じく長沢正雄氏であり、「猿の棲み分け」と「大腸菌の分裂」の
計算にシュレーディンガー方程式を使って成功している。この例は、猿同士、あるいは大腸菌同士という同じ階層の対話を扱
っているから、シュレーディンガー方程式が成り立つわけである。
　次に未来からのメッセージという解釈についてであるが、対話原理に基づいて事の真相を説明するならば、それほど神秘的で
もない。まず我々には、神のみぞ知るような未来はないのである。なぜなら、対話原理の１４条で示したように、未来は、我々を
含む全ての個体の総意により決まり、故に時事刻々として変化しているから、それは神秘でも何でもない単に未知の世界であ
る。ニュートン力学的自然観や、一神論的自然観に基づき人間の知らない神のみぞ知る未来があるとこれは神秘的に見え
る。そしてさらには対話原理の１２条に示したように、量子力学の波動関数の複素共役部分は、実は、未来からのメッセージ
というよりは、単に対話の相手方からのメッセージである。こうしてシュレーディンガー方程式から神秘性は消滅する。
　量子力学にパラドックスが存在しないことは、既に何人もの方が色んな方法で主張している。統計作用素の導入[3]や、
拡散方程式による説明など、基本的には自然界の統計的性質に基づいた取り扱いである。すでにおわかりのように対話原理
も基本的に自然の統計性を基本としているから、パラドックスはもともと存在しないと言う立場である。ところが対話原理はさら
に、統計性を持ち出すまでもなく、電子が人間の意志とは無関係に、電子の「意志」に従って意志決定し、運動することを認
めさえすれば全てを自然に説明できると主張する。なんのことはない、自然が我々の意志とは無関係に客観的に存在している
という主張を確認しただけである。但し、電子にも独自の「意志」があるからこそ客観的な存在であったわけである。今後我々
は、なぜ自然界が統計性を持つかという問題へ研究を進めなければならないと思う。

７．対話原理の役割

　対話原理を作ってみて、正直なところ私は興奮した。今までコンプレックスを感じていた量子力学の難解さがいっぺんに氷解
し、まず学生に自信を持って教えることができるようになった。人々に物理学を分かりやすく解説することは大変重要である。な
ぜなら、人々は今、原爆を作った物理学者に猜疑の目を向けているし、自分たちに理解できない物理学により世界が動かさ
れていると感じているからである。そして、興奮したもっと大きな理由は、どうやら自然の本質を認識したような気がしたからであ
る。なにか衒学的なものに惑わされることなく、素直に、感性に従って自然を理解できるようになったからだ。ボアーの亡霊から解
き放されたのかも知れない。今風に言えばマインドコントロールから解き放たれたのかも知れない。
　対話原理は、電子に個性があり、意志があり、対話があると主張する。このことだけを聞くと、科学者は、直ちに私を科学者
の世界から追放しようとするだろう。しかし、すこし待って欲しい。私は、むしろ意志というものを科学的に取り扱おうと提案してい
る。意志の存在こそが確率現象の実体だと指摘している。私たちは、量子力学が確率現象であるということに確信を持った。
私たちは、さらにその先へ進むべきときにきている。即ち、なぜ確率現象なのかが問われている。それが意志の問題である。意志
の問題を通して、人間と自然界の関わりを明らかにできる糸口をつかんだと思う。私たちは、人間をことさら下等生物や、無機
物と区別してきた。それが人間の尊厳であるとしてきた。そしてその違いが人間の意志にあると考えてきた。ところがこの枠組みが
崩壊しつつある。生命現象の解明が進むと共に、生命と非生命の境界が消失しつつあある。人間の営みが環境破壊を進
め、人類の滅亡を招くような状況が生まれつつある。自然科学に対する人々の猜疑心が広がっている今、自然科学、とりわけ
物理学は、人間の精神や生命の意味について考えることを拒み続けるのをやめ、物質と精神の関係について解き明かすときに
きている。対話原理は、自然界と人間界を融合する糸口を与えている。物理学がもっと大きな包容力をもつための糸口を与え
ていると私は確信する。
　既におわかりのように、対話原理は一つの自然観である。量子力学の自然観である。一体どおいう意味を持った自然観であ
ろうか？
　人間の思考は、今日でも多くをニュートン力学に基礎を置いている。即ち、ニュートン力学的自然観にもとづいている。物
体の運動は、慣性の法則により、未来永劫に続き、その未来は正確に予言できるという決定論である。私たちの世界には、私
たちの知らない、神のみぞ知る絶対的な真理があると考えるのがニュートン力学的自然観である。量子力学は、実は、これに
異議を申し立てた。ところがニュートン力学の社会的力があまりに絶大であるために、ささやかな異議を申し立てた。即ち、量
子力学はミクロの世界だけで成り立ちますと言って許しを請うたわけである。それがそのまま今日まで継続してきた。時代は、いよ
いよ量子力学的自然観を確立するときにきている。
　人間の文化は大きく分けて、自然と共存することを一義的だと考える文化と自然を征服することが一義的だと考える文化に
分けられる。後者の文化とそれを担った民族が今日の主流をなしていることは明らかである。前者の文化は、辺境へと押しやら
れ、未開というレッテルを張られて消滅寸前に追い込まれている。また、それに付随する宗教観で言えば、前者は多神教を生
み、後者は一神教を生んだ。物理学もまた、後者を背景とする一神教の文化の中から生まれ育った。ニュートン力学は、
「神の一突き」で成り立つ学問である。即ち、物体の運動は、最初に神の一突きがあり、未来永劫に神の支配のもとに運動す
るという自然観である。今日の新しい自然観の模索は、この二つの文化の対立に焦点が向けられている。資本主義も共産主
義も実はいずれも後者の文化から発生したものといえる。時代は、資本主義と共産主義のイデオロギーの対立を後にして、
一神教と多神教（汎神論といっても良い）の文化の調和へと向かっている。今日の自然破壊をくい止めるには、自然と共存
する文化が求められている。それはイデオロギー的には多神教の文化である。古代の多神教の文化は、もう一度見直されて
人々の前に姿を現さなければならない。第２のルネッサンスが求められている。対話原理は基本的に多神教の文化に属して
いる。量子力学が長く自然観として成熟せず、人々が数学形式だけを取り込んできた背景には、量子力学の難解さがある
が、それは一神教から見た難解さである。量子力学は多神教の文化であるにもかかわらず、多神教へ移行することにおそれを
なしたために、問題をむつかしくしてしまったのではないだろうか。ボアーもアインシュタインも時代の制約、即ちニュートン力学の
イデオロギーのもとに生きたわけである。
　西洋には、ご存じのように、弁証法という論理学がある。ヘーゲルにより集大成された学問である。科学的思考法の基礎を
形成しているから、好むと好まざるとに関わらず、大方がこの思考法に基づいて論理を展開している。あるいはまた民主主義の
原理として西洋文化の基礎をなしている。マルクス、エンゲルスといった共産主義者がこれを積極的に取り入れたから、共産
主義の思想であると誤解されている。日本へは共産主義者を通して紹介されたという経緯があるために、西洋文明の基礎と
しての弁証法が日本では忘れられている。弁証法は、元来論理学であり、共産主義や資本主義だけのものではない。古代ギ
リシャに端を発するこの自然観は、むしろ多神教の色彩を濃厚に備えている。弁証法の文字どおりの意味は、対話法である。
対話は、人間の対話だけを意味しない。自然との対話、万物の対話を意味している。万物が流転するのは、対話の結果流
転するということである。古代の世界で神々が対話したように、今後は、電子が対話し、水が対話し、木々が対話する世界に
踏み込もうとしている。
　新しい時代の自然観は、量子力学的自然観であり、対話原理(Dialog principle)と呼ぶのが相応しい。それは多
神教の文化に属するが、古代の多神教ではなく、電子が対話し、蛋白質が対話し、細胞が対話し、木々が対話し、宇宙が
対話する新しい多神教の文化である。ルネッサンスは、人間の神々からの独立であった。第２のルネッサンスは、自然が人間
から独立し、人間が自然と調和する時代のようである。
　物理学は、物質を分解することにより、物質の本質が理解できると考えてこの一世紀を邁進してきた。そして多くの成果を勝
ち取った。しかし、その反面で物理学は物質が個体として持つさらに多様な側面を見逃してきたかも知れない。即ち、個体は構
成要素の単なる集合体としてではなく、個体としての多様な機能を持っている。個体は、構成要素の単なる多体問題ではな
い。これが今日の複雑性の科学に求められている基本思想だと思う。
　対話原理は、対応原理でもある。人間の社会とミクロの世界の間にはっきりとした対応が有ることを述べている。逆に言え
ば、私たちが最も経験豊富で、最もよく知っている社会現象を対話原理を通してミクロの世界に当てはめると、何か新しいこと
が見えてくるのではないかという期待がある。また逆に私たちの社会が電子から学ぶべき事柄も有るように思う。生命現象の解
明は、２１世紀の最大の課題であるが、これは生物学や医学だけではできない。物理学、化学、工学、地球物理学、天文
学そして社会学や哲学が統合して初めて可能になることは明らかである。この統合を促進するのが対話原理の役割であると思
う。

８．エピローグ

　自然観は全ての人間が持っている。量子力学の解釈も１０人１０色である。対話原理は私の自然観である。これを他人に
押しつけるのは傲慢である。にもかかわらず対話原理を発表するのは、さらに対話原理を発展させたいからである。対話原理は
文字どおり対話の中で発展すると期待している。
　対話原理は、単に量子力学を解釈するために提出したわけではない。この原理がもし力を持つとしたら、人類がどうしようもな
く押し進めている自然破壊をくい止める力になるかも知れないと期待するからである。なぜなら、対話原理によれば、自然科学
者が研究の対象としている物質は、みな「意志」を持っており、地球の行く末に関する意志決定に参加しているからである。自
然が人間の思いどうりになるという考えや、他民族を征服できるという考えを捨てることができるかも知れないからである。地球の
未来は、まさに人類全員の責任として担われていることは明らかである。一神教の神の意志により決定されるのではなく、電子
を含めた全ての個体の総意に担われているということである。
　対話原理の研究方法論としての価値は、個体をどこまでも分割すれば究極の真理が得られると言う楽観論を戒め、個体
の「意志」を含む個体の機能と、個体が種及び階層を構成していることの意味に注目しなければならないことを提唱している。
生物学の進歩も、この観点を抜きにして進むならば、早晩混乱と苦悩にぶち当たる不安がある。対話原理は、「意志」の実体
について述べたつもりであるが、意志の本質や意志の目的については、なにも述べていない。それは、筆者には、まだわからな
い。しかし、これこそが２１世紀の問題であり、生命現象の解明に突き進むとき、避けて通ることはできない問題である。
　対話原理の正しさは、それを適用した結果、新しい事柄を発見することにより実証され、充実する。人間の行動と電子の振
る舞いに強い相関があることに道理が有ることを指摘したわけであるが、そのことにより私たちは、電子の振る舞いをさらによく理解
でき、新しい現象を発見できる期待がある。筆者は引き続きこの原理をより充実した確かなものにしたいと考えている。幸いにし
て興味をお持ちいただいた読者諸賢のご意見ご批判をお待ちする。
１９９６年９月２９日。
参考文献
[1]鎮目恭夫、日本物理学会誌、vol. 49(7)、1992、pp.577-578.
[2]長沢正雄、科学朝日、vol. 5、1992、pp.34-39.
[3]町田茂、「基礎量子力学」、丸善、東京、1990.

三、楢崎皐月

　文献：『相似象学会誌　相似象』第六号■一九七三年十二月

現代科学の物理法則とカタカムナ人の相似象のサトリ

（一）現代科学的の考え方
　　（時間・空間、エネルギーと物質、熱力学法則等について）

　現代人一般は、すべての現象は、「非可逆性」のものである、と決めて居る。そして、全宇宙現象の始
元量（元）を、「時間と空間の二元」で扱ひ、いづれの元も、「一方的に拡がる性質の物理量」であると
観て居る。
　則ち、時間の概念は、「未来から過去へ」一方的に、タテに経過する性質（未来の時間がやがて現在に
なり、過去になる）だけであって、「過去から未来に」反転する時間撮を認めようとしない。
　空間量も、一方的に無限遠に広がる「正」の性質だけであって、縮小方向に進む「反」の空開量の存在
を認めようとしない。そして、時間・空間といふ二つの「元」から成り立つ基本的な「次元」量を、「エ
ネルギー」と「物質」として扱って居る。
　つまり、宇宙は、それぞれの集合に応じて、非可逆性の経過をもつ現象であり、熱力学の法則に従ふ、
といふ考へ方である。
　熱力学の第一法則は、「エネルギーの恒存性」である。（一般には、物質不滅の法則として知られて居
るが、熱力学に於ては、エネルギーの恒存性に集約して居る。）つまり、エネルギーは、光・熱・電気・
運動・位置等の様々のエネルギーに変遷し得るが、エネルギーとしては、恒存する（つねに存在する）と
いふ意味である。
　第二法則は、「エントロピー増大」則ち、すべての現象は、秩序のあるところから、無秩序の状態に進
展し、その秩序は再び戻らないといふ法則である。　つまり、全宇宙は、「エントロピー増大」に進み、
その究極は、熱の拡散的均一化に因って「熱的死」の状態に到達し、すべての生物も、このエントロピー
増大の原理に従って死滅する、といふ観方である。

　　　　　　　　　　　中略

（二）カタカムナのサトリの考へ方の基本的特徴

（１）現象と潜象の無限循環の可逆性（潜象の把握）

　前述の、全宇宙の現象が、一回限りの経過、則ち非可逆性のものであるといふ現代科学の見解に対し、
カタカムナのサトリの基本的特徴は、「現象」は、現象背後の「潜象」と重さ成り、「無限循環」の「可
逆性」のものである、といふ直観である。
　言ひかへれば、「現象」は旋転的に短期回路を可逆しながら、潜象として、長期回路の循環可逆を重ね
て行って居る（マワリテメグル）といふ観方である。　そして、たとへば、地球が自転しながら公転して
居る現象も、又、我々の肉体が、刻々に新陳代謝しながら生命を維持して届る現象も、更に、精神現象
も、すべて、この物理（コトワリ）の、相似パターンとして把握して居る。

（２）アマーカムの重合系潜象（アマを「始元」とし、時空を「元」としない）

　さて、〈アマ〉とは「アのマ」則ち、「アらゆるマ」とか、「アまねきマ」といふ思念である。
　そして、その〈アマ〉とよぶ有限世界の宇宙球は、〈カム〉とよふ無限世界に接続して居る「重合系の
潜象」であり、したがって〈マリ〉とは、そのアマ（マ）から離れて（リ）「マトマリ」を成した「球状
の潜象」であり、別言すれば、「微分されたアマ」、則ち〈イマ〉の意でもある。〈イ〉には微粒子の思
念があり、「イのマ」とは「今」の意に通じ、「今」といふものの本質も亦、潜象のアマの微粒子（マ
リ）である事を示して居る。
　言ひ換へれは、時空量としてあらわれる全宇宙現象は、〈アマ〉（マ）といふ目に見えぬ潜象から生成
され、〈アマ〉の潜象に還元する「短期旋転の可逆」を行ひながら、その〈アマ〉は、無阪界の〈カム〉
から生成され、〈カム〉に回帰する「長期回路の循環可逆」と重さ成り合って居る、といふサトリであ
る。
そして、この相（スガタ）こそ、天然の「原形象」であり、宇宙の諸々の現象事象は、それのいふ直観で
ある
　則ち、『すべてのハジマリのモノ（始元景）とは、複合的可逆を行って居る潜象の〈アマ〉であって、
客観の対象では無い』といふ把握の仕方である。要するに、宇宙の諸現象は、すべて、現象背後界の〈ア
マーカム〉の潜態から生成され、長期的に、その潜象に還元する、可逆の性質であるといふサトリであ
る。

中略

　カタカムナの上古代人は、単に、宇宙の諸現象に潜む「相似の形象」を、漠然とした印象として気付い
た程度ではない。
　「相似象」に当る言葉は、上占代語では〈ヒトッカタ〉又は〈カガミハラ〉であるが、更に、そのよう
な「相似の形象」となって現はれる「原象」（モトガタ）に、〈アマーカム〉の「複合系の潜象」の存在
を直観した事が、カタカムナのサトリの根底となって居る。
　彼らは、我々が漠然と「宇宙」とよんで居るものが有限の〈アマ〉と、無限の〈カム〉との、重合的潜象（トコタチ）である事を
把握し、それが宇宙の万象の、あらゆる相似象の「原象」（モトガタ）である事をサトった。
　上古代語の〈カミ〉とは、この宇宙のあらゆる森羅万象の、起源（モトガタ）をさす言葉であった。
　そして、それにより、現象にあらはれた相似の形象に潜む、そのナリタチの本来性を見抜き、そ上れを数種の「基本パターン」
に要約して、端的に、示すことが出来たのであった。
　したがって彼らの「相似象のサトリ」は、諸々の物質のカタチや、風景や宇宙の諸天休のスガタ等に表はれたものについての
みならず、人間のあらゆる社会現象や、個人の精神現象、人間関係等にも、同じく相似現象がみられ、同じ物理が通用す
るといふ把握に基づいて居る。

（３）～互換重合性の物理（トコタチ）

　さて、次に、カタカムナの上占代人の直観にサトリの基本的特徴として、最も重要な、「互換重合（ト
コタチ）」の物理の、相似象パターンをとりあげてみよう。
　現代科学が時空量の二元を、それぞれ別質の独立した物理量として、固定した観方をして居るのに対
し、カタカムナの直観のサトリに於ては、時空量の本質は〈マリ〉（マの微球）であり、始元の状態に於
ては、時空は重合した〈マ〉になって居り、〈マ〉（潜象）に於いて互換されて、時空量は空間量に、空
間量は時間量に、交番的に変化する性質がある、といふ観方である。自然の真相を、ありのままに、運動
系の重合状態として把握した点に、根本的特徴がある。

（４）互換重合の相似パターン
（トキ・トコロ、エネルギーと物質、物質と生命質等の互換性）

　この「互換重合性」（トコタチ）の把握は、カタカムナの直観物理の、最も重要な特徴を示すものであ
り、アマーカムの重合系潜象を原象（モトガタ）とする、基本パターンである。
　彼らは、この互換重合性のパターンに相似する例として、「エネルギーと物質の互換性」をサトリ、
「恒存性」（エネルギー不滅）の物理と共に、「互換性」の物理を示して居る。
　又、生物に於て、物質の代謝により、物賀が生命質（生命物質）に変り、生命質は分解によって素物質
に変り、「物質と生命質の互換性」があると共に、個体の生命は、つねに「アマ始元量（潜象）に重合」
して保たれている有様を直観し、その関係を、次のような物理として示して居る。
　則ち、物質や生命質の基本的構造の内奥に〈アマナ〉（アマのナ、アマの分身）なるものが、目に見え
ぬ潜象の「核」として潜在し、広域のアマ世界と、刻々に、融通無碍の自由な出入関係にあるからこそ、
このような、互換重合の事実が、成り立つというコトワリ（物理）である。そして、物質のアマナ（潜象
の核）は、物質の基礎的要素を生産し、原子を構成し、保持し、その賀量を決める役割を演ずる。同様
に、生命質のアマナ（潜象の核）は、生命質の諸要素を生産し、それを秩序化して、生命体の構造と機能
を発展させる役割を演ずる、といふ直観である。
　要するに、すべては可逆性（逆の性質もありうること、則ち、プラスとマイナスの、正反性の対向す
る）のモノであり、短期回路を旋転しながら、長期回路を循炭する（マワリテメグル）モノである、とい
ふ自然観をもって居たカタ
カムナの上古代人は、全宇宙の現象が、螺旋的可逆（アマノウヅメ）の繰返しであることを直観し、万物
万象を、「流転の相（スガタ）」としてアリノママに把握し、後代人の無常無我・無自性・悉有仏性等の
体験の根拠をサトって居たのであった。決して停止して存在し得ぬモノの正体は、直観によって、相似象
的にサトルしかない。

　私達は、科学を信頼すると共に、上古代人の鋭い直観のサトリを尊重したい。それ故、例へば生物が、
熱力学にいふところの、エントロピー増大の、則ち「プラス」のエントロピーの法則のみに従って居ると
は思はれない。「栄養」とい
ふこと、「生殖」といふこと、「遣伝」といふこと、「世代交番」といふこと等々は、熱力学のプラスエ
ントロピーの法則では説明しきれぬ、「マイナス]のエントロピーの現象、則ち、「新たな秩序化の方向」
といふべきものである。

　たしかに、生物は、プラスエントロピーとは逆向きの、マイナスエントロピーの法則にも従って居る、
と考へといふよりも、生命体の健康的な生活の為には、プラスエントロピーの増大を抑制する程度ではな
く、積極的に、「マイナスエントロピーを増大させる方法」が必要であることを直観して、科学的思考で
は考えられぬ有効な技法を、いろいろと示して居たカタカムナの教へは、我々にとって、大いに参考にな
るに違ひない。
以上、概括的に、現代人と上古代人の物の観方考え方の根本的な相異点について述べた。

（5）楢崎が示す【互換重合】の物理と空海の即身成仏義（別の機会に詳論したい）
　この楢崎の「互換重合」から、これからの物理学が、空海の『即身成仏義』に示す「六大法界體性所成之身無障無碍互?入相応常住不變同住實際」すなわち　
【六大無碍にして常に瑜伽なり】等の即身成仏義を証明していくことを期待したい。科学と宗教が乖離している時代は終焉しつつあると実感している。

四、ナシーム・ハラメイン
　
　文献：『サイエンス・アンド・ノンデュアリティ　アンソロジー２』
　　　「科学と古代の叡智の合致するところを探求する！」

　　ナシーム・ハラメインとの対話から

Q：スケール統一とは？
N：原子と素粒子である量子世界と惑星・星・銀河・超星団・宇宙といった大きなスケールのものを一つに統一する試み。
　これによって、驚くべきことに、小さな物から大きな物まで一つのグラフ上におくと、全てが自然に秩序だって並ぶことがわかっ
た。これで、宇宙はランダムではないこと。さらに、このスケールとグラフによって、宇宙には何らかの”秩序”、”機構”があること
が証明された。

Q：意識は脳から生まれるのか？
N：意識が脳内に生まれるというのは、少し間違っている。というのも、脳は90％が水でできており、頭蓋骨内の実際の脳の物
質はほんの一部だからだ。
　これは、バックスミュンスターフラーの「我々は”電話”と”会話”を混同している」指摘の通りである。
　生物や我々の肉体や環境の構造は、我々が”意識”と呼ぶフィードバックのフィールドと相互に作用し合っており、単に宇
宙の根本的機構の表れであって、その根源や要因ではない。
　輪廻転生や魂といわわれてきたこともふくめ、情報は空間の一部、”空”の一部で、肉体はその表れでしかない。

Q：”空”とは何か？
N：”空”というと、何もない無の空間を想像しがちだが、量子力学上の”空”とは、原子の中心は空っぽではなく、中も外も、
何かで満ちている＝フルの状態であることを指す。そこにあるのは空っぽでなく、何かでフルだということ。
　あらゆる空間がフルなので、その状態をフルとして体験できない。比較することができないので、空っぽに見えているだけである。
　超高密度そして無限のエネルギーで変動する空間・エネルギーに、分かれ目ができると、その境界が見える。なぜなら、電
磁フィールドと呼ばれるエネルギーが、突然、少し放射され、それが原子と見えるからだ。そして、あれが大陽だ、星だ、銀河だ
とわかるのは、空間に区切りができたからだ。
　これは、完全な理解の逆転である。
　物質が空間を定義するのではなく、空間が物質を定義するのである。
　”空”は、あらゆる時間・空間・情報であるといえる。全て情報は”空”にあり、全てがそれに向かって放射し、全てが、それか
ら与えられる。あらゆる情報がその中にあるのである。まさしく”空”はアーカシックレコード、宇宙のハードデスクのようなものだ。こ
の”空”によって、全てがどこにあって、何をしているのかが瞬時にわかり、自己を体系化することができるのである。（※アーカシ
ックレコードはインドのサンスクリットにおけるアーカーシャや仏教における虚空蔵（アカシャギャラバヤオンアリキャマリボリソワ
カ）などからきた神智学の用語が元）

　宇宙発生にビックバン説があるが、これによっては、今の世界、環境の複雑さや成り立ちは説明できないので、古典化してい
る。
　実は、地球も常に創造し続けているのである。
　これは、”空”が全てを繋いでいて、エネルギーが全てと繋がっていることを理解することにより、物事が自己体系化する構造
を理解することができるのである。
　”空”は超伝導体で、超流体でもあるので、全てがどう動いているのかが瞬時にわかり、より複雑な構造を組織し、私たちが
住む、複雑に相互作用するこの世界を創り出している。
　
　原子は空間のほんの小さな一部。宇宙は空間の非常に大きな一部である。そそて、情報はその大きさの違う一部の間を行き
交う。
　空間が全てのものを繋いでいる。
　原子も99.999999％は空間である。つまり、空間はあらゆる場所に存在し、全てを繋ぐマトリックス（※母体・源泉）・流体
（※回転）・構造（※三角四面体）である。
その空間構造内でのフィードバックに気づけば、専門的にはエネルギーが内側に向く重力フィールドとエネルギーが外側に
向く電磁フィールド間のフィードバックであるが、それを見れば”ひょっとするとここが意識の源なのかもしれない”と思う人がいて、
全ては意識だという人もいるが、しかし、意識とは何かとか、どう機能するかとかを定義できなければ、全ては意識だというところで
止まってしまう。
　意識の構造をみると、意識は自己認識であり、自己認識にはフィードバックが必要である。
　新宇宙論では、基本的には全宇宙は空間時間構造そのものの中のフィードバック構造であり、その中で、自身について学
び続けるものであるとしている。
　我々が、その学びの構造の一番端にいるとして、空間がどんどん拡大して自身を振りかえり、自身について学び続けている
ようなものである。
　意識が自己認識であるという概念は、新物理学に合致するポイントである。
　我々は今、全宇宙が自身について学んでいるのだという意識や自己認識の基本構造を理解し始めている。

Q：意識は、空間・時間の配置内に組み込まれているのか？
N：意識は”空”の機能そのものだといってよいであろう。”空”自身にフィードバックしている。
　情報があらゆる大きさのものの外縁を超えて、動き回っている。
外側にある空間構造から情報を受け取り、それを翻訳し、空である原子で出来ているあなたの中にも、”空”があるので、翻訳
したあなたの理解をフィールドに返す。すると、フィールドは、あなたの理解に基づいた体験を返してくる。その繰り返しで、宇宙も
あなたと共に学ぶのである。

Q：明らかな分離というのはどこから起こるのか？
N：明らかな分離というものは、物と物との間の空間を体験していないという機能である。
　今、この部屋で、私たちは、周りに何も無い、空っぽの空間にいるように見えるが、実際には、電磁フィールドや高周波フィー
ルドなどが動き回っている。しかし、私は直接それには気づいていない。
　問題の一部は、私たちが物と物との間の空間を”空っぽ”と知覚していて、必ずしも、”私と壁”、”私とテーブル”といった
関係を見ていない点にある。しかし、明らかに、その関係性は存在している。
　空間が物質を定義するのであり、物質が空間を定義するのではない。
　全ての物質は”空”から生まれ、”空”に戻る。それに気づき、それを経験し始めれば、分離という感覚はなくし始め、一体感
を、そして、全てとの繋がりを感じ始めるであろう。それが”空”である。
　マスター達の多くが、ニルバーナ（※涅槃）や光の瞬間を、他の全てのものと一体になった感覚として説明している。

Q：宇宙の絶対的理論は発見されるであろうか？
N：宇宙の絶対的理論は、絶対に発見可能であると思う。いや、むしろ、既にあるといえる。古代から伝わる伝統の内に、ずっ
と存在してきたが、きちんと認識されず、先進物理学や数学に適用されなかった。しかし、これもあと一息であろう。
　宇宙の絶対的理念が宇宙で起きていることを全て宇宙で説明できるかといえば、そうではなく、新たな発見は常に続くが、最
も深いレベルで、宇宙の基本的力を理解する理論は持てるだろうと言うことである。
　この先、宇宙はどう動くのかではなく、現在どう動いているのか理論、宇宙がいかにして原子構造や人間のように、突然、自
己に気づける自己体系化システムを生み出せるか等は理解可能なことだと思う。
　現在の問題の多くは、科学者達が宇宙を理解するのに、意識やスピリチュアリティは必要がないと思っており、スピリチュアリ
ティな人たちは逆に科学や数学は必要ないと言っている点にある。スピリチュアルな物質は、基本的には科学的。数学的には
理解されていないが、解明は可能である。
　今、人類はこれらを統合する必要がある。

Q：量子論と古典物理学のみぞについて？
N：原子は小さなブラックホールとして扱え、プロトンや原子核が小さなブラックホールであると説明する数式を書けば、原子の
磁気モーメント、導入時間、原子核の崩壊等に関しての正しい答えが得られる。
　進化のプロセスで、再び、理論をつなげる作業が必要である。特にプロトンは重要である。
　原子が”空”の構造と相互作用する特異点に対応する小さなブラックホールであるとわかった上でその繋がりをつくっている。
無限の性質を持っている特異点が全ての原子と繋がっており、驚異的な計算をすると、宇宙の質量の全てが、全ての原子の
プロトンと核の中に存在し、全ての原子が他の全ての原子と繋がっていることがわかる。その構造や何故物事が絡まってくるか
が理解できるようになる。
　この絡まりの機能に古典物理的基本理解が出来る。
　アインシュタインは原子の構造の中に基本的構造はあるはずだといっていた。

　”空”はあらゆるところにあり、あらゆることを知っている。全ては空っぽの空間を動いているのではなく、満たされたく”空”の中を
動いている。
　シュレーディンガーの猫の解はこの”空”理論によって全て説明できる。”空”の構造はミステリーではなく、フィールド内のあ
らゆるものが、フィールドに影響するのは、フィールドが全てを支配しているからだと理解する。

Q：進化とは何か？
N：進化とは”空”の中に組み込まれた性質である。”空”が創造の源だとわかれば、突如として、ダーヴィンの進化論は”空”
の構造のレベルに引き上げられる。
進化と自己体系化システムは、生物学的レベルで起こっているのではなく、生物学的レベルは、より高度に体系化されたシス
テムの結果に過ぎない。その高度に体系化された構造は、”空”のシステムそのものに他ならない。
　情報のネットワークは”空”の中に存在する。つまり、意識・記憶・自己意識・思考などの源は”空”の機能であり、生物学
は電話のようなものであり、会話ではないこと理解できるだろう。

　
（※（龍雲）ここでいわれる”空”はいわゆる仏陀の”本不生”である。
　ブッダもナガールジュナもクリシュナムルティも意識・記憶・自己意識・思考の欺瞞性を指摘され
た。その欺瞞性とは、先験より今に経過し消失する実相の中で、意識・記憶・思考を投影し、外界に
実体があると思い込むことの欺瞞性である。外界に実体はないのに、実体があると思い込ませるのは
即ち脳などの五官六根によるもので、実は、実相は先験より今に経過し消失するので、そのような実
体はなく、現象が先験より今に経過し消失するだけである。
　時間と空間もそういった五官六根の意識・記憶・認識・思考のなかで繁栄された虚妄に過ぎないと
指摘している。現れたものは一回限りのものであると・・・

　だが、クリシュナムルテイは思考や意識がもたらす時間や空間の欺瞞性を指摘するのは意識上のこ
とで、昼夜・自然の推移における物理的時間のことではないと物理上の時空を問題にしていない。

　ブッダはアートマンやブラフマンなどは人間の思考の所産だとして、全く、否定し、”空”として
の本不生を説いている。しかも、その”空”本不生は空っぽなものではなく、先験なもので、そこか
らあらゆるものが出現するが現れたものは虚妄の法にしたがっており、実相ではないから、有・無、
生・滅、増・減、来・去、全・個の二元性は実相ではなく、本不生のみが実相であるとし、しかもそ
の本不生は認識できないとしている。

　自然界の虚妄性と意識界の虚妄性を指摘するのがブッダの親説であるが、それはまさしく、”非”
なるもの、”空”のものの直接把握であるが、しかし、把握されたものは、得てして、自己欺瞞に陥
る。

　だが、しかし、これでは、ブッダの境地に至らざるものであるものは、生の現実（世俗の真理）と
本不生の真理の間に試行錯誤の堂々巡りに陥らざるを得ない。

　そこに、一抹の光明を当ててきたのが、量子論の科学者が様々な新宇宙論を展開する中で見えてき
た見えざるものの構造である。特にナシームハラメインの”空”の構造は極めてこうした点に肉薄し
ているように思える。
　然れば、脳における意識・記憶・自己意識・思考・概念と彼の言う”空”の構造における意識・記
憶・自己意識・思考・進化とは同一のものであろうか？同一であるとすれば、彼の宇宙論も虚妄なる
仮説に過ぎない。

　だが、本不生の創造性であるならばまさしく本不生こそが進化の構造、自己体系化システムであ
り、このことで、何故、今が刻々に新生創造される場として、我々や宇宙自然界が創造的に展開され
ているのかが、ここではじめて説明可能であるように思われる。）

　ナシーム・ハラメイン　（続き）
Q：統一されたシステム内での個性は可能か？
N：極小のものと、宇宙のように大きなものとの区切りを生み出す”空”の構造や、その区切りには無限大の大きさから無限小の
小ささまであることに気づき、無限の大きさから無限の小ささまでのフラクタクル構造（※縁起生・相似象・ホロン構造・帝釈
天網・フラワーオブライフなど）の話をすると、そのような構造においては中心というものはない。中心を計算するための端が存在
せず、常にその先がある訳であり、そして、システム内のあらゆる点が中心だと気づく。
　システム内のあらゆる点が、それぞれ固有の中心から宇宙を観察する。
　ある座標軸をセンターとして宇宙を観察しているのは、同じ地球時間ではただ一点しかない。
　しかし、お互いがお互いに埋め込まれ、お互いにコミュニケーションを取っている相互作用とフラクタクル構造がある。
　全ての点が固有であり、固有に宇宙を観察する。
　つまり、われわれは同じシステムの一部で、あなたも人間で私も人間。二人とも人間でその意味では同じだが、あなたは常に
あなたの視点で宇宙を観察し、私は私の視点で観察する。それが私たちの個性である。二人とも腕や足はあるが、同じではな
い。常に違った人間である。なぜならフィールドを別の視点から解釈しているからである。
　こうしてわれわれの体験の統一性の中に個性が生まれている。こうしたことは、スピリチュアル世界では誤解されているようだが、
これを理解することは重要である。スピリチュアル世界では、あなたがあなたの現実をつくっているといわれるが、各個人がそれぞれ
の現実をつくっていたら、私たちはであうことはない。とても孤独な世界だろう。
　しかし、集合意識記と総意現実が存在する。私たちが同じフィールド、同じ”空”に情報を与えて、”空”が私たちに情報や
体験を返しているからである。それは、他の人たち経験の一部で協調して、現実を作っている。こうして、総意現実が生まれ、現
実をシェア（共有）している。時に、自分が欲しいものを表すのが難しいこともあるが、それは、他の人たちの欲求を超えなくてはな
らないからである。

Q：あなたの仕事は世界を変えるか？
N：人類を大きく変える可能性を秘めていると思う。
　フィールドや”空”がどのように物質世界をつくるかの基本的原理や基本的構造や自己体系化の方法、何が全てを繋いで
いるか等が理解できれば、その基本構造をしっかりした物理学や数学、そしてテクノロジーに適用する。そのような理解が起こっ
たテクノロジーは、今想像しうるよりもずっと大きなもの、無限のエネルギー、太陽系・銀河系に行き、銀河系間を移動できる
宇宙船を開発する能力をも可能にする。可能性は無限である。
　歴史的に見て、今は、人間も情報の統一フィールドの一部だと認識し、その構造を学び、テクノロジーに適用するか、そん
なことは出来ないかの分かれ目なのだ。

　

ブッダ親説のヒビキ MEDITATIONS by　J.Krishnamurti

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ヴァヤダンマサンカーラアッパマーデナサムパーデタ

ヴァヤダンマサンカーラアッパマーデナサムパーデタ

時折、寺の雑木の茂みや、人気のない物置で子育て中の猫たちに遭遇することがある。
警戒心が強いのでそっとしておくのだが、大抵は、しばらくすると、どこかにいってしまうのであ
る。
　とはいえ、中には、寺に住み着いてしまう猫もいる。20年以上も長生きした猫もいれば、2，3年で
他界してしまう猫もいた。
　思い入れもあるのかもしれないが、寺に住み着く小動物を見ていると、一種、神がかり的な出会い
を感じてしまう。なにか、切っても切れない深い縁があって、現れてきてくれたのだなと思うことし
きりである。心が通うというか、通じるというか、何かとても特別のものを感じ、愛おしいものがあ
る。それぞれに個性があって、全く独立した存在で、寺にとっても、大きな働きをしていることに気
づく。まさに、人知を超えた、神がかりてきな、出会いであったことがほとんどである。

　彼らに、決して私の方からは近づくことはないのであるが、彼らは、いつも、私の傍らにいて、く
つろぎながら、天真爛漫に語りかけ、如来様からの大事なメッセージを届けてくれていることがあ
る。なにかとても嬉しくなるほど時宜を得ている。彼らのその折々のまなざしに触れるたびに、私
は、彼らにどれほど、支えられてきたかはかりしれないものがある。特に、彼らがまるごと小生に対
しオープンであることが、とてもありがたかった。というのも、とかく、人というのもは、自身を含
め思惑やこだわりで我を通し、葛藤し、ギクシャクすることばかりであり、彼らのように、まっすぐ
に生きることは困難である。ことに、彼らの死に様に接したときには、なおのことである。直接生
き、直接死ぬ。その様は崇高でさえある。

　彼らの死に直面したとき、いつも心に響くものがある。

　それは、ブッダ最後の言葉であり、ブッダの生涯を通して示されていた境涯である。
　
　そこで尊師（ブッダ）は修行僧たちに告げた。---
　「さあ、修行僧たちよ。お前たちに告げよう、
『Vayadhamma sankhara
　　　　appamadena sampadetha”
（ヴァヤダンマサンカーラアッパマーデナサムパーデタ）もろもろの事象は過
ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成なさい』と。」

　これが修行をつづけて来た者であるブッダの最後のことばであったのだが、その真意について、深
く理解することは、今日の大半の仏教徒にとっても、人間なるが故にはなはだ難しいといわざるを得
ない。ブッダの真意を直智する最大の障碍が、哀しいかな、人間の最大の特徴でもある「思考性」に
あるとは、全くの皮肉である。

　ブッダは生涯をかけて、『Vayadhamma sankhara　appamadena sampadetha”
（ヴァヤダンマサンカーラアッパマーデナサムパーデタ）もろもろの事象は過ぎ去るものであ
る。怠ることなく修行を完成なさい』説き続けられていた。
　「人々はわがものと執着したもので悲しむ。(自分の)持っているものは実に常住でないからであ
る。これは必ず失われる性質のものである、と判ったあとは在家にとどまっていてはならない。」
「過去なるものは捨て去られたものであり、未来は到達していないものである。現行する在り方を
時々刻々観察するものは、そのことを紛れもなく動かしようもないものとして熟知して心を完成せ
んことを。」と。

　遍照金剛弘法大師空海はこの、“Vayadhamma sankhara　appamadena sampadetha”
　を「真実の義」として、
「また境界の風に遭うて縁に随つて起滅すといえども、しかも心性は常に生滅なし。この心の本不生
を覚んぬれば、すなわちこれ漸く阿字門に入るなり。」(『秘密曼荼羅十住心論』巻第七、四八一
頁) と示している。

　この意味は、「縁起生」している表象の顕現・消失( 起・滅)であるが、それら「虚妄の法」は
「静止像」として意識されるため、捕捉されている外界の姿(世俗)と誤って理解されている。人はそ
の外界知覚に相違する表象の推移が意識されるとき、「名色」によって外界を実体的に区別して「言
語表現」どおり理解しているため、外界に実体が「生・滅」していると思うのであるが、そのようで
はなく、「虚妄の法」の表象に顕現・消失が繰り返されているのである。もちろん、「心性に生・
滅する実体は本初からありえない」と覚るべきであると。

　『Vayadhamma sankhara　appamadena sampadetha”
（ヴァヤダンマサンカーラアッパマーデナサムパーデタ）　
「死は、持てる者、休息の場[resting place=墓場の意昧もある]をもつ者にとって
のみ存在する。生は関係と愛着の中の運動であり、この運動の否定が死である。外
的にも内的にも避難所をもたないこと。部屋は、家は、家族はもっても、それを隠
れ処に、あなた自身からの逃避にしないようにしなさい。

　あなたの精神が美徳を涵養するために、迷信のために、ずる賢くふるまうため
に、つくってきた安全な港は、避け難く死をもたらすだろう。もしもあなたがこの
世界に、あなたがその一部である社会に属するなら、あなたは死を免れることはで
きない。
　死はいつもそこにあって、見張り、待ち構えている。が、日々死ぬ人は死を超え
ている。

　死ぬことは本源に帰ることである。ほとばしる本源の美しさは過去の思い出や、
明日のイメージの中にはない。本源なるものは過去も未来ももたない。それを過去
や未来に依存するものは記憶であり、それは実相ではない。ほとばしる本源は、あ
ながその一部である社会の枠を遙かに超えている。故に知られているものを終わら
せなさい。そうすれば本源はそこにあることに気づくだろう。

　本源は知られざるものの内にあり、そこから来る運動である。あなたはそこには
存在せず、ただ運動だけがある。それは背後にも前にも何ももたない。それは思考
が触れることのできないエネルギーである。思考は堕落である。

　既知のものは未知のものに触れることはできない。瞑想とは既知のものに向かっ
て死ぬことである。

　静寂の中から、見て、聴きなさい。意識の全体は、それ自身が作り出した境界内
部での落ち着きのない、騒がしい運動である。静寂が出現するためには思考自体が
静まらねばならない。静寂はつねに今、思考が存在しないときに、存在している。
思考は、つねに古いものなので、つねに新たな静寂の中に入り込むことはできな
い。新たなものは思考がそれに触れるとき古いものとなる。この静寂の中から、
見、話しなさい。[本源］の無名性はこの静寂からやってくる。この静寂はその外側
にはなく、それは観察者全体の騒音がそこにないときに存在する。

　無垢だけが情熱的でありうる。無垢な人は悲しみを、苦しみをもたない。彼らが
無数の経験をもつとしても。精神を腐敗させるのは経験ではない、それらが背後に
残すもの、その残留物であり、傷であり、記憶である。これらは蓄積し、他の物の
上にさらにあるものを積み上げ、そしてそこに悲しみが始まるのである。この悲し
みは時間である。時間があるところ、無垢はない。」

　境内にしばし集う小動物たちの天真爛漫なさえずりや鳴き声に、風に踊る新緑の揺らめきに、ブッ
ダのひびきを聞く思いがするのである。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

何とも不思議なことが起きている

不滅の意識（不生の仏心）アルナーチャラ

　２月９日と２月２２日の早朝、この寺で摩訶不思議なことが起こった。
突然、、境内の庭先の蹲踞（つくばい）の中から、氷の仏像が出現したのである。
その朝は、いずれも、かなり冷え込んではいたが、つららなどはどこにもなく、蹲踞といっても、単
に庭石のように置いていたもので、雨水がたまっているだけで、近くに水が滴り落ちるようなものは
全く見あたらない。それは、溜まり水が単に凍っているだけのもののはずであった。
　その凍てついた蹲踞の小さな氷の湖面にすっくと、まるで観世音菩薩そのものが立っているのであ
る。頭巾も法衣も着用していて、しかもお顔の目鼻口まである。驚きである。
　はじめ、誰かのいたずらかと思ったが、それにしても、あまりにもリアルな仏像の造形（如来や菩
薩そのもののお姿）は、単なるいたずらでできるものではない。かといって自然にできたとなると、
なおさら考えられないもので、まさに、不可思議！不可思議！という他はない。　
　この日は、ちょうど、96才で亡くなった檀家のおばあさんのお葬式の日で、早朝、火葬場から戻っ
た折りに、たまたま、この氷でできた蹲踞の仏像に気づいた。
　亡くなったおばあさんは信仰心に厚く、いつも寺にお参りに来ては、寺の者やお参りに来る人たち
に優しい心配りをする方であった。そのことが関係しているのだろうか？
実は、この日、このおばあさんの葬儀が全て終わった時間に、この仏像はゆっくりと溶けだして、蹲
踞の湖面に静かに戻って消えたのである。
　そういえば、寺では、仏縁を大切にしている人が亡くなると、よく、不思議な奇瑞が現れることが
ある。たとえば、本人の臨終の時刻に寺に挨拶に来たりとか、座禅や法話の集いに同席していたりと
か、お墓参りをしていたりとか、寺の松の木が突然、枯れたりとか、篤信の方が亡くなると、寺に不
思議な知らせがあることは、ままある。
　しかし今回のように、誰の目にも明らかな不思議な現象は、全く初めてのことである。
　２月９日に氷の観世音菩薩が出現して以来、奇瑞であることは嬉しかったが、しかし、本当のとこ
ろはどうなのか、ずっと気になってならなかった。何かの偶然か、それとも、やはり、誰かの人為的
ないたずらか、まんじりともせずにいた。ところが、２月２２日、早朝、やはり、再び、蹲踞に氷
の柱ができていたのである！しかも、今度は、氷が水中から上に伸びていく様子を直接、目撃してし
まったのだ。
そう！これは、いたずらでも何でもなく、自然現象として明らかに蹲踞の湖面から氷の柱が育ってい
ったのである。しかも、今度は、龍のような、白い大蛇のような姿であらわれ、対面に、なんと！な
んと！「氷の山」が出現したのだ。そして、この氷の山に、全く釘付けとなってしまった！というの
も、どこかで見たような山の姿をしていたからである、まさか、そんな、ありようはずもない！そう
思いながら、なかばドキドキしつつ、心当たりの山の写真はないものかと、急ぎ、部屋に戻り、書庫
をくまなく探した。そして、それは、すぐに見つかった。驚いたことに、なんと！あの聖なる山と全
く同じ姿ではないか！まさに、インドの聖者ラーマナ・マハルシが生涯こよなく敬愛し、崇めつつ、
住んでいた、あの聖なる山「アルナーチャラ」そのものであった。私は、しばらく、呆然とし、心が
うち震えるのを禁じ得なかった。
ラーマナ・マハルシこそ、不二一元論を説き、不生の仏心を指し示している、２０世紀最高の正覚
者である。彼は、17才で、死との葛藤を超え、精神の至高の座に再生し、不滅の意識を悟得して以
来、生涯ずっと解脱の状態にとどまり、正法を示し続けた。この希有なる覚者であるシュリ・ラマ
ナ・マハルシは、聖なる山アルナーチャラに瞑坐し、一歩も出ることなく、沈黙の霊明なる光輝を全
世界に発し続け、その教えは、平易にして、直裁。覚者中の覚者として、世界に多大なる影響を与
え、1950年に涅槃に入った。彼の「不滅の意識」は僧盤珪が示した「不生の仏心」に通ずるものがあ
る。
　折しも、今年の自己凝視のテーマを「不生の仏心」と決めた矢先のことであった。まさに不可思議
な現象であった。興味深いことに、これらは、新月の明け方、満月の明け方に起きている。が、さら
に、２月30日の下弦の月の早朝、今度は、なんと！この蹲踞の小世界に、氷の「萬歳楽山」までもが
出現してしまったのである。
　全ては不滅の意識（不生の仏心）の中で通じ、生起している。
　われをして不生の仏心たらしめたまえ！われをして不生の仏心たらしめたまえ！
　終わりに、ラーマナ・マハルシ自身のアルナーチャラ山賛歌を紹介しよう。
　アルナチャラの丘の上を　小さな鹿や熊や　豚たちが歩きまわる
大きな像も歩きまわるが　全ては平和である
　ここには主アルナチャラがアンナマライの御名によって
　浄められた　至高の知識として在り
　やってくるものたちの　無知をぬぐい去る
　主の恵みに漏れるものは誰もいない

　聖なる秘蹟出現！第一回目
　平成20年2月9日(土)新月の早朝　
　　突然、つくばいの中に氷の観世音菩薩が出現する！
　あとで理解したのだが、この仏像は阿弥陀如来・聖観世音菩薩・辯才天女・倶利伽羅剣を統合した
　何と！如来の化身：シュリー・ラーマナ・マハルシの法身であったのか！！

聖なる秘蹟出現！第二回目
　平成20年2月22日(金)満月の早朝　
　　今度は、つくばいの中に
　　　インドの聖なる山アルーナーチャラ（シバ神）と
　　　　　　　　それを指し示すが大白蛇龍神が出現！！

　　　　氷のアルナーチャラ　　　　　　　　　　　　　　　インドの聖なる山　アルナーチャラ　
　　　　　　　　
　聖なる秘蹟出現！第三回目
　平成20年2月30日(金)下弦月の早朝　
　　今度は、つくばいの中に
　　　　　　半田山・半田沼などを携えた
　　　　　　　　　　　　聖なる山：萬歳楽山出現！！　
　まるで萬歳楽山一帯を人工衛星から写したようではないか！

　人工衛星から見た萬歳楽山一帯　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

聖なる秘蹟：法圓寺境内に、不可思議！実に、不可思議な現象が！突然、顕れる！
三面のお顔を持つ氷の仏像が湧出！

平成二十年二月九日(土)新月の早朝　
この寺で摩訶不思議なことが起こった。
突然、、境内の庭先の蹲踞（つくばい）の中から、氷の仏像が出現したのである。
その朝は、いずれも、かなり冷え込んではいたが、つららなどはどこにもなく、蹲踞といっても、単に庭石のように置いていたもので、雨水がたまっているだけで、近くに水が滴り落ちるようなものは全く見あたらない。それは、溜まり水が単に凍っているだけのもののはずであった。
　その凍てついた蹲踞の小さな氷の湖面にすっくと、まるで観世音菩薩そのものが立っているのである。頭巾も法衣も着用していて、しかもお顔の目鼻口まである。驚きである。
　はじめ、誰かのいたずらかと思ったが、それにしても、あまりにもリアルな仏像の造形（如来や菩薩そのもののお姿）は、単なるいたずらでできるものではない。かといって自然にできたとなると、なおさら考えられないもので、まさに、不可思議！不可思議！という他はない。　
　
　

聖なる秘蹟出現！
平成二十年二月二十二日(金)満月の早朝　今度は、つくばいの中にインドの聖なる山アルーナーチャラ（シバ神）とそれを指し示すが
大白蛇龍神が出現！！

　2月22日、早朝、やはり、再び、蹲踞に氷の柱ができていたのである！しかも、今度は、氷が水中
から上に伸びていくプロセスをを直接目撃してしまった！。

そう！これは、いたずらでも何でもなく、自然現象として明らかに蹲踞の湖面から氷の柱が育ってい
ったのである。しかも、今度は、龍のような、白い大蛇のような姿であらわれ、対面に、なんと！な
んと！「氷の山」が出現したのだ。そして、この氷の山に、全く釘付けとなってしまった！というの
も、どこかで見たような山の姿をしていたからである、まさか、そんな、ありようはずもない！そう
思いながら、なかばドキドキしつつ、心当たりの山の写真はないものかと、急ぎ、部屋に戻り、書庫
をくまなく探した。そして、それは、すぐに見つかった。驚いたことに、なんと！あの聖なる山と全
く同じ姿ではないか！まさに、インドの聖者ラーマナ・マハルシが生涯こよなく敬愛し、崇めつつ、
住んでいた、あの聖なる山「アルナーチャラ」そのものであった。私は、しばらく、呆然とし、心が
うち震えるのを禁じ得なかった。
ラーマナ・マハルシこそ、不二一元論を説き、不生の仏心を指し示している、二十世紀最高の正覚
者である。彼は、十七才で、死との葛藤を超え、精神の至高の座に再生し、不滅の意識を悟得して以
来、生涯ずっと解脱の状態にとどまり、正法を示し続けた。この希有なる覚者であるシュリ・ラマ
ナ・マハルシは、聖なる山アルナーチャラに瞑坐し、一歩も出ることなく、沈黙の霊明なる光輝を全
世界に発し続け、その教は平易にして、直裁。覚者中の覚者として、世界に多大なる影響を与え、昭
和二十五年に涅槃に入った。彼の「不滅の意識」は僧盤珪が示した「不生の仏心」に通ずるものがあ
る。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　折しも、今年の自己凝視のテーマを「不生の仏心」
と決めた矢先のことであった。まさに不可思議な現象であった。興味深いことに、これらは、新月の
明け方、満月の明け方に起きている。

日本が世界に対し新しい時代を切り開く潮流となれか

日本が世界に対し新しい時代を切り開く潮流となれか

　新しい年を迎えた。5月には新しい天皇陛下のご即位の儀が執り行われ、翌年にはオリンピックや
パラリンピックが開催される運びとなっており、日本は否が応でも世界中の耳目を集めるところとな
る。
　今世紀に入って、なお、厳しさを増す人類文明の営みのさなか、変革の岐路に立つ世界が、はたし
て、どのような方向に向かって歩みを進めなければならないのか、世界に類い希なる列島と文化の醸
成有する日本は極めて大きな責務を帯びていると感じている。
　世界の歴史上、かつて、縄文時代のような、数万年もの間、戦争もなく平和で、自然と共生しなが
ら、文字を持たない文明が、高度な技術や文化を持ち続けたという事実が次第に明らかになる中、
その文明の有り様を世界が注目していると聞く。
　その縄文文化がいかにして消え去り、その後台頭してきた大陸の文明が、いかに日本を席巻し、飲
み込んでいったか。それ以降、日本においてさえ、部族、領土、国家を形成する中、おぞましい搾取
や侵略による権力拡大のための戦争と破壊・虐殺の安定と退廃と造反の憎しみと悲劇に満ちた争いの
歴史を繰り返してきたか。
　しかし、それでも、日本は海に囲まれた国ということもあって、必ず、異国の文明の潮流の荒波に
晒されながらも、必ず、潜在的に有する日本人独特の民族的資質により、異国の文化を飲み込み、醸
成し、発酵させ、新たなものを生み出す文化を築き上げることで、世界に多大な影響を逆に及ぼして
きたのも事実である。
　では、日本人が有する独特の資質とは何か。天地自然に対する「直感」力であると感じている。
元々、日本人はこの直感力が極めて豊かな民族であったが、それは天地自然との共生というアニミズ
ム的気質にあった。現象の背後に見えざる霊性（潜象）を感受し、あるがままの現象界に即応しつ
つ、天変地異的変動すら受け入れつつ、悠久の自然観の中で、いのちを生き通していた。それは汎神
論的広大な広がりの中で、天地自然の万物に「こころ」が宿り、それらと絶えず向き合い、対話し、
心を通わせながら培われていた自他一如の感受性に他ならない。天地宇宙や自然や大地。海や空。山
や川、草木・大地・磐・・・全てと心を通わせながら、その中で、人としての成長と生業と共生につ
いて直感しながら生きていた。
　その、日本人の独特の感受性を「日本書紀」の中で語られている。しかし、皮肉なことに、「日本
書紀」は、その古来から有する日本人の感受性に対して、それを未熟にして愚鈍なる感受性として廃
絶してしまった。

　それはともかく、いにしえの日本人の気質がどうであったか。
「日本書紀」神代下のなかで、次のように言い表されている。

天照大神之子正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊、娶高皇産靈尊之女栲幡千千姫、生天津彦彦火瓊瓊杵尊。
故、皇祖高皇産靈尊、特鍾憐愛、以崇養焉、遂欲立皇孫天津彦彦火瓊瓊杵尊、以爲葦原中国之主。
然、彼地多有螢火光神及蠅聲邪神、復有草木咸能言語。故、高皇産靈尊、召集八十諸神而問之曰
「吾、欲令撥平葦原中国之邪鬼。當遣誰者宜也。惟爾諸神、勿隱所知。」僉曰「天穗日命、是神之傑
也。可不試歟。」於是、俯順衆言、?以天穗日命往平之、然此神侫媚於大己貴神、比及三年、尚不報
聞。故、仍遣其子大背飯三熊之大人大人、・・・・

訳文：
天照大神の御子正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊は高皇産霊尊の娘栲幡千千姫と結婚されて、天津彦彦火瓊
瓊杵尊をお生みになられた。それで、皇祖高皇産霊尊は特にかわいがり、崇めて養われた。ついに皇
孫天津彦彦火瓊瓊杵尊を葦原中国の主にしようと思われた。しかし、その国はたくさんの蛍の輝くよ
うな神、また蠅の音のような妖しい神がいた。また草木がことごとく、よく物を語った。高皇産霊尊
はたくさんの神を集めて、聞かれて申すには「私は葦原中国の悪しき神を追い払って、平らげようと
思う。まず誰を遣わせばいいだろうか。それで神たちよ、知っているところを隠さずに教えてく
れ。」と申した。皆申されるには、「天穂日命、この神が勇ましい。試してみてはどうだろう。」と
申した。皆の奏上に従って、天穂日命を向わせて平らげようとした。しかし、この神は大己貴神に媚
びて、三年が経っても帰ってこなかった。それで、その子の大背飯三熊之大人、大人、これをウシと
いう。またの名を武三熊之大人を遣わせた。此云于志、亦名武三熊之大人。・・・・・・

　この「その国はたくさんの蛍の輝くような神、また蠅の音のような妖しい神がい
た。また草木がことごとく、よく物を語った。」

この段は、一説によると、「アシアトウマン」という部族の長が治める国が「葦原中国」であった
が、数万年続く一族ではあったが、文字を持たず、天地自然との感応同交により、素朴に、かつ平穏
に暮らしていた部族であった。それ対し、当時、大陸の文明の潮流を先進のものとして、それによる
朝廷の統一をはかろうとする部族が強大な権力を掌握しつつあり、この部族は、従来のアニミズム的
な縄文の名残を有する文化を蔑視、近代化を図るには、こうした未熟な呪術制を排して、大陸の高度
な文字文化による律令国家体制に範を倣い、国家に従うか、それとも、戦争するかを迫ったが、「ア
シアトウマン」一族は争いを望まず、広く山野に下った。体制側は愚劣蒙昧な魑魅魍魎「アシアドウ
マン」を滅ぼしたという。この説は正しいかどうかは小生の力では、全く定かではない。「アジア」
というのはこの「豊葦原中国」から広がったとも言われているし、縄文以前から文字を持たない日本
人の源流がこの「アシア」にあるのではないかというヒビキが、現代の地球上の危機において再燃し
ているような気がしてならない。史実も大切であるが、こうした人間の心の奥にある深い感受性、直
感力が待たれている。

　それはともかく、このアニミズム性を蔑視する傾向は、いわゆる絶対なる神を標榜する文明では、
神の下に人間がいて、その下に万物があるという構図であるが、この文明は、絶対者を神に置くか、
イデオロギーにおくか、為政者の支配権に置くかの違いにすぎない。彼らの文明は、「はじめにこと
ばありき」で示されるように、言語文字文化に「掟」や「契約」に基づき、協定や条約を交わし、念
頭にあることは、先ず自分を優先し、国家や民族、正義というイデオロギー、神の名のもとに、利益
拡大を目指す。契約の背後には、絶えず、裏切りか恭順か、同盟か対立か、大義や大国という巧妙な
庇護と圧力を繰り返しながら、統一を図ろうとする。何時の時代にあってもこのような論外な構造か
ら脱出することは極めて困難であるのは、彼らが支配権をちらつかせるからである。
　現代において、再び、こうした傾向が強化される方向にブレてきた。世界の自滅への流れは、果た
して止めうるのであろうか。結局、最悪の事態に直面して、初めて愚行に気づくのであろうか。それ
とも、人類はもっとしたたかで知恵があるのであろうか。
　この新しい年に、日本天皇陛下の御譲位が執り行われることは、まさしく世界にとって神業なので
あろう。こうした世界の潮流に対し、日本に生きるわれわれが果たさなければならない方向と施策と
その役割はかなり明らかであるのではないか。戦争による侵略の悲惨さ、被爆国日本、愚かにも、前
代未聞の原発事故を起こしてしまった日本の果たすべき役張りははっきりしている。

　しかし、その役割とは、アニミズムや単に自然礼賛だけのエコロジー運動のの「幼児返り」であっ
てはならないのも確かである。それだけでは、もう、ここまで破壊され続けてきた地球の自然環境を
回復させるには限界がある。人類の天地自然に対する叡智、則ち直感がなければこの問題に対処する
ことは難しいようだ。

　縄文時代以前から培われていた、「見えざる世界と現象の天地宇宙自然との直感による共生ありか
た」が幾多の変遷を経てもなお今日において奇跡の列島日本の人と自然との美しさ保つ日本。五七五
の直感とヒビキを根底に有する日本人の文化の源泉こそが、今こそ、世界に注目してもらわなければ
ならないものであろう。傀儡文明に踊らされて、ごたまぜの文化に沈んでいてはならないのかもしれ
ない。
　これらのことを当たり前のこととして、日々、自戒し、この国の古くから有している歴史と文化の
源流への自覚と誇りを持つべきであろう。
　
　世界に対して、独りひとりが新しい時代を切切り開く潮流、則ち、全てに心が宿っていることを感
受する人間として、たとえ、全くの非力ではあっても、心を尽くして生きていきたい。そういう新年
であるのではないだろうか。
　

法圓寺に孔雀明王を勧請

　法縁をえて、この寺に、思いがけず、孔雀明王を勧請することができました。
「孔雀明王」は古代の宗教的ビジョン「七色の翼持ちし大天使ミカエル」の相似象かもしれません。

　どうも、これも、この寺に法縁をえて、たまたま勧請された珍しい「七面千手観世音菩薩」（奈良
時代前期作）も、まさしく、古代の神々である七大天使を暗示し、アバロキテイシュバラ（観自在菩
薩）はアポロンを暗示し、観音の頭頂阿弥陀仏はアポロンが啓示を受けた無量光仏アミー・アーメン
を暗示し、ヤハウェー、エホバ（モ－ゼ）とメタトロンの三側面（ロゴス）の相似象ではないかと思
います。

　究極は太陽神（大日如来）すなわちエル（光・一者）なのですが、仰げば太陽ですがその光そのも
のは時空を超えた不生・沈黙（寂滅）ですから、「見るもの」と「見られるもの」の二元性では把握
できない「全一」なる本不生の海にあって、「本質を失いたる波よ、泡よ鎮まれ、自己の本質に目覚
めよ。」と、覚醒を促す応化身なのでしょうか。

　そういえば、孔雀明王は孔雀が猛毒を持つコブラを食べるように、あらゆる煩悩の悪龍を退治しま
すが、ミカエル大天使長も不動の剣をもち悪龍サタンを退治します。人類全意識の根本煩悩アーラヤ
シキを超えることを暗示した相似象なのかも知れません。（これは小生の粗雑な幻想にすぎません
が・・・・・です。）

法圓寺の孔雀明王

いまこそ　『般若理趣経』から本不生を学ぶ　

法座資料：『般若理趣経　本不生　龍雲編』←ここをクリック

『現代における般若理趣とは』←ここをクリック

　数年前、ある方が,突然,訪ねて来られ、こんな話をされた。
　
　「自己評価は低く、疎外感がばかりが募る環境で育った小生にとって、唯一、自分のよりどころとしていたのは見えない神
仏への信仰によって、自分の存在意義を見いだそうと必死だった。
　だが、情けないことに、いつまで経っても、自尊心を強化するばかりで、そのたわいもない幻想を現実逃避として生きてき
たように思う。
　あるとき、そう、それは、一瞬の出来事だった。だが、それは、自分のこれまでの人生を覆す大きな出来事に遭遇してしまった。
　自分の悪業は深く、おのれがしでかした事により、いかんともしがたい窮状に追い込まれた。
　しかし、こういうことは人生でしばしば遭遇してきたような気もする。その罪業の前に、どうしてこの自分ばかりがこのよ
うな事態に落ちいってしまうのか？信仰を大事に生きてきたはずだったが、それは、一体、何だったか？自分ばかりか、自分のいのちより
も大切にしてきたはずの信仰が、あざ笑うかのようにガラガラと音を立てて崩れてしまった。言い知れぬ闇と、行き場のない苦悩に苛まれ、何
よりも、必死に守ってきたたわいもない自尊心そのものを否定される事態に陥った自分を抱えたまま、なおも、業が深いのであろう、
何事に晒されても、鉄面皮のように、何事もなかったかのように平然といてて生きいる。
苦しみや恐怖、自己嫌悪などには、全く蓋をして、しゃあしゃあと生活をしてきいる。
　このように、自分は赦しがたい全くの偽善者である。

　とはいえ、ぐるぐる回るような恐怖と葛藤に苛まれているのは事実であり、憔悴しきっていたのだろう、
ふと気がつくと、寺の本堂に上がり込んでいた。たまたま通りがかって寺だったが、本堂が戸が開いており、引き込まれるようにして、
上がり込み、拝んでいる自分があった。むろん、わらをもつかみたい心境だった。が、いまさら、こんな悪業深い自分が仏様に扶けてもらおうなどと、
一体、どの面下げてお願いするという思いだった。そういう思いとは裏腹に、ただ、もう、誰にも会いたくない気持ちが強かった。
少しの間だけでも、どこかに隠れたかった。

　たまたま通りがかりの寺だったが、中に入ると、妙に落ち着くような気がした。しばらく佇んでいた。

　薄暗がりの中、ご本尊の前で、ただボーッとしていたが、ふと、経机の『和文般若理趣経』に目が止まった。
　折りたたみの経本で、だいぶ読み込まれたものらしく、所々破れそうではあった。
　無意識に、何気なく、その経本を手にして、眺めているうち心で読み始めていた。
　一字一句が心に飛び込んでくるように思えた。というより、経文のある一節に、心に留まり、
　それが、ただ有り難くて有り難くで、身に沁みるものがあったのだ。

　経文そのものは難しいものだったが、自分のような罪業極まりないものに、どこか響くものがあり、身も心も打ち震えていた。

　般若理趣経は、この救いがたい者には全くお構いなしで、ひたすら、悪業深い人間でも見逃さないぞという、いいようのない慈
悲の深さに、沁みいるばかりであったのだ。

　もちろん、だからといって、これまでの自分の罪深さが消るわけではない。しかし、絶望のどん底にあるものが、かすかな
光を見いだし、心底、救われるような思いがしたのは事実であった。

　これは何という経典であろうかと思い、表紙を見ると『般若理趣経』とあった。

　このような尊い理趣経に巡り会えて、本当に有り難かった。

　いま、あらためてあなたのお寺にお参りして、ご本尊にお礼を申しあげたかった。

　どうか、小生のような罪業深いものにとって、この理趣経はかけがえのないものである。仏教に対して全く無知なものであ
ってもこの経は救いの手を差し伸べるかのように、慈悲の響きを響かせてくれる。
　このことを、あなたにお伝えしたかった。」

　と言って、話しが済むと、彼はそのまま黙って帰っていってしまった。

　うっかり、名前も居所も聞かず終いであった。

　辺りは、もう、相当、暗くなっていた。

　般若理趣経は真言宗で、僧侶がとても大切にとなえてきた大事な経典である。ただ、その真実義を理解することは、ご存じ
のように、甚だ難しい。
　彼が寺を尋ねてきてから、既に十数年は経っている。それ以来、この法坐で理趣経を取り上げることにした。東日本大震災
の前年から萬歳楽山山頂で理趣経法の供養すべきことを山自身から促されていたこともあって、理趣経を『ブッダ親説の本初
本不生』を基底に理解しようと、試行錯誤をしてきた。小生浅学非才であり、希有の先達方の識された理趣経和訳などをどれ
ほど参考にさせて頂いたことか。その学究の深さと尊さには到底及ぶべきものは小生には全くない。故に、先人のこうした学
究に深く感謝を捧げたい。

　とはいえ、この法坐資料は、独断的で、披瀝するにはしのびないものではあるが、上記のような、必然性を感じてならない。

　この未熟な法坐資料をもって、ひとりでも多くの方々のご法縁に資せるかどうかはわからない。かえって迷わすことになら
なければと畏れるばかりである。どうか、高徳の諸師には、ご容赦のほどを・・・・

心被授『紅玻璃秘法：無量壽如來観行供養儀軌』龍雲供養法次第

法座資料
①令和五年『無量壽如來観行供養儀軌』心被授の秘蹟（由縁）

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②令和五年『紅玻璃秘法：無量壽如來観行供養儀軌による次第』←ここをクリック

量子力学と祈りのこころ

量子力学と祈りのこころ
　
　

この寺の境内の一角に隠れキリシタンのマリア観音と目される自然石が残っている。
めったに、訪れる人はいない。たまに隠れキリシタンの歴史に関心のある方が尋ねてこられるのだ
が、数十年に一度ぐらいのものである。しかも、隠れというくらいだからキリシタンの文献について
は、寺には全く残されてはいない。桑折町には銀山跡もあり、こうした隠れキリシタンの痕跡はこの
寺ばかりではなくほかにもあるのだが、こうした資料がまとめられた形跡もない。
　しかし、小生にとっては幼い頃から身近なものであった。特に、寺の子供だからと言って聞かされ
た古老達の石にまつわる話しは興味深いものであった。「この石はね。不思議な有り難い石でね。あ
る日のある時間帯にマリア観音様が出現するらしいんだ。」子供が「お爺さんは見たことがある
の？」「いいや、残念だが、見たことはない。しかし、見たという人もいる。どうも、本当らしいん
だ。あんたも、注意して見ていてごらん。」という話を聞かされて、本当にマリア観音様が現れるの
だろうかと、子供心にずっと気になっていた。また、そのような言い伝えを耳にした学者さん方が尋
ねてこられることもよくあったらしい。その度に、その話をしたお爺さんは案内役を頼まれたとい
う。研究者達によって、この石は確かに隠れキリシタンのマリア観音であるとされている。近年にな
ってある研究者からいただいた調査資料を見てみると、当時のキリシタン弾圧は世界的に見てもかな
り厳しい弾圧であったらしい。幕府の上杉藩に対する徹底した手配ぶりが記録されている。
　だが、法圓寺に残るこの石は処刑された殉教者の血生臭は感じられない。むしろ、篤い信仰の安ら
かな響きすら感じる。それは、当時の権力者に逆らうよりも、神の愛を信じる者を同じ家族として見
ていたこの地の人々の深い愛情を感じる。日本人には、どんなものであれ、我がことのように感じ、
また、かみを敬い、祖先に感謝して生きてきた。また、どんな権力もこころの奥にまで踏み込み支配
することはできなかったのであろう。
　おそらく隠れながらとはいえ、救済を願う祈りは、かなり命懸けの真剣なものであったに違いな
い。
　しかし、いまここにある朽ちた石はそのような篤い信仰より、見まもり給う慈しみが漂い、黙する
石であり、祈りの石であった。
　このように石が生きていると感ずることはしばしばであった。しかも、不思議なことに、世界中で
大災害が起こる度に、決まって、マリア観音が石に顕現化するように思われてならない。はっきりし
たヒビキとともに顕在化する。そのヒビキにこころを澄ませると、れたかと思うと、「祈りなさい」
「祈りなさい」「ひたすら祈りなさい」と響いてくる。
　この石の隣にはほかに「雷神」と刻まれた石と風化してまった「古峰ヶ原」と刻された石がある。
また、それらの石の側には権現堂があり、「天神さま」と「秋葉権現さま」と「愛宕権現さま」が祀
られている。これらの神々が祀られる時は、決まって、大災害や大飢饉、戦災などの傷ましい悲しみ
の歴史刻まれている。その地獄の苦しみの呻き声が、いかに、真剣に天地自然や神々に救済を祈って
きたことか。そして、こんにちの私どもに対して、「奢るなかれ。敬虔であれ。神の救済を祈るな
ら、観世音の如く慈しみ深くあれ、神の子を愛するマリアの如く互いに愛せよ」と響いてくる。この
ヒビキはこんにちますます強くなっている。
　そういえば、数日前、量子医学が専門という医師方が、この隠れキリシタンのマリア観音のことを
耳にして、お参りされている。その方々の様子から、ふと、この方々は紛れもなく隠れキリシタンの
マリア観音のヒビキと同調している人たちに思えた。人類救済のかみのこころ、慈愛の担い手として
同調し、苦しみの現場に顕現している方々であった。たしかに、そう思ったのである。彼らは語る。
量子力学は物理学として神の領域、こころの領域、祈りの領域を解明しつつあり、人類の真の救済に
導くものであると確信すると。
　この医師達の思いがけない最先端の高度医療の現場の話を垣間見て、確かに、これまで、科学と宗
教はカテゴリが異なるとされ、科学者が宗教や神秘主義に立ち入ることはカテゴリー違反とされた時
代は終わり、宗教と科学は万物の理論として量子力学の進展によって確立される時代に入ったのかも
知れないと実感した。
　宗教はいかに貴いものであっても、人間の独善性によって世界を破壊している。しかし、苦悩の現
場で常に人々とともにある者は、まさに、菩薩であり、救済者である。
　その、苦しみの現場の最先端で働く医師たちの熱い話に触れ、こころが打ち震える思いであった。
　彼らが去っ後の余韻が残る中、ふと、あらためて隠れキリシタンの石の前で佇んでいた。すると、
黙する石が、こう語りかけてきたような気がした。
　石といえどもこころがある。それは量子力学によって明らかにされている。電子といえども個性を
持っている。ミクロ宇宙においてもマクロ宇宙においても、全ては個体としての意思（こころ）を持
ち、対話をしながら、全体として統合されている。しかし、意思は人間の頭脳における意識とは異な
る。意識は記憶と経験における虚妄性にすぎない。意思は、脳に依らない個体そのもののいまここに
おける直接のこころである。
　宇宙のあらゆる個体は全て個体同士、いまここの場（ネットワーク）を介して刻々に互いに個とし
ての心を持つが故に、「対話」により通じ合っている。この対話の本質はそれぞれの個体が完全な個
体であるが故に、他の完全なる個体と対話をする。不完全で分断したものはすでに個体としての顕現
は止まり、分散消失するのみであるから、存在できないことを示している。
　全宇宙におけるこれらの個の対話は、宇宙のあらゆる階層で共有している「光子」によって行われ
る。この現象界は局所性が個体化したものである。干渉現象（波性）はこの個体の対話の結果によっ
て生ずる属性といえる。また、局所性と遍満性の対話（互換重合）の結果として、万物が流転する
が、人間の脳が把握し、外界に投影する虚妄の実体の流転を指すのではない。さらに大事なことは、
いかなる個体も意思を持ち、その意思は宇宙の意思と同通しているが故に、間違いなく「あなたは世
界であり、世界はあなたである。あなたの意思は、あらゆる宇宙に影響を与えている。世界を滅ぼす
ことも、世界を救うことも、あなたの意思如何にかかっているといえるかも知れないほどだ。その意
思とはこころである。そのこころはイマここに祈りとなって響いている全宇宙の意思である。」
　故に、この隠れキリシタンの石の沈黙の祈りは、全宇宙の調和への祈りであり、量子力学が新たな
時代を切り開く祈りであり、日本の令和という新しい時代の祈りであり、世界平和を切り開く祈りと
して相似性の如く全宇宙に呼応しているに違いない。
　　　　　　　萬歳楽山人　龍雲好久

量子論のコペンハーゲン解釈と阿字本不生を考える

　量子論のコペンハーゲン解釈と阿字本不生を考える。

　こんにち、天才科学者たちが連綿として、それこそ生涯をかけたいのちがけの研究を通して、次第
に解明かされつつある「量子論の世界」は、これまで対立してきた物心二元論に終止符を打ち、新た
に物心一如の統合理論や万物の理論の構築を垣間見るところまできているといわれる。
　いまから30年ほど前に、フィッチョ・カプラという物理学者が物理学上のターニングポイントと銘
打った”コペンハーゲン解釈”はこれまで垣間見ることさえ出来なかった量子論の驚くべき世界へと
研究が進み、一部で、「物理学はすでに神の領域に研究に突入した」と叫ばれていた。あれから、久
しい。その間、量子論の研究は科学者たちにより、飛躍的に進み、その科学的検証を通じて、実にあ
らゆる分野に渡り量子論の研究成果が上がってきている。中でも、日本の研究者の功績は著しいもの
で、ノーベル賞の受賞となって、世界の研究者から高い評価を得ている。
　小職はそういった科学には門外漢であるが、科学者達の生き生きとした説明の様子などを垣間見る
と、壮大なマクロ宇宙にしろ、ミクロ宇宙にしろ、わくわくするものがある。
　実に、科学者の真摯な研究姿勢に感動すら覚える。
　
　それはともかくとして、その量子論の基礎理論に次の５つのものが上げられ、非常に興味深い。

１、光は波動性と粒子性をもつ。
２、電子も波動性と粒子性を持つ
３、一つの電子は複数の場所に同時に存在できる。（電子の状態の共振性）
４、電子の波は観測すると瞬時に一点に縮む。（電子の波束の収縮性）
５、電子の状態は曖昧である。（電子の不確定性原理）
６、人間の心こそがこの世を創造する。（電子論的唯我論）

　そして、その量子論から次の幾つかの興味深い解釈が導き出されている。

１、ミクロの粒子は心を持つ。
２、人間の心が現実を創造する。
３、自然と人間は一心同体で以心伝心する。
４、空間は万物を生滅させる母体である。
５，万物は空間に同化した存在である（同化の原理）
６、空間のほうが物質よりも真の実体である。
７、物質世界のこの世が空間世界のあの世に、空間世界のあの世が物質世界のこの世に変わる。
８、実在は観察されるまでは実在ではない（自然の二重性原理と相補性原理）
９、光速を超えるとあの世に瞬時に渡れる。
10、未来が現在に影響を及ぼす。（共役波動の原理）
11、この世は全てエネルギーの変形である（波動と粒子の相補性)
12、宇宙の意志が波動を通じて万物を形成する（波動の理論）
13、祈りは願いを実現する。

　以上は京都大学名誉教授岸根卓郎教授の『量子論から解き明かす「心の世界」と「あの世」』から
引用しているのだが、宗教や哲学に親しんでいる人文関係の人々に通ずる内容となっている。
　量子論もここまで来たかとかと”コペンハーゲン解釈”の科学者たちが驚嘆したのも無理は無いな
あと感ずる。
　繰り返すが、爾来、量子論は未知の分野にどんどん切り込んでいく。
　しかし、あくまで自然科学という立場での真理の解明を目指していることには変わりない。様々な
天才学者のお互いの課題にいのちがけで挑戦し、探求し続けている。この、天文学のマクロな宇宙か
ら、不可視の素粒子にいたるまで、飽くなき探究は続く。そのような中で、上記のような解釈が科学
的に取り沙汰されてきたことはきわめて興味深い。

　もちろん、このほかにも量子論に関する説が幾つかあるが、西洋の物心二元論の解釈はいずれも壁
にぶつかってしまっている。カプラが仏教や道教にそのヒントを求めようとしたのも、量子の世界が
実に類似しているように思われたからであった。あれから科学は更に進展し、岸根教授が紹介する上
記の理論も様々な科学的検証が加えらている。

そして、その検証に晒されているものとしては、岸根教授の採り上げる「電子論的唯我論」、「自
然の二重性原理と相補性原理」、「共役波動の原理」、「波動と粒子の相補性」などである。これら
を検証する新たな量子論はブッダの親説により近いものであるようだ。

　では、この量子論の”コペンハーゲン解釈”は「ブッダ親説阿字本不生」からみるとどうなるの
か。

　量子論の”コペンハーゲン解釈”を精査すると、「波動性」は「本不生」を指し、
「粒子性」は「虚妄性」を指していることであることは歴然としている。
　
　結局、最先端の量子論が究極的に解明するものは「阿字本不生」にほかならないのかもしれない。

　ともあれ、量子論の基礎にも、阿字本不生を踏まえておかないと、虚妄なる世界を実在と見誤り、
量子の時間と空間を超えた先験的真相を把握し損ねて、疑似科学に陥らないとも限らないのではない
かと、門外漢ながら案ずる面もある。

　ブッダ親説の「外界における〈変動〉は、過去と未来の境の〈今〉に位置して〈経過〉し、消失し
て、常に改まっているので、無常な外界は〈今〉静止したものとして成立しないまま〈経過〉し、消
失する。知覚原因は外界にある静止した対境ではないため、我々には捕捉されない。したがって、表
現されることもない。」
　ブッダが指摘されたというこの一点をきちんと抑えられなければ、上記の量子論から導き出される
「心」・「空間」・「あの世」の真相を見誤り、物心一元論と言いながら「色即是空」の誤った理解
や解釈を加えることになりかねないのかもしれない。

　さて、量子論の行方は、宇宙の真相、万物の理論を解明する上で不可欠のものであり、科学の探求
の眼差しが、万人にとっても、見えざる真理への糸口になれるのではないかおもうのは、宗教的愚鈍
者の懐く、おごりと妄想なのであろうか。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　萬歳楽山人　龍雲好久　　　　　
　　
　

『エノクの鍵』に関する考察1

　ここでとりあげている『エノクの鍵』（J・J・ハータック著　紫上はとる、小野満麿訳ナチュラル
スピリット出版）は2010年12月も中頃、池袋のブックセンターで、いつもの如く「今、手にすべき相
応しい本があればお示し下さい。」祈ってから、最初に目にした本としてと購入した。

　しかし、小生にはこの手のものは『ブッダ親説の般若論』の見地からすれば、全くの戯論の類いと
して扱われるのだが、祈りのあとに手にした著書であるので、それはさておき、少し目を通してみ
た。
　驚いたことに、その書き出しは、かつて、昭和51年4月に小生の恩人である高橋の特異な体験の内
容に究めて酷似していた。読み進めるうちに、その内容は予想を遙かに超えた驚愕せざるを得ない内
容であった。

　酷似しているとはいえ、描写される書き手や語り手の宗教的基盤が異なるので、もちろん、全てが
同じでというわけではないし、小生の思い込みによって両者を酷似していると感じただけに過ぎない
のかも知れない。また、直接、彼らは尋ねてみたとしても互いに、知らないものだというであろう。
高橋は昭和51年にすでに他界しているので尋ねようもないが・・・
　
　しかし、小生にとっては、見えざる世界に関する描写が酷似していると感じてならず、こうした見
えざる世界の描写の信憑性はともかく、こうした描写の背景は、酷似するものがあるとすれば、一
体、どこから来るのであろうか。もちろん、両者とも、この地上に残る共通の文献に依っている訳で
はない。

　それにしても、当時、高橋が直接小生に語っていたという事実がなければ、まず、宗教観の異なる
世界のものであるので、せっかく手にしても、書棚にそのまま置いたであろう。

　はじめに、驚愕した内容は、奇異な内容ではあるが、殊に、イエスやモーゼのほか、ミカエル等の
七大天使など9人程の評議会の描写のところであった。これらの描写に懐疑を懐かない小生の資質が
問われるのだが、単に、小生思議の及ばない貴いものに対する畏敬の念からにすぎない。。

　しかし、これまで、これらの描写は、小生の感受能力の範疇外にあり、高橋を含めこの手の話に
は、「ブッダ親説」によれば、バッサリと切り落とされるように見えるので、あまり取り合わないで
きた。
　
　だが、しかし、この書を手にした翌年、2011年3月11日に、東日本大震災が起こり、日本は未曾有
の危機に直面してしまった。

　小生が、無視できないのは、その前後に、まるで、それを予見するかのような様々な「霊峰萬歳楽
山」の開放や「氷の聖像出現」などの不可思議な現象との遭遇であり、どうも、小生の思議の及ばぬ
ところで「何かが起こっている」という実感があった。
　
　その後、令和に至る間、氷の不可思議現象はこの寺で頻繁に顕現し、その造形は、幾何学的造形が
主流になってきている。この造形はもちろん人間が人工的に作ったものではなく、自然がもたらした
造形である。災害などを予見するかのように出現する不気味さは、何とも表現しようがない。
「これは何か見えざる世界からの伝言であるのか？」と、心のどこかで気にかかるものがあった。
　そのような中での、この『エノクの鍵』が、どうも、その問いに応えられる内容のものかも知れな
い。この不可思議な現象の根幹に光を当てているものかも知れないと思えるようになってきた。

　更に、近年、小生はこのような不思議と言わざるを得ないような導きによって、その導きに一貫し
て流れるものが「マカバ」と「メタトロン」にあるように思われてならない。
　
　頻繁に出現する氷の三角四面体の謎を解くため、色々と調べていると、『エノクの鍵』のほかに、
楢崎皐月の『日本の物理学』。ナシームハラメインの『新宇宙論』があることに気づき、さらに、い
わゆる、マクロ宇宙とミクロ宇宙の統合的見解やプロテノスの一者が浮き彫りになってきた。

　昭和51年、恩師高橋が、あの不思議な話をしたのち、「『ロゴスの世界』という本がある。キミは
それを探して読んでおくとよい。」という話があったことを思い出す。高橋は理工系でコンピュータ
関連の会社を経営しているのだが、その見えざる世界に関する彼の不思議な能力は、究めて驚異的な
ものであり、小生は、不思議なご縁で、ほんの僅かではあったが、彼の様子を間近で目撃していたの
である。
　そして、確かに、この本は出版されていた。

　さて、空海の真言密教根幹にある万物の理論の統合性やケンウィルバーの『万物理論』などが展開
する立場が重要なのかも知れない。
　それにしても、この方面の不毛とも思える探求に駆り立てるものはまさしく『氷聖体出現』の謎で
ある。このような経緯もあって、今後、「ブッダ親説の先験なる本不生」と彼らが描写する「見えざ
る世界」の欺瞞性を打破したうえで、統合できるかできるかどうか、可能であれば考察していきた
い。

考察中の資料その一

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本初不生の佛心行

『本初不生の佛心行』　　　　　　　　　　　　　　　　　　龍雲好久　編

【はじめに】

　『心行』という経典があって、これは、小生が学生の頃、或る恩師から修行の糧にと頂いたもので
あった。修行の合間に、時間を作って、読誦していたのだが、しかし、この『心行』は和文ではある
ものの、今ひとつわからない、不明なところが多く、釈尊の正法の原典を現代文で説いているとは聞
いたが、小生が学ぶ過程にあった仏教学や真言密学とは著しく異なる内容であった。
　しかし、思議の及ばざるところのものとして、思量せずに、ひたすら、頂戴受持していたのである
が、行中に不思議な体験をした。瞑目しながら真言を繰り返し誦じていたところ、突然、視界が開か
れ、何と、そこに、幼少期の自分の姿を見た途端、側にいる母の温もりも声も香りも、まるでその場
にいるかのようによみがえって来るのである。木々も家屋も風のゆらぎも木の葉にゆれる光の輝きも
小鳥や虫の音も、リアルに感じている当時のままの感覚であった。しかも、その自分を含め、そのと
きの状況がまるで三次元の映像を見ているかのように見ている自分もあった。僅かな時間ではあった
が、自分のこれまでの生涯が走馬灯のように現れ続け、21年の生涯のすべてを一瞬のうちに辿った。
　これまでの自分の生涯は疎外された不遇の生涯であると思っていたのだが、不思議に、このとき、
その疎外感は全く無く、否、それどころか、いかに父母をはじめ多くの方々からお世話になって、今
日に至るを得てきたことかが、深く感じられ、どうしても涙が溢れ、溢れてならなかった。
　この不思議な感覚は、この世に生を受けた自分が「どこから来て、どこに向かうのか」、前も前も
全く真っ暗ではかり知れぬ恐怖のようなこれまでの無意識的な感覚とはうって変わり、自分自身が、
両親を縁として、「慈愛に満ちたはかりしれない世界」から「この世」にもたらされた「かけがえの
ない生である」という不思議な感覚に充たされていた。

　この世の縁のみならず、すべては深い深い縁によりもたらされているという実感であった。

　このとき、初めて、『心行』にはそのことが記されていると気づいた。

　しばらくして、わが高齢の恩師にともなわれ昭和45年4月8日、『心行』を著された当の教師に直接
まみえることができた。それは、これまでに経験をしたこともないような摩訶不思議な邂逅となっ
た。驚いたことに、その教師は、小生のすべてを見通しておられるかのようであった。
　しかも、具体的に深い縁生について明かされ、あらゆる人々の生を導いているただならぬ縁生の働
きについて、教えて頂いた。
　
　しかし、昭和51年6月、この貴き恩師は、あまりにも若くして他界されてしまったのであるが、そ
の亡くなる直前、その恩師の事務所で、たまたま独り仕事手伝っていた小生の側に来られて、或る不
思議なことを語り聞かせて下さった。
　それは、「壮大なる宇宙の進化のプロセスと天上界の秘儀のこと。更に、今、人類は大転換期たっ
ており、人類の傲慢さによよって自ら滅びるか、逆に、この危機に際し、人類の意識の変容を起こ
し、宇宙的大進化の端緒につくるかの瀬戸際にある。天上界の大天使達は人類の危機を「最後の晩
餐」となるか、「最初の晩餐」となるか、非情な緊張感を持って見まもりながら、対策を講じるため
に天上界における評議会開いてきたという、不可解な話であった。
　
　残念ながら、程なくして、恩師は他界されてしまった。小生のほかに、このような話を直接聞いた
ものは少なかったようだ。この話は、ことさら取り上げられることもなく、いや、むしろ、奇怪な話
として回避されてしまった。

　小生自身も、このことは思議の及ばざる内容であったので、話すことはあまりなかった。

　しかし、東日本大震災の直前。平成22年12月、たまたま、JJハータックの『エノクの鍵』の翻訳本
を手にすることがあり、24年前の恩師の語っていた内容とあまりにも酷似したものであったので、腰
を抜かさんばかりに驚いてしまった。都内の書店で釘付けになってしまった。

　おそらく、この両者は同じものを見ていたのであろうと思われる。もちろん、同じものとはいって
も、この世のものにはあらざるもので、思慮分別の及ばざる　超論理のものであるので、小生には、
その真偽の程はうかがい知るよしもない。
　
　しかし、その内容は、あまりにも具体的に一致しているとことが多かった。
　もちろん、感受するものの条件付けや、語るものの条件付けがどうしても働いているので、その表
現の違いは大きいものがあるのだが、その伝えんとする内容とその構造は極めて相似していた。

　この恩師や貴きご法縁の尊師方にあやかってすでに、五十年はゆうに過ぎてしまった。小生　未だ
　得がたき恩師方のさとりをいささかも体解することもできず、この生を終えようとしている。

　恩師方のご恩に報ずべきもの何も持ち合わせぬ愚者ではあるが、恩師の『心行』を核とし、貴い恩
師方の不可思議なる邂逅によろ御導きのようなものを大事におもうあまり、『本初不生の佛心行』と
して宗教的境界を統合し、自身の探求の縁としてきた。

　かかる、不遜の思なれども、恩師の『心行』は、いささかも動ぜず、核心の威光をますます耀きだ
したるは　なお、驚嘆すべきものがあると言わざるを得ない。

　イマ、それこそ、世界は新型コロナウィルスの感染の問題に直面し、非常事態にある。

　このようなこともあって、不可思議なる如来性の御導きとご加護を頂戴できればと念じつつ、微少
なるものの願いをこめて、『本初不生の佛心行』を編じさせていただいている。
　
　しかし、『心行』は真言伝持の法燈外で頂戴していたものであることをお断りしておく。
　
　また、『本初不生の佛心行』は特定の教義を宣揚するものではない。小生自身が探求の途上のもの
である。
　これまでお導き頂いた法縁の教師のものをなんとか統合できないものかということが、小生の正直
な思いである。
　
『本初不生の佛心行』　

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